羊と暮らす遊牧民に、聞く? 〜本物のノマドとは?〜

0626-flyer-Hitsuji-ai

Infomation(コト) - コラムその他

2015年、未年、ヒツジを身近に感じててみませんか?
代官山にある風土カフェ&バー「山羊に、聞く?」にて羊をテーマにしたレクチャー、音楽、料理、バザールなどを行いました。羊毛は人間の身体の保護(衣)や道具(住)として、かなり昔からとても重宝されてきました。もちろんお祝いやお客様へのもてなし(食)としても重要な存在です。
6000年程前から遊牧民達は羊毛(フリース)から糸を紡ぎ、様々な技法を用いて多様な毛織物を生み出してきました。羊毛と絨毯についてそれぞれ違う視点からの専門家による羊毛と羊毛文化についての紹介を行いました。

羊毛についてはこちらもご覧下さい。
素材について考える。羊毛について vol.1
素材について考える。ウール(羊毛)とヘアー(獣毛)vol.2
素材について考える。〜ウールのドメスティケーション〜 vol.3

9.kurudo-(4)
家畜の羊から取れた羊毛をスピンドルで糸に紡ぐクルド族の女性

厳しい乾燥地帯に生まれた遊牧民文化

山岳地帯と高原に囲まれた西アジアは、大河の流域以外では農耕は難しい気候風土です。乾ききった夏の暑さと雨と山岳地帯に多い冬の積雪という、極端で激しい気候の中ではでは生活基盤が限られます。
ボントス山脈とタウルス(トロス)山脈に挟まれたアナトリア高原(トルコ)とザクロス山脈とエルブルズ山脈を望むイラン高原は遊牧に適した風土といえるでしょう。
限られた水のあるオアシス以外は僅かな灌木が点在する土の荒野が広がっています。
この厳しい気候風土で家畜の餌となる『草』を求めて移動するのが遊牧民の暮らしです。
夏の野営地は比較的涼しく草の生える高原地帯で過ごし、冬は低地の野営地で過ごすのが一般的な西アジアの遊牧民です。春の山越えの移動は残雪の残る4000メートル級の山々や、雪解け水の流れる大河を渡る厳しい移動がつきものです。秋にはまた同じルートを引き返さなくてはなりません。農耕に適さない過酷な土地で生き抜くための逞しさと知恵を持つのが遊牧民といえるかもしれません。

630turkey_map.jpgトルコ
ボントス山脈とトロス山脈に挟まれたアナトリア地方
630山脈入り地図
エルブルズ山脈とザクロス山脈を望むイラン高原

遊牧民=ノマドのなりわいとは?

遊牧民にとって羊・山羊・ラクダ・牛などの家畜は財産です。「資本」と言い換えることも出来ますが、大切な羊を日々の食用にしてしまうと毎日財産が減っていくことになります。それにくらべ家畜を殺さなくても得られる、羊毛や乳製品は貴重な遊牧民の収入源となります。山羊の乳はチーズ・ヨーグルトなどの乳製品として、羊の毛は毛織物用の羊毛として有益な利子として蓄財する事ができます。それぞれの加工品はバザールなどで、物々交換することで大切は収入源となります。
そのためには羊や山羊がストレスなく健康に育つ事が重要で、そのためには常に安定した環境で美味しい「草」を食むことが大切になります。この家畜の管理が遊牧民=羊飼いの最も大切な仕事でもあります。
尊敬する民族学者の梅棹忠夫氏は「狩猟と遊牧の世界」のなかで、乳搾りと群れを管理する去勢の方法が遊牧民のなりわいを支えてきた大きな技術であると述べています。

64010.男たちと子供
イランホラサーン州のクルド族と子供達

羊毛と最高の相性である絨毯(パイル)

羊毛を加工した製品としては、セーター、コート、マフラーなど私たちの身近にもたくさんありますが、羊毛の特質ととても相性の良いモノとして絨毯の存在が上げられると思います。
擦ることで艶の出る羊毛は、使い込む程に輝きが出てくるのですが、羊毛の断面を表皮に持つパイル(絨毯)はその良さを最大限に生かした手仕事といえるでしょう。古い絨毯にしか見られないこの独特の輝きがアンティーク絨毯マニアにとってはたまらない魅力といえるのかもしれません。
このような魅力的な絨毯やキリムを織る遊牧民は特に西アジア〜北アフリカに多く、私たちの良く知るモンゴル遊牧民は手間のかかる絨毯を織る事は多くありません。その理由がどうしてなのかは、現地の人に聞いてもただ昔からやらなかったという答えで、本当の理由はわかりませんが、羊の種類の違いによる羊毛の質の違いという説もありますが今後の研究に期待したいところです。

ここでは世界的に評価の高い毛織物を織る部族を紹介しておきます。
●トルコ語系の代表的遊牧民
アナトリアのユリュック・シャーセバン・カシュガイ・アフシャール・トルクメン・ウズベク・ウイグル等・・・。
●ペルシア語系の代表的な遊牧民
クルド・ルル/バフティヤリー・バルーチ等・・・。
●アラビア語系の代表的な遊牧民
ハムサ・ベルベル等・・・。

620IMAGE0003baharnaz (6)
イラン北西部のシャーセヴァン遊牧民

日本とはかなり違う乾燥地帯という気候風土で生活を続けてきた遊牧民の暮らしや文化は、あまり知られる事は無く、研究者も少なかったと思われます。厳しい環境の中で、家畜のヒツジは人間に多くの恩恵をもたらしてくれたことでしょう。今後も羊毛文化と遊牧民の関係を紹介してゆきたいと思っています。

執筆者:T.sakaki