祈りと道具 〜祈祷用絨毯と塩袋〜 プレイヤーラグその1.

Posted by tribe on 2022年3月13日

厳しい寒さも和らぎ、だいぶ春らしくなってきました。
久々の単独での展示会のお知らせです。

【祈りと道具】

 
〜祈祷用絨毯と塩袋〜 tribalrug collection vol.3

奇しくも同じ造形を持つ遊牧民の塩袋とバルーチ族の祈祷用絨毯。
二人のかたちは共通の「作用」をもつのか?
外でも内でも祈りの「場」となるプレイヤーラグと、形そのものが道具としての「機能」を持つ二つの凸型を同時に並べてみます。

会期:3月17日(木)〜3月21日 (祭日)
時間:11:00〜19:00
(最終日17時まで)
会場:ガレリア・ルーチェ 国立駅北口徒歩2分 国分寺市光町1-43-21
【国立北口モスバーガーの近く】

祈りと道具 〜祈祷用絨毯と塩袋〜

祈りのかたち

バルーチ族の祈祷用絨毯(prayer rug)の多くはシンプルな凸型の造形です。聖地の方向を指し示すわかりやすデザイン構成は、何故か塩袋と同じ造形になっています。
長い間この二つの形には何か関係があるのか不思議に思っていました。
この関連性についてイラン人のトライバルラグ研究家のPaiviz Tanavoli氏が、自身の著書「SALTBAGS」の中で興味深い見解を述べています。

バルーチ族の塩袋とプレイヤーラグ

塩袋と祈祷用絨毯の類似性

著者のTanavori氏もまずは、遊牧民の塩袋と祈祷用絨毯(特にバルーチ族のラグ)の形状があまりにも似ていることに着目しています。その上で『塩袋と祈祷用マットの類似性を紹介したのは、塩袋が祈祷用絨毯としても使われていたことを示唆するものではなく、その由来と形状の比率が人体に関連していることを指摘したに過ぎないとしています。』つまり塩袋とプレイヤーラグは機能的な面での造形の類似ではなく、「首と胴体」という形そのものが、人体モジュールと共通しているのではないかとしているのです。

そしてこれらの祈祷用絨毯のミフラーブ(聖地を示す造形)の比率が、人間の体の形状にも関連していて、例えば、人間の頭部に関連する首の部分の形、または礼拝者の頭がひれ伏した時の体部分の形がそれぞれ凸型と関係していると指摘しています。

イスラム教の日々の礼拝の所作

実際に祈祷用絨毯には額を付ける部分、手を置く部分、跪く部分などがあり、そのフォーマットに身体を寄り添わせるデザイン構成になっています。額部分には聖地の土で焼かれた素焼きの「モフル」という聖なる石を置き、手を置く部分にもファティマの手と呼ばれる5本指の手形が織り込まれるラグもあるほどです。
同時にそのデザイン性はイスラム美術において、人間の顔や体の形を正確に再現することが制限されていることにも関係があると述べています。
もしイスラム美術の偶像崇拝を禁じるという制限がなければ、チベットのタイガーラグ(虎の毛皮を模したラグ)や人物像などのラグデザインが存在していたかもしれないなどと想像が膨らみます。。

左のバウチャーコレクションは手を置く部分の手形文様が見られる

お祈り用ラグの使い方

またお祈り用のラグの使い方は、中央にひざまずき、上部の凸部分の両サイドに手を乗せて額を絨毯の凸型の中央部分のこすりつけます。
上の左側の絨毯は丁寧に手を置く部分に手の平がデザインされていますが、織り手のセンスと遊び心を感じます。
最初に誰が織ったのかはわかりませんが、この手形は意外と多く見られます。
敬虔なイスラム教とはお祈り用の絨毯をいつでも持ち運んで、どんな場所でも敷いてお祈りすると言われたりしますが、絨毯は重いので実際には布系の軽いものがポータブルです。
実際には祈祷用絨毯の多くはテントや内の中で使うことが多いようですが、お客さんがきた際などにお祈りの時間になると、丁寧に織られた祈祷用絨毯を出すのが最高のおもてなしとも言われています。バルーチ族はとてもお客様を大切にする慣習があるそうで、そのためにバルーチ族は、手の込んで美しくセンスの良いプレイヤーラグが多く織られたとも考えられます。

左はバウチャーコレクション、右はマイケル氏の貴重な祈祷用絨毯が掲載された書籍

バルーチ族の祈祷用絨毯コレクション

バルーチ族のプレイヤーラグだけを集めた「BALOUCH PRAYERRUGS」という本があります。
1982年にカリフォルニアにあったADRASKAND GALLERYという伝説のトライバルラグのギャラリーで開催された展示会の図録を兼ねた本です。
数年前に他界したMicheal Craycraft氏とAnne Hallyさんの二人が中心に収集し本にまとめ同時に展示も行われました。現在ではほとんど見られなくなった珠玉の40点のバルーチプレイヤーラグが紹介されています。この本ではバルーチプレイヤーラグを大きく二つのグループ分類し、さらにそのグループ2を大まかな地域によって分類しています。ギャラリーの名前でもあるアフガニスタン西部のADRASKAND(アドラスカン)地方プレイヤーラグは特に素晴らしく見応えがあります。

もう1冊はアメリカ人のJeff W. Boucher氏の極めつけバルーチラグを集めた名著「Baluchi Woven Treasures」にも素晴らしい祈祷用絨毯が何点も掲載されています。

Micheal Craycraft氏とAnne Hallyさんのコレクション

今回の展示でも、ホラサーン、シスターン、アドラスカンなどのバルーチプレイヤーラグを塩袋と合わせて多数展示販売いたします。

参考文献:「SALT BAGS」by Paiviz Tanavoli
「BALOUCH PRAYERRUGS」by Micheal Craycraft&Anne Hall
「Baluchi Woven Treasures」by Jeff W. Boucher

参考サイト:tribe-log.com 祈りと道具 
tribe-log.com さすらう遊牧民バローチ Vol1. 〜The Wandering Baluch〜
tribe-log.com さすらう遊牧民バローチ Vol2. 〜The Wandering Baluch〜
tribe-log.com 遊牧民でないと使わない不思議な毛織物ナマクダンて何?
tribe-log.com じゅうたんの教科書 第二章絨毯の基礎知識 〜道具としての毛織物3〜 「いれる」