日本人の暮らしとじゅうたん ~どうして日本では「トライバルラグ」が受けないのか?〜vol.2

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Guide(ガイド) - 住まいと絨毯

日本で手織り絨毯(トライバルラグ)がどうして受け入れられないのか?このテーマは個人的にもライフワークとなりそうです。(笑)
前回は文化的側面からの考察でしたが、今回は一般的な日本人の暮らしの中にじゅうたん=カーペットがどのような存在であったのか、また昭和〜平成という時代の流れのなかでどのように普及していったのかを見ていきたいと思います。

日本人の居住の歴史と生活様式が専門で、「立ち振る舞い」・「しつらい」など日本独自の伝統的な文化なども考慮しながら「住」のあり方を研究されている沢田知子さんの「ユカ坐・イス坐」〜起居様式にみる日本住宅のインテリア史〜がたいへん参考になりました。またつい最近までユカに坐り続けてきた日本人がイスに座るようになったのか?文化としての「坐」の意義などにもすこしでもふれる事ができればと思っています。

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和風モダンの洗練された旅館の一室

西洋の「直立〜イス坐」と日本の「坐〜ユカ坐」の違いとは?

たとえば、高校野球の試合などで一方のチームの選手達が浮き足だったり、大量失点をしてしまったときなどに監督が選手達を集めて、地面に腰をおろさせたり胡坐をかかせたりする場面を見る事があります。おそらく選手達の気持ちを落ち着かせるための行為でしょううが、ベースボール発祥の本場アメリカではこういう光景はあまりないように思います。
日本人にとって坐するという行為は、なにか精神性と繋がりうる所作といえのではないでしょうか?
それに対し西洋では古くから彫刻なども「立像」が発達し、リラックスするのにはイスに座るという文化を保持してきたように思われます。本来はユカ=地面と遠くに身体の「要」を置いて来たのが西欧と言い換えられるかもしれません。
今回知りたいのは絨毯がどのように私たちの生活に普及してきたのかを、明治以降大正〜昭和〜平成という時代の流れの中で、ユカ坐〜イス坐への移行と対比しながら見ていくと、日本人のライフスタイルそのものにも関係しているようにも思えてきます。
それは必ずしも昔ながらの「畳式の和室=ユカ坐」〜「固い床式の洋室=イス坐」へという単純な変化ではなく、時には畳の敷きの和室用の「低いイス坐」やフローリング床に「こたつ」の応接セットなどという和洋折衷な暮らしという試行錯誤があって今日にいたっているようです。そのなかでカーペット=絨毯はどのような位置にあったのでしょうか?

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和室に応接セットの和洋折衷のインテリアスタイル

カーペットが大人気のの時代があった!

とても信じられないのですが、カーペットがカー、クーラー、カラーテレビに次ぐ「4番目のC」として大人気だった時代があるようです。昭和43年から53年までの10年間で一般家庭の普及率は25%から60%へと急増し、「デパートなどでも無地カーペットの売り上げは前年対比の6割増しでその伸び率は4〜5年はつづくだろう」などという本当に羨ましい時代があったようです。

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庶民の見方「暮らしの手帳」

公平な商品批評で知られた「暮らしの手帳」誌の昭和42年の12月号に『じゅうたんはタタミです〜主婦のためのインテリア入門』という特集が組まれ「とにかく部屋いっぱいにじゅうたんを敷き詰めてみると、暮らしを豊かにすることがどういくことなのかが、ひとりでにわかってきます。」などの記事が掲載されていたようです。いまでもぜひ使いたいコピーです。
ところが高度経済成長期の「4番目のC」として大人気だったカーペットは昭和57年の73%の普及率をピークに下降に転じ始めます。10年後の平成5年には60%に減少しその後10年はさらに急下降を続け、ここ数年の住宅の着工ではカーペット敷きの家やマンションなどは0.2%に満たないという驚くべき数字になっているようです。その背景にはフローリング床の登場と普及が上げられるようですが、ではどうしてそうなってしまったのかを見てゆきたいと思います。

日本人が絨毯をどうして好まないのか?

初めに紹介したユカ坐・イス坐の著者沢田知子さんの「ユカに関わる生活スタイル」の調査「ユカに対する意識の変化」の中から、例えばカーペットに対していくつかの意見が紹介されています。これまでの「毛足が長く温かいイメージ」・「畳みよいインテリア性がある」から「カーペットは不潔っぽい」・「冬の寒さより夏がうっとうしい」・「ダニやアレルギーの問題がありそう」などの意見が紹介されています。
またその後、現在にいたるいまで大人気のの木のユカについては「板敷きは清潔」「夏はごろ寝が出来て快適」「部屋全体がスッキリする」などという意見が出ているようです。確かに戦後の住宅はバブル期終了後の低成長時代に入りカーペットからフローリングへ、カラフルな色彩からシンプルでモダンへ、お決まりの応接セットから個性的なユカ坐へと変化して来ているようです。

先日昭和中期生まれのある方と話をしていて、子供の頃に家に敷いてあった敷き込みカーペットがどうしても好きになれなかったと聴きました。化学繊維の淡い色のカーペットは静電気帯びると汚れを吸着して薄汚れ、夏はちくちくとうっとうしかったと、先のアンケートとまったく同じような印象を話してくれました。それが忘れられずに今でも部屋のは絨毯を敷いていないそうです。
確かに子供のころに家にも機械織りのベルギー風カーペットが敷いてあり、怒られて下を向くとその洋風な文様が目に入り、いまでもその苦い思い出が残っていています。この辺りも日本でもカーペットが衰退し、その後もなかなか受け入れられない理由になっているのかもしれません。

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日本でも人気のあったベルギーカーペット

フローリング(木材)はユカ面を清潔に保ち、ユカ面自体に思い入れを持ち、靴でない生活様式を続けて来た日本人にとって気持ちの良いものだと思います。それは下足のまま生活ので汚れたユカ面とはある程度の距離を保つための、イス・テーブル・ベットなどの道具が欠かせない欧米の生活様式の相違があるでしょう。
そしてその文化の間には西アジアの遊牧民達の胡坐と絨毯の生活もあるように思います。今後は遊牧民文化と日本の比較を行ってゆきたいと思うのですが、私たち日本人が長い間保ち続けて来た「坐」という文化は今後どのようにっていくのでしょうか?
昭和中期から平成への短い時間で激しい盛衰を経験した「4番目のC」カーペット=絨毯の今後の運命もまた気になるところです。

参考文献:
「ユカ坐・イス坐」〜起居様式にみる日本住宅のインテリア史〜 沢田知子著
「坐の文化論」〜日本人はなぜ坐りつづけてきたのか〜 山折哲雄著

関連記事:日本ではどうして「トライバルラグ」がうけないのか?vol1.

執筆者:T.Skakaki