絨毯関係の研究書で急に値上がりした本が「The nomadic people of Iran」というイランの遊牧民研究書だということを、だいぶ前にこのブログで紹介しました。当時のAmazon検索 では、新品は6万円という価格がついていました。(2015/3月現在)
現在はなんと12万円にまで値上がりしています。この価格になるともはや手も足もでませんね。そのなかでも特に充実しているのが、ロル/バフティヤリーの研究です。今回は特別にその一部を翻訳して紹介させていただきます。
「The nomadic people of Iran」 by Jon.Thompson 「Nomadic peoples of Iran」
イランの遊牧民を文化人類学者が解説した遊牧民研究書から
ジャン・ピエール・ディガール著
バフティアーリ族の生活領域
バフティアーリ族とカシュカーイ族はイランの2大部族である。バフティアーリ族は60万人ほどいて、1970年代にはおよそその3分の1が遊牧民だった。(ツウェルバー系の)シーア派に属し、ローリ語(ペルシャ語と同じくイラン語の北西グループに属す)を話す。定住したバフティアーリ族はフェリダンやチャハール・マハールからイスファハン、またフーゼスタン州ではアフワズ南部までの都会や農村地帯に居住している。そのほかの定住民と遊牧民は、西はシュシュタルからラームホルモズまでのデズ河流域、東はダーラーンとシャハレィコルドまでをカバーする約7万5千平方キロの領域に住んでいる。 カールン河の大湾曲部やザヤンデ河の上流地域もその中に含まれている。
過酷なバフティヤリー族の山越えの準備作業
バフティアーリ族の伝統的な生活様式は、モンゴル族の侵略があった13世紀以降ザグロス山地で生まれたもので、トルコ・イラン系の遊牧形態の好例である。現行の生活様式、少なくともつい最近までとられてきた生活様式は、18世紀に益々強まったイラン中央政府からの財政的・行政的な圧力に対応するものとして出来て来たものである。
ロル族のサドルバック
バフティアーリ遊牧民はザルデー山脈(最高点は4,548メートル)の両側にある夏の遊牧地(エイラグ)とザグロス山地の西側山麓(フーゼスタン州の平原の端まで)にある冬の遊牧地(ガルムシール)を移動する。自然環境からいえば、両地域はほぼバーゾフト河の流域に沿ったものである。ゆえにその生活領域は二つの行政区に属することになる。夏の牧草地はチャハール・マハールおよびバフティアーリ州、冬の牧草地はフーゼスタン州にである。
主な季節的な移動でカバーする距離は傘下のグループごとに異なるが、長いものでは300キロにも及ぶ。春には山地に上り、秋には降りてくる。春の移動時の方が牧草も多いし気候条件も良い。旅は15日から45日続き、8日から30日しか費やさない秋の移動に較べてゆっくりしたものとなる。
ロル族には珍しいラクダ毛を使ったギャッベ
移動経路は決して変わることはない。ザグロス山地を越えられるのは、季節にもよるがたった8つから11の峠しかない。遊牧民はいつも同じところに宿営地を設ける。ルートはいずれもその峻険さで有名である。雪が積もった峠を越えねばならないし、狭くて岩石が散在する急流では家畜を一頭一頭背負って渡渉しなければならない。何世紀にものぼる長年の踏破で岩石がつるつるになった険しい尾根を歩き、山地からの雪解け水で増水した川(バーゾフト河やカールン河)では泳いで渡るか、家畜の皮袋に木の枝を結わえ付けて作った筏で渡るしかない。これらはいずれも部族民や家畜に多くの事故をもたらすのである。
羊毛の光沢が美しいロル族のトライバルラグ
バフティアーリ族の生活様式
各キャンプ間の行程は短い。一日10キロを超えることは珍しい。家畜は途中草を食む時間が要るからである。荷造りが終わり、家畜に背負わせた後、女性と数人の男性が次の宿営地を設営し台所を整えるために先発する。秋には時に予定地の水が汚れていたり枯れていることがある。そんな場合は次の宿営地に行かねばならない。方向が違う場合もある。日が沈む前に着かねばならないから足を速めねばならない。
移動が必要になるのは、夏の牧草地(エイラグ)が10月から4月まで雪と寒気に覆われ、冬の牧草地(ガルムシール―文字通り熱い土地の意)が4月から9月までは熱気と旱魃に見舞われるからである。さらに牧草地が集約的に使用されて牧草が無くなってしまうからでもある。だからして、ひとびとはその移動の困難さにもかかわらず、旅を待ち望み陽気にはしゃいで出かけるのである。移動はよりよい物や新しい環境への期待をもたせ、変り映えしない日常生活との一時的な決別であり、祭りや、新しい人との出会いや、旧交をあたためる機会である。
パワー溢れるバフティヤリー族のメインラグ
このようなグループ全体での移動が真の遊牧である。牧童だけが家畜と移動する*トランスヒューマンスと異なるところである。部族の経済活動、ことに牧畜活動は全くこの移動性遊牧のサイクルに拠っている。他の形態、たとえば家畜を一定箇所に収容し牧草を育てるとかトランスヒューマンスを行うなどの新しい形態が目に見える形で確立されない限り、かかる生活形態が家畜を比較的満足すべきレベルで維持する唯一の方法である。
素朴ながら味わい深いロル族?の部族絨毯
*トランスヒューマンス =季節に応じ住む家を変えるということ。
大塚文庫の展示会の残り2日となりました。
ワークショップなど連日多くのお客様にお越しいただき感謝しております。
今回は尊敬するテキスタイル関係のコレクター、研究者、学者、マニアの方等多くの方々との出会いもあり、充実したイベントになりました。
展示会に遊びに来てくれたミーナさん
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ザクロスに暮らす遊牧民のサドルバックがメインです。