「よく晴れた日にイランへ」 蔵前仁一さんのイラン旅行記
Posted by tribe on 2015年6月17日
このブログでも何度かイランという国が誤解されている事を紹介してきましたが、「よく晴れた日にイランへ」はそれを証明するような現代のイランがどういう国なのかがよくわかります。
旅行人という旅行関係の出版社を運営し伝説的な「旅行人」という雑誌を出版されていた蔵前仁一さんは、多くが認める旅のスペシャリストであり、インドの奥地やアフリカなどという「秘境」を現地の生活にふれながら旅する達人としてその世界では知る人ぞ知る旅行人です。
そんな蔵前さんが24年ぶりに訪れたイランがどのように変ったのか?変らなかったのか?絨毯やキリムと遊牧民についてのためになる情報もしっかり含まれています。
トライバルラグとの出会いからイランへ旅立つ?
蔵前さんとはこの本を出版される半年程の展示会で知り合いました。
ふらりと展示会場へ現れて、トライバルラグや最近のイラン事情、遊牧民は今でも遊牧生活をしているのかなどという話をしました。帰り際に住所を聞いたところバックパッカーの達人であり、旅行作家の蔵前仁一氏だいうことがわかりました。アフリカのガイドブックを書いた編集者の知人から終了してしまった「旅行人」という雑誌を紹介してもらい愛読していたので、蔵前さんの名前は直にわかりました。
その後も最新のイランについての情報交換や、一月にわたるイランの旅の途中からもメールでキリムや絨毯についてのやり取りがありました。
この本の初めに今回のイラン行きのきっかけのひとつとして、トライバルラグを購入することとそれを織っている遊牧民と出会う事が目的である事が述べられています。同行された奥さんも昔から大の布好きなようです。旅人としての経験と直感から、きっと面白いキリムやラグを見つけてくるのではという期待を持ちながらこの本の出版を待っていました。
実際に出版せれてみると旅行記や雑誌などには珍しく、本格的なトライバルラグがカラー写真で9枚ほど紹介されています。
ハマダーンの「親切なイラン人」
目次にハマダーンの「親切なイラン人」という章があるのですが、この章以外にもたくさんの親切で少しおせっかいなイラン人との出会いがたくさん紹介されています。ハマダーンは個人的にも好きな町のひとつなのですが、この本で紹介されているトピックと似たような経験をした事がありました。蔵前さんご夫妻がクルド人のサナンダジからハマダーンへ向かう途中ミニバスのターミナルから町へと向かうタクシーが高いので、ターミナル周辺を歩いていると「親切なイラン人」が登場し日本語で話かけられ、ガイドブックには載っていない高級ホテルを紹介してもらい、さらに価格交渉までしてもらって、イラン人並の価格で宿泊してというエピソードが紹介されています。その「親切なイラン人」氏はかつてに日本に滞在した事があるようで片言の日本語や地名を知っていたようです。
私もハマダーンへ初めていった時にバスターミナルからタクシーで偶然に水戸に2年程暮らした事のある運転手に出会い、現地人しかしらないような綺麗で格安なホテルを紹介してもらい、翌日はハマダーン周辺を日本語による観光ガイドをしてもらい、この地域の名物であるダンダンカバブ(骨付き羊肉)をごちそうになり、一般的なタクシーの料金しか受け取らなかったというハマダーンの「親切なイラン人」経験がありました。
実際にイランでは英語教育が無いため、特に地方では英語より日本語を話す人と出会う事が多くあります。これはバブル時代に大勢のイラン人が日本に出稼ぎに来ていたからでしょう。
24年前と現在のイラン事情
蔵前さんが以前に旅した24年まえのイランについては「旅で眠りたい」という新潮社から出版せれている本にも紹介されていますが、1990年当時のイランはイランVSイラク戦争が終結して間もない頃で、経済状況が極めて悪く、国内をまとめるためにもかなりイスラム色が強かった時代です。有名な「革命防衛隊」=コミテが一般市民の生活や風紀にもかなりコミットしていました。特に欧米人には注意を喚起するようなトラブルが多く、知り合いのイギリス人がシーア派の聖地マシャドで、ただ道を歩いているだけで石を投げられてと言っていました。アジアを横断するバックパッカー達にもすこぶる評判の悪い国のひとつだったと思います。
この24年間で何が変ったのかと言えばシャリーヤというイスラム法が国の法律の根幹でありながらも、市民生活の自由度ははるかにゆるくなったと感じていましたし、蔵前さんの旅行記にもそんなエピソードが度々登場しています。
私も1988年から27年間ほぼ毎年のように訪れていますが、色とりどりスカーフからほぼはみ出している、カラーリングしている女性の髪の毛などにそんな変化を感じています。
もうひとつは生活物価ですが、これはほぼ10倍になっているかもしれません。24年前のバブル末期比べるのは無理があるかと思いますが、ほぼ変っていない現在の日本と比べると大きな差があるように思います。絨毯の価格も特に新しいペルシア絨毯の価格の高騰はびっくりするほどで、半年で倍の値段になる事も当たり前のようでした。在日の多くのイラン人絨毯商がイランに帰ったり、他の仕事の鞍替えしたりするのはとても良くわかります。
ただ変っていない部分も多く、西洋音楽の規制や町中で集団で踊るなどの行為は警察の取り締まりの対象になっています。最近もテヘランの若者達がF.ウィリアムの『ハッピー』に合わせて歌って踊る動画をYoutubeに投稿しそのうち男女13人がテヘラン警察に拘束された事件がありました。蔵前さんはイラン人の若者達に合う度にこの逮捕についてどう思うか聞いています。そのなかで英語を話すイラン人の若者は、踊ったくらいで逮捕されるのはばかげているが、「女性がスカーフを被らないで公衆の面前で踊るのは違法行為なので仕方が無い」というものでした。これが現代イランの本質をついているのかもしれないと思います。特に大都会であるテヘランでは携帯電話の普及率も高く、最新のPCやスマートフォンが何故か他国より安く入手出来ます。これからイスラム法の社会生活と止められない世界均一化とをどうバランス取って行くか見守っていきたいところです。
1979年に起こったイランイスラム革命から35年、それ以前の欧米文化を取り入れていたパーレビ時代を鑑みると、この40年間で大きな変化を経験した国と言えるのかもしれません。
現在の日本に近い自由で規制の少ない社会から、自らが数百年前の封建時代のような古典的な社会に変革し、厳しい戦争を経て、現在のようなしっかり自国の文化を持ちながら、異国=グローバリゼーションとどう付き合って行くのかを模索する、したたかさを持つ国といえるのでしょうか?
蔵前さんの旅行記にはとても親切丁寧に、お勧めのホテルや交通機関の相場などが記載されています。時間が止まったような中世と現代が同居するイランへ旅して欲しいと思います。
参考文献&写真引用:「よく晴れた日にイランへ」蔵前仁一著 旅行人
「旅で眠りたい」蔵前仁一著 新潮社
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【出版記念講演会のお知らせ】*事前の申し込みが必要です。
日本イラン文化交流協会 平成27度第1回会合 6/21(日)
蔵前仁一氏講演「気ままにイランを旅する」
世間ではきな臭いイメージのあるイランですが、実はかなり自由に旅ができるのです。そのイランを一カ月、列車やバス、ときには車をチャーターして、遊牧民を探しに行ったり、ザグロス山脈の山奥の村を訪ねたり、あちこち旅してまわりました。24年前に訪れたときとどう変わったのか、比較しながら現在のイランをご紹介したいと思います。 蔵前仁一
日時:6月21日(日) 午後2時~5時 (午後 1:40受付開始)
講 演:午後2時~3時30分(4階セミナールーム)
懇親会:午後3時50分~5時(8階)
場所:東京外国語大学 本郷サテライト 文京区本郷 2-14-10
交通機関:地下鉄丸の内線・大江戸線 本郷三丁目駅から 徒歩4分 JR御茶ノ水から徒歩10分 http://www.tufs.ac.jp/access/hongou.html
参加費:講演会:1000円(日本イラン文化交流協会会員および学生:無料)
懇親会:会員・非会員・学生共500円 イラン人留学生:無料
※準備の都合上、参加ご希望の方は、6月19日 (金)までにお申し込みください。
※講演会にご出席の方は、必ず懇親会の出欠をお知らせください 定員:40名
【申込・問い合わせ先】 日本イラン文化交流協会事務局 景山咲子
E-mail:farhangiyeiran@hotmail.com