失われたイラクの手仕事 マーシュアラブの刺繍布1.
Posted by tribe on 2015年2月14日
今一番新しいのは、モダンライフにラフで陽気な世界の民芸(手仕事)を組み合わせたインテリア!
上は2月10日発売のCasa BRUTASの最新号「世界の民芸と、スタイルのあるインテリア」特集号のヘッドコピーです。
30年待ちに待っていたチャンスついに到来か?!
これまで紹介し続けて来た、世界の部族の手仕事がやっとこさメジャーになるかもしれません。このところは他の雑誌やテレビのCMなどでもじわじわと紹介されつつあったキリムやラグ、アフリカンのアートなテキスタイルなどなどが、センスのよいインテリアの実例とともにたっぷりと紹介されています。
注目のデザイナー・クリエイター・アーティストが最も影響を受けた世界の民芸とは?
世界各地のセンス溢れる人達とその自宅が50ページにわたって詳細に紹介されているのですが、真っ先に目に飛び込んで来たのはP54.ロサンジェルスに住むデザイン集団communeの一員のRoman Alonso氏自宅です。
アロンソ氏のリビング全体に敷かれているのがイラク南部の湿原で生まれた『マーシュアラブの刺繍』で、この部屋全体がとても効果的に演出されています。さすがcommuneの一員の言葉として「人は暮らしの中で自分らしさを見つけていくもの。暮らす人の好きなが集まった空間は、その人を通じてつじつまが合う。だから好きなモノに囲まれて暮らして下さい。」仕事や旅や日々の生活を通じて「縁」のあったものや人に関係するオブジェが住空間を彩ります。全く共感します!!!
とにかくとても心地良さそうな空間です。
そしてそれを演出している小道具の一つが失われたイラクの手仕事とバルーチ族のサドルバッククッションではないかと感じました。ブルータスのキャプションでは「尊敬するデザイナーのエステートオークションで入手した思い入れの深いインドの布」とありましたが間違いなくイラク南部幻の布マーシュアラブの刺繍と思われます。
メソポタミア文明の末裔 マーシュアラブ(湿原に暮らすアラブ人)
マーシュアラブとはイラク南部にかつて存在した世界最大規模の湿原に暮らす先住民族で、現地ではマアダンと呼ばれる、特殊な環境に適応してきた独特な文化と精神性を備えた人々です。
今から30年程前に独裁政治を行ったサダム・フセインによりこの地域の上流にダムが建設され世界屈指といわれた湿原や多様な生物が暮らす干潟の多くが失われてしまいました。
その後も1970年〜はイランイラク戦争、1990年代は湾岸戦争、2003年のイラク戦争そして現在はISISの進出などその後は常に戦闘の脅威にもさらされています。湿原のマアダンの人達もあちこちに拡散し生活の場を失いそれは現在も続いていることでしょう。
世界最古の文明の発祥地、チグリス川とユーフラテス川が交わるこの地域はメソポタミア時代から続く暮らしが残されていた地域です。湿原が失われる以前の豊かな暮らしを知るには、「湿原のアラブ人」ウィルフレッド セシジャー (著), 白須 英子 (翻訳), 酒井 啓子(解説)がお勧めです。4000年近く続いて来たと想像できる、水牛の放牧と魚や水鳥などを狩猟採集するマアダンの暮らしぶりが丁寧すぎるほど綿密に記された、冒険記です。
Galden of Eden アダムとイブの暮らしていた楽園とは?
NY大学の先生であるEdward L. Ochsenschlager氏は1960年代からこの地域に何度も足を運び数ヶ月も及ぶ現地調査を行ってきたようです。外来の者を拒む厳しい環境のなかフィールドワークを続け、素晴しいレポートを残しています。『Iraq’s Marsh Arabs in the Garden of Eden』ではこの地域を『エデンの園』と位置づけています。詳細な現地調査に基づく斬新で興味深い報告と検証は失われてしまったこの地域を知る貴重な証として興味深いです。同時にアメリカで出版されているラグ愛好家の雑誌『Oriental Rug Review』にも特に絨毯・キリム・刺繍布について詳しく特集記事が組まれています。
これまでに50点以上のオールド・マーシュアラブを集め、何度か展示会も行ってきましたのでこのブログでも引き続き紹介してゆきたいと思っています。
引用:月刊『カーサ ブルータス』http://magazineworld.jp/casabrutus/