「ゆらぎ」が心地良さを誘う?〜文様の意味をひも解く

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Goods(モノ) - デザイン

前回このブログで紹介したアフリカ、コンゴのクバ王国の布のデザインは、かつて「Polo」というブランドで知られるラルフローレンのテキスタイルのデザインに取り入れられていたのですが、そのオリジンがコンゴのクバ王国にあったことはあまり知られていないようです。

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クバ王国の王族だけに許される市松文様の布

10年程前にアフリカの布だけを集めた展示会をブログで紹介したところ、そのパターンが自分のお気に入りのコートのデザインとまったく同じことに驚いて、実物を見に来られた方が居られました。トライバルデザインは私達の身の回りにある様々な「モノ」に取り込まれているといえるでしょう。実際にこれらの芸術的な布は、根気のいる作業もさる事ながら、その根源的で摩訶不思議なモチーフがクレーやマチスなど西洋を代表するアーチストに多大な影響を与えたといわれています。ではどうしてクバ王国の布やトライバルデザインが多くの人々を引きつける魅力をもっているのしょうか?

ゆらぎを持つ布とは?

クバ王国の布の魅力は、不規則的な規則性を持つアフリカ特有のリズム感をベースに、織り手のアドリブ感の溢れる個性的な感覚を伝統のパターンの中に取り入れる独特の「ゆらぎ」を持つ布でもあります。
リズムのように刻み込まれた「ゆらぎ」感は、作為的に柄をずらしたりするてらいを狙った意図的なものではなく、世界各地の部族に共通する自然な営みから生まれてくるようです。例えばこの「ゆらぎ」は、遊牧民のキリムや絨毯にもよく見られるもので、イランのカシュガイ族の生活の道具として織られるキリムやラグにも見つけることができます。織り機が水平な地機なので、長いサイズの場合織りあがった毛織物の上に乗って織りすすめるために微妙なゆがみが出るともいわれています。これが見るものにとって妙に気持ちのやわらぐ「ゆらぎ」に感じられることがあるようです。

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イラン南部カシュガイ族が水平の織り機をキリムを織る

唐突ですが、経済学者の坂本勉氏は「ペルシア絨毯の道」という本のなかで、オーストリアの精神科医フロイトが診療室のカウチの上にカシュガイ族の絨毯を敷いていたと記しています。また、フロイト自身が「遊牧民の絨毯には患者の心を解きほぐす何かがある。」と語っていたともしるしています。これを読んだ時に、先住民や遊牧民の手仕事の文様や色彩の本質がこの辺りにあるのではないかと、大変に感動しました。もしかすると、色彩、モチーフと関連したこの微妙な「ゆらぎ」が人間の心の潜在的な部分に入り込み、癒しを与えてくれるのかも知れません。ちなみにフロイトのカウチはとても有名でロンドン郊外にあるフロイト美術館に当時のままで展示されているようです。

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ジグムントフロイトの診療室にある有名なカウチ

部族の違いを表すシンボルとしてのモチーフ

部族絨毯のバイブルともいえる「トライバルラグ」のなかでJames Opie氏はトルコ系、ペルシア系、アラブ系など民族や部族を超えて共通したモチーフが見られると述べています。
もちろん文様にはそれぞれの部族集団の違いを表すための、藩主=族長の象徴的な家紋のようなモチーフが織り込まれています。これらは特にサドルバックなどの袋物に象徴的に織り込まれます。バック類に表現されるモチーフは、移動の際に定住民の居る村や町を通りかかったり、他の部族と接触したりする際に、自分たちの財産である家財道具の所有者をはっきりと示すものとなるでしょう。例えば、トルコ系部族の雄トルクメン族は、細分化された支族集団(サブトライブ)がはっきりと区別できるような明確なメインギュル(家紋のようなモチーフ)やボーダーのモチーフにも集団の独特なモチーフを持っています。

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トライバルラグのモチーフのオリジンを追求した名書

トライバルラグに共通するイメージとは?

他の部族にしても、それぞれの毛織物に部族の誇りを凝縮したようなモチーフや特有な色彩感覚をもっています。当然、トライバルラグの研究者たちは部族の違いによる比較分類を続けてきました。アナトリア(トルコ)を除く、イラン~アフガニスタン~中央アジアにかけては部族や部族をさらに細分化した支族単位での分類が進んでいます。最近ではクルド・ルル・バルーチ・シャーセバン・カシュガイ・アフシャール・トルクメン・ウズベク・アイマク等に分類されています。ただし、文字による記述が少ない事と移動と集散をくり返してきた人々なので、きっちりとした分類は難しいといえるでしょう。作者のOpie氏はこのバフティヤリー・ルル族の毛織物を熱心に研究し独自の分析を行いました。そして多様な遊牧系部族に共通して表現されるモチーフに注目しました。これが「Animal head colum=動物の頭のモチーフ」です。

このモチーフは遊牧系部族の間に驚くほど共通して表現されていますが、そのあたりは次回からじっくりと掘り下げてゆきたいと思います。

執筆者:T.Sakaki