部族絨毯との出会い 〜イスファハンの絨毯バザール〜 vol.3

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イスファハンにはその後2週間ほど滞在しました。戦禍は日に日に激しさをまし、世界的な観光地とはいえイスファハンに訪れる人は無く、かの有名な金曜のモスクも毎日独り占めという状況でした。入り口で手足を洗い、口をゆすいで中に入ると大理石のひんやりした感触が足裏に伝わり、壁と天井を埋め尽くすモザイクタイルに目がくらむようです。ドーム型の天井の真下に立ち,軽く手をたたくとその音が共鳴して木霊のように、何度も繰り返し、まるで天から渦を巻いた旋律が下りてくる様でした。実際に聞くことは出来ませんでしたが、きっとここで聞く生のアザーンは心を透明にしてくれるのではないだろいうか、そんな想像をかきたてられる特別の場所でした。

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世界遺産イスファハンのタイルで埋め尽くされたモスクの天井

絨毯バザールで見た忘れられない絨毯

幸運なことに、日本でイスファハンに住む親戚がいる方から紹介して頂いた住所を頼りに、オールドバザールにある絨毯の店を訪ねました。そこでキャリミザデさんという絨毯商に出会うことが出来ました。彼は私と同じ年でしたが、信じられないほど大人っぽく落ち着いた感じがしました。そしてつながった眉毛が印象的でした。彼のバザールの店で色々な絨毯を見せてもらうことが出来ましたが、今でも忘れられない絨毯が3枚あります。当時日本では高級手織り絨毯の輸入が始まったばかリで、イスファハン・ゴム・タブリーズ・ナイン・カシャン産など都市工房の伝統柄の絨毯しか見たことがなかった私にとってその3枚は、25年経った今でもしっかりと記憶に残っています。

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シュールなデザインの絨毯を広げるキャリミザデ氏に(右奥がカシュガイ絨毯)

彼が最も自慢にしていたのは、これまでに見たことのないシュールなデザインのイスファハンのザロニム(1メートルx1.7程度)でした。それはペルシア絨毯の典型的なコーナーメダリオンや花瓶文様(ベース)・ミフラーブ(モスクの内部)などとはかけ離れたデザインで、海の中の魚やイソギンチャクなど海中の生き物の図柄がびっしりと詰め込まれた水族館のような絨毯でした。中央には大きなチョウザメがいて、周りには深海を思わせるような、アンモナイトやグロテスクな深海魚らしきものが、織り込まれていました。クオリティーはイスファハンらしく11x11/cm程度の申し分ないものでしたが、見ていると気分が重くなる底知れぬ深い影をもった絨毯でした。この絨毯はイランvsイラク戦争中に織られた新しいものでしたが、耐えに耐え抜いたイランの現実そのもの表現しているようで、とても買う気にはなれませんでした。もちろん当時の私に手の出るような値段ではなかったでしょう。しかし彼らの想像力と表現力には驚かされました。

もう一枚の自慢の絨毯はまったく初めて見るタイプのものでした。鮮やかな緑と赤、オレンジなどが大胆に大きなひし形を重ねた幾何学文様に表現されていました。時間を経た羊毛のとてもいい艶が出ていて、触るととても柔らかく気分が落ち着くようでした。結び目はざっくりと決して細かくはありませんでしたが、なんだかとても心を和ませてくれる絨毯でした。それは店の奥の部分に飾られていて、ずうっーと昔から、この歴史のあるバザールに掛けてある、そんな雰囲気が漂っていました。恐る恐る値段を聞いてみたのですが、とてもこちらに買える値段ではなかったのでしょう値段は教えてもらえませんでした。おそらく彼にとっても自慢の絨毯だったと思います。今思えばそれはカシュガイ族かハムサ連合あたりの、遊牧民のオリジナルのアンティーク絨毯ではなかったかと思います。私にとっては初めての部族じゅうたんとの出会いでした。

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8角形のギュルが特徴のトルクメン絨毯

もう一枚は真赤な絨毯でこれまでに知っていたパキスタン製の絨毯に似ていました。彼からその絨毯がトルクメン族の織ったものということを聞き、初めてその八角形の家紋のような文様と深い赤の色の絨毯がトルクメン族の絨毯であることを知りました。
きりっと整列した結び目と、腰のあるパリッ立った羊毛の感触は今でもはっきり覚えています。日本で見ていたパキスタン絨毯の『赤いブハラ』の本物でした。その絨毯はイラン東北部のトルクメン族が織ったもので、カスピ海沿岸のゴルガンのほうから来たものだという事でした。戦火の中、ニンジンを貰ったことをきっかけに知り合ったトルクメン族のモタギー君の出身地ゴンバデカブースの近くです。その絨毯を見ているうちに、いつか彼の生まれ育った町に行ってみたいと思うようになりました。

古都イスファハンから聖地ゴムへのトリップ

とてもラッキーでしたが、しばらく滞在する間に、キャリミザデさんがテヘランへ行くことになりその車に同乗させてもらえる事になったのです。イスファハンからテヘランは600キロほど、来た時に機上から見えた土漠地帯を今度は車で引き返して行くのです。舗装状態の良くない道を彼のピックアップトラックは100キロ以上でぶっ飛ばします。2車線の狭い道路を大型トラックがノンブレーキで行き違い、傍らには仰向けになった車が化石のように転がっていました。最初はひやひやしましたが、そのうちに適度な揺れがもたらすのか激しい眠気が襲ってきました。運転している彼に申し訳なく、かなり我慢していたのですが、ついついうとうとしてしまいました。

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夢のように現れたロバを連れたおじいさん

夢心地で、昔のキャラバンの絨毯商たちもラクダの背に揺られ砂漠の中を何日も何日もかけて旅したのだろうなどと想像していると、分かれ道の傍らにロバを連れたおじいさんがヒッチハイクしていました。少し過ぎてから彼は止まり、猛スピードでバックしておじいさんと何か話しました。行く方向が一致したのか車をとめてロバを荷台に乗せ、おじいさんが座席に乗ってきました。

おそらく地元の遊牧民か、小さな村で伝統的な生活を送ってきた人なのでしょう。しばらく彼と話をしていましたが私が日本から来たという事も途中の会話で想像することが出来ました。そのときにチラッとこちらを見ましたが、何も聞かなかったかのように透き通った目で遠くを見つめていました。その瞳の奥を見ていると、なんだかタイムスリップしてラクダを連れたキャラバンの商隊に出会ったように感覚がしてきました。

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イランで感じたことのひとつに、この国の人達が良い意味でとてもマイペースで、何事にも変わらないということです。当時のわたしは、少し何かあるとすぐに動揺してしまい、どちらに進んだら良いのか、わからなくなってしまう事がよくありました。今でもそうですが・・・。

とくにそのときの旅では言葉も土地感もなく戸惑うことの連続でした。どうして彼らが、このような戦火のなか平常心でいられるのかいつも不思議に思っていました。小さいころから、厳しい環境のなかでたくましく生きてきたこともその一つかもしれませんが、それだけはない生命力と生活力を感じていました。

しばらく後のことですが、シラーズ行きの飛行機に乗り遅れ飛行場で大変な思いをし、その帰りシラーズからの飛行機が遅れ、さらに預けた荷物が出てこなくて、マシュハド行きの乗り継ぎに間に合わなくなりそうな時がありました。心臓が高鳴り、のどはカラカラ、冷や汗が止まらずパニックになりそうになったことがありました。その時に、ふともういいか、なるときはなるし駄目なら駄目でもしょうがないという気持ちになりました。そのとたん、肩から力が抜け気持ちも落ち着き、とても楽な気分になりました。そして間もなくゴンドラから荷物が出てきて、飛行機にも間に合う事ができたのです。

あまり自分の意志を強く通そうとしたり、自己を主張しようとすると、壁につきあたったり対立したりする場合が多いようです。感謝の心で、消極的でない受身の気持ちをもつのは意外と気が楽になると感じたのです。時として人間の努力だけではどうじようも無い時がある・・。

後からこれが「インシャラー=アラーが望めば(アラーの御意志であれば)」ということに近いのかなあなどと思いました・・・。
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そのおじいさんは30分ほどのところで車から降りて行きました。キャリミザデ氏の優しさも感じ、見飽きた砂漠から吹いて来る、乾いた風を心地良く感じるようになりました。暗くなりかけたころ、車はゴムの町に入りました。

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シーア派の聖地ゴムの金色に輝くモスク

写真で見たことはありましたが、夕日に輝くゴムの黄金モスクはなんとも言えず美しかったです。覚えたてのペルシア語で「カシャング=美しい」と繰り返したのですが、その時に本物の美しさとはどういうことなのかが、解ったように感じました。彼はホテルというよりは小さな民宿のようなところに車を止め、そこで一緒に食事をとりました。欲をいえば少々町を歩きたかったのですが、外国人=異教徒はコムの町では目立つのでやめたほうが良いとう彼の忠告でその時はあきらめました。

彼は昼間のハードな運転が疲れたのか程なく眠ってしまいました。
明け方のアザーンの響きで目を覚まし、朝早くテヘランに向かいました。

 (つづく)

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部族絨毯との出会い 〜草原の赤い絨毯〜 vol.1
部族絨毯との出会い 〜戦火のイランへの旅立ち〜 vol.2
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執筆者:T.Sakaki