旅日記 〜国境を歩く〜 西アジア&ブータン遊牧民の比較

Posted by tribe on 2018年1月13日

2018年最初の展示会の案内です。今年ももどうぞよろしくお願いいたします。

ここ数年お世話になっている、所沢の「folma」さんにて『旅日記~国境を歩く~』という旅を意識した展示を行ないます。
今回の展示会をご一緒させていただくのは、「ヤクランド」の久保淳子さんです。
久保さんはブータンを中心にインド亜大陸のツアーを企画、遂行され、ブータン訪問80回を越える「旅」の大ベテランです。

2000年に「ヤクランド」を設立し、ブータン旅行企画、ブータン染織紹介、旅で出会った人々の交流会を開催しつつ、その記録を「ヤクランド」通信にまとめ発行を続け、現在では80号を越えています。
今回は久保さんと一緒に「遊牧民と国境をテーマに」トークも行なう予定です。
トークの内容はブータンに暮らす遊牧系の人々と西アジアの遊牧民の生活の共通点や違いについてです。

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展示会の案内表面

2018年 1月16日(火)~1月27日(土) a.m.11:00~p.m.5:00 (月曜日 休み)

所沢市泉町914-17千雅堂1階 TEL/FAX 04-2933-6800 田辺さん

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展示会の案内裏面

トークを前に久保さんにクランド通信で紹介して頂いた記事をまとめて紹介したいと思います。
ブータン周辺の遊牧民と西アジア遊牧民の大まかな違いを対比させてみました。
気候風土が違うため家畜、食料、素材などにはそれぞれの特徴が見受けられますが、基本的には厳しい大自然に寄り添いながら暮らしている人たちの姿が見えてきます。

<ブータンと西アジアの環境の違いとは?>

<ブータン>

ブータンは緑は豊かですが、標高が4000m近くある=(大麦と蕪くらいしか採れない)、というのが遊牧民の環境ですが・・

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ブータンの風景

<西アジア>
イラン~アフガニスタンは乾燥地帯で、オアシス都市と乾いた土漠という風土が広がっています。
この地域の遊牧民は山岳と高原という自然環境を生かし、家畜の放牧という営みを選択した人々です。

<家畜の違いとは?>

<ブータン>
高地に適したヤク。バター、チーズは大事な交易品。ヤクの毛でテント、ロープ、衣類など様々な必需品を作ります。ヤクのリーダーは赤いふさふさの飾りをつけます。夏は家から2~3日の牧草地に移動、草地は国の土地ですが、利用権を家ごとに所有しています。冬は村の近くに干し草を食べさせておきます。食料が少ないので乳絞りはできません。
羊(ウール。食用にはしない)を買っているところもあります。

<西アジア>
西アジアの遊牧民の多くは、7000千年ほど前から羊を中心に、山羊等の野生の群れを家畜化したと言われています。
この地域の遊牧民は搾乳と去勢という技術を発達させることで羊などの群れをコントロールすることに成功したと考えられています。
なかでも乳製品と羊毛は彼らにとって大切な収入源です。
敷物、袋物、紐、動物の飾りなど生活の道具と装飾品のほとんどが、自給できる羊毛素材から生み出されます。
羊飼いの仕事とは家畜である羊や山羊に美味しい草を与え、ストレスが無いように大切に育てることです。

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イラン北西部の遊牧民

<定住生活との比較?>

<ブータン>

定住地の村があります。家はとても立派です。遊牧の季節でも家族の誰かが家に残っています。放牧地では必要最低限のものしか持っていきません。遊牧民というと、全財産を常に持ち歩いて移動を続けているイメージがありましたがブータンでは違います。

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ブータンの風景2

<西アジア>
かつては一生を通して移動生活を行なう純粋な遊牧民も居たようです。しかし最近では定住地の村に簡素な家を持ちそこを拠点に夏だけ山に羊を連れて行くという、半定住の遊牧民が増えているようです。イランではこの50年の間に、遊牧民が10分の1に減ったという報告もあります。
政府による定住化政策も大きな要因ですが、遊牧民家族の子供達の教育のため定住する人々も増えました。またイランでは石油生産という経済環境の変化で、石油関連の会社で働き、サラリーを得る男性が増えたことも関係しているようです。

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様々な種類の羊を飼う遊牧民

<遊牧民の食事とは?>

<ブータン>
大麦のツァンパ(麦こがし、はったい粉)をよく食べていましたが、今は馬で運び上げた米をふつうに食べています。村でとれる蕪をチーズ味で煮たおかずをいただきました。
<西アジア>
遊牧民は小麦から作られるナン(イースト菌を入れない)が主食ですが、自家製のチーズ、バター、ヨーグルトなども大切な栄養源です。
家畜をコントロールするためにも使う岩塩も遊牧民には欠かせない食材で、味付けはインドとは違いスパイスはあまり多くは使わないようです。お客様や冠婚葬祭には羊肉とライスも振る舞われますが、大切な財産である家畜を日常的には食べることは少ないです。
新鮮な野菜が少ないため、ドライフルーツや日持ちのするナッツ類、ビタミンの豊富なナツメヤシも好まれます。

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イランの代表的な家庭料理

<どのような交易が行なわれてきたか?>

<ブータン>
限られたもの(乳製品など)の産物しかないので、それを遠くに持っていって必要なものを手に入れる交易がとても活発です。チベットとの国境は閉鎖されていますが、彼らには関係なく、今でもほとんど自由に往来しています。
部屋には鍋が壁いっぱいに積まれていて(写真)、そんなに使わないのに、持っていることがステイタスなのかな、と思いました。

<西アジア>

エジプト、メソポタミア、インダスなどの文明間を繋いでいたのが遊牧民であったのではないかという説もあるほど、遊牧民と交易には切っても切れない関連性があるようです。我々が普通に使う「バザール」という言葉はこの地域の物々交換の「場」から生まれたことは良く知られています。
衣·食·住が揃うバザールの存在は、遊牧民にとって重要な生活の場として機能してきたと思われます。オアシス都市にあるバザールと荒野の牧草地を行き来しながら、交易と放牧を行なってきた人々が西アジアの遊牧民と言えるでしょう。

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テヘランのオールドキリムのバザール

<染めはどのように?>

<ブータン>
オレンジ色の染めを見ました。タデ科の高山植物を使います。媒染剤の葉は徒歩2日の町から運んできます。他の色は昔から化学染料だと言われました。染料もやはり馬で運ばれてきたものです。

<西アジア>
毛織物の多くには赤い色が使われますが、そのほとんどには茜が使われてきました。乾燥地帯の茜は日本茜と比べて濃い色が抽出されるため驚くほど深い赤を染めることも可能です。黄色はカリヤスやターメリック(ウコン)ザクロの皮など多種多様な植物由来の染料がありますが、醗酵という技術が必要な青(藍染め)は、専門の職人さんに依頼することもあるようです。

DSCF0049染料
草木染めに使われる染料

人間は長い長い間移動生活を続け、およそ1万年前から定住生活を始めたと言われています。ブータンとイランやアフガン二スタンの遊牧民を通じて、どうして過酷な遊牧生活(移動生活)を現在でも続けているのか?
現代社会で暮らす私達の定住生活との違いはどこにあるのか? また共通点はあるのか? その辺りを考察したと思っています。

<ブータン写真 はすべてヤクランド の久保淳子さんからお借りしました。>