裁判官の娘(ドクフタレ・カジイ)と呼ばれる絨毯 バルーチラグ(第1回)

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Goods(モノ) - 部族の手仕事

バルーチ族の絨毯には神秘的な魅力があるようで、世界各地に熱狂的な愛好家が存在し、バルーチ族だけの絨毯やキリムを集めた専門書が何冊も出版されています。なかでもドイツにはバルーチコレクターも多く、バルーチ族のお祈り用絨毯だけを集めた本が出版されています。この中にも紹介されているひときわ美しいバルーチ族のお祈り用絨毯にまつわるお話です。

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裁判官の娘デザインのプレイヤーラグ

お祈り用絨毯にこめられた思い

バルーチ族には絨毯にまつわる美しい物語が伝えられています。

イランとアフガニスタンの国境付近に、その地域で評判の美しい娘が住んでいました。
彼女はティムーリ族というバルーチの中の一支族の高名な裁判官の娘でした。
ある時他の支族であるバールリ族のシャーマン(祈祷師)の血を引く者若者が、彼女と恋に落ちて求婚しますが、裁判官の父親は二人の間を認めず、結婚はおろか彼を村から追放し、娘は秘密の場所に監禁されてしまいます。彼女を愛していた彼はスーフィー*のあらゆる技を駆使して彼女との結婚の許しを得ようと試みます。
彼に会えない娘はひとり篭って絨毯を織り続けていましたが、その時に織られた絨毯の文様は今までに見たことのない美しい紋様でした。そしてその文様は見る者の気持ちを幸せにする不思議なモチーフでした。彼女の織った絨毯は町でも大評判になり、二人の関係に同情する者が増えて行きました。頑固な父親も終には折れて二人の縁談を認めました。

彼の思いが彼女に美しい絨毯を織らせたのでしょうか。
その後二人は幸せに暮らしたそうですが、彼女はその後23枚の絨毯を織り、二人の娘達が母親に習って織ったものを含めると70枚ほどの絨毯がドクフタレ・カジイ(裁判官の娘)と呼ばれるようになりました。

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バルーチラグデザイン

不毛の大地に生きる遊牧民バルーチ族とは

別の記事でも書きましたが、「遊牧民」とは主に羊や馬・ロバ・ラクダなどの家畜の水や牧草を求めて移動生活を営む人々です。
ユーラシア大陸の中央の大部分は乾燥した不毛の土地であり農耕や狩猟には適さず、生きる唯一の方法は家畜と共に高地(夏期)~低地(冬期)へ移動を続けるという厳しい生活手段です。
バルーチ族はこうした遊牧系部族の中でも最も過酷な土地に生きる人々で、現在のイラン東部・アフガニスタン西部・パキスタン南西部の三国にまたがる広大な領域をテリトリーとしています。
最近では完全なスタイルの遊牧民たちが減少する中で彼らは遊牧民のオリジナリティを残す数少ない部族のうちのひとつです。

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アフガニスタン〜パキスタンのバルーチ族のテント

バルーチ族の生活史

彼らはもともと現在のシリア周辺にいたアラブ系の人達が源流ではないかと言われています。
その後カスピ海沿岸を横ぎり、ペルシア(現イラン)のケルマン地方に一時滞在してからホラサーン(北東イラン)にたどり着き、現在も遊牧生活を続けながらアフガン~パキスタンの辺境シスターン地方~バルチスターン地方まで広がっています。
その間にも他の多くの部族と交流しながら混血の民族集団を形成してきたのです。
例えばアラブ系・アイマク系・ティムーリ系・ブラフイ系……等おそらく十以上になるでしょう。
今日は彼らの多くがイスラム教スンニ派ですが、かつては土着的な信仰を持っていたと思われます。
(第2回へつづく)

*スーフィー…イスラム神秘主義を信仰する、敬虔な修行者のこと

執筆者:榊 龍昭