遊牧民の食卓布、ソフレにこめられた思いとは?

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Goods(モノ) - モノの役割

これまで30年間、遊牧民の織るキリムやラグの販売を行ってきましたが、もっとも人気のなのが食事の際に使われるソフレと呼ばれる毛織物です。
とくにクルド族の織るラクダの毛が全体に使われている、細長いダイニングソフレが大人気です。ダイニングソフレとは食事の際に使われる茶舞台のような機能を持つ食卓布です。長い間、日本でどうしてそれほどまでにの人気なのか気になっていました。
日本人の嗜好に合うからなのか?和の伝統的な室内空間に違和感のないデザイン性からなのか?
現地ではこのところめっきり少なくなり探すのも困難なソフレですが、その魅力について考えてみたいと思います。

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イラン中部カモ村のナンを包むためのナンソフレ

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ソフレを広げるのは楽しいことの始まり!

遊牧民にとって食事はとても楽しみなことですが、ソフレは食事を華やかに明るくする視覚的な楽しみと、食べこぼしなどの汚れを弾く撥水性という機能の両方が求められる毛織物です。
食事の準備が進み、そろそろ食事が始まるタイミングになるとどこからともなくソフレが登場し、集まった皆でソフレを広げる行為には、なにか儀礼のような雰囲気があります。
イランではそもそもソフレは欠かせないアイテムで、お正月や冬至の日などの大切な行事にソフレを広げるのが習わしにもなっています。

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冬至の日の夜に広げて様々な食べ物を乗せるソフレ

1年中で最も長い夜である冬至の日にイランでは、各家庭が寄り添い、和気あいあいと楽しく過ごすことに努めます。この慣行儀礼においては、どのような宗教信仰を持つイラン人であれ、その多くがソフレと呼ばれる食事用の敷物を広げ、この日のための特別な食べ物を並べます。
この冬至の夜専用の食べ物は、シャブ・チャレと呼ばれ、普通は7種類の果物や乾燥ナッツ類であることが多くなっています。
食べるものとしては、小麦の粒、米粒でできたスナック、麻の実、ヒヨコマメのほか、スイカの種、かぼちゃの種、また時には向日葵の種、アーモンド、ピスタチオ、ハシバミ、そして胡桃といったナッツ類に添えて、ドライフルーツやホソバグミ、干しブドウ、乾燥させたイチジクや桑の実、スライスした杏などのドライフルーツがソフレの上に並べられるのです。

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ドライフルーツ、小麦、ナッツなどがならべられます。

ソフレはイラン&アフガニスタンの遊牧民や家庭で数多く織られてきた、伝統的な生活に欠かせない大切なテキスタイルと言えるかもしれません。

細長いダイニングソフレと四角いナンソフレ

ソフレには大きく分けて二つのフォーマットがあります。

1.長細い食卓用敷物=ダイニングソフレ(中央フィールドはシンプルなものが多い)…食事の時に敷物が汚れないように敷かれるテーブルの変わりになる細長い敷物。素材は汚れにくく、撥水性の高いラクダ毛や黒羊の毛がよく使われます。

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ホラサーン地方のクルド族の代表的なダインングソフレ

ダイニングソフレを織る部族の代表はホラサーン地方(イラン東北部)のクルド族、同じ地域に住むバルーチ族、近郊のアフシャール族などの比較的限られた地域に暮らす遊牧民達によって織られます。

その理由のひとつは、ホラサーン地方(イラン東北部〜アフガニスタン西部)が食卓布(ダイニングソフレ)の材質に適した撥水性を持つラクダの毛が豊富に入手できるということと、関係がしているからかもしれません。夏と冬の寒暖の差が激しいホラサーン地方のラクダたちは、冬の寒さを乗り越えるために体毛が長くなるという特徴が見られます。このラクダ毛をふんだんに使えることが、この地方特有のラクダの毛で織られたソフレを多く生むことに繋がったといえるでしょう。

“ダイニングソフレを織る部族“クルド族、バルーチ族、アフシャール族など”

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ホラサーン地方のラクダ毛を使ったバルーチソフレ

2.ナン包み布=ナンソフレ(正方形で回りが織り込まれている)…焼き上がったナンを包んで保管しておくための毛織物。素材はラクダ毛、黒毛羊毛、羊毛、ごくまれに木綿が使われていることもあります。(*木綿製のソフレは贅沢品として婚礼や特別な意味を持つものとして織られます。)
この正方形のナンソフレを織る部族はイラン南部のアフシャール族を中心に近郊のバルーチ族などです。またイラン中部の古都カモ村で定住した村人によって織られる「カモソフレ」も、イラン人の部族絨毯研究家Parviz Tanavoli氏の本の出版により一躍有名になりました。

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アート性の高いデザインで評価の高いカモ村のナン包み用ソフレ

アート性の高いカモソフレはもともと数が少なかったこともあり、あっという間に無くなり、今では幻のソフレといえるでしょう。

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イラン南部アフシャール族のナン包み用ソフレ

“ナンソフレを織る部族や村“アフシャール族、バルーチ族、ウェラミンン地方、カモ村など”

ラクダの毛や羊毛を使い保温性を高めるナンソフレ

ソフレにこめられた魔を払うモチーフ

ソフレは両側からのジグザクモチーフが特徴ですが、ナン包み用のソフレ、食卓用のダイニングソフレのいずれも力強い、刺すようなジグザグ文様が中央に向かって織り込まれています。このモチーフはゲームのバックギャモンのようだとか、動物の骨のようだとか、ナイフのようだとかと、鋸の歯のようだとか、様々なモノに見立てられています。

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左はクルド族右はバルーチ族の鋸歯文様

見る人によって印象はいろいろですが、どうしてこれほどまでジグザグにこだわるのかという疑問が湧いてきます。見ているうちに、このモチーフには何かの意味があるのに違いないと思うようになつてきました。

世界各地の先住民族の意識には共通して、尖った部分に悪い物をはね返すという、「魔よけ的な意味」を含まれているのかもしれません。ソフレはナン用にもダイニング用にも、食べ物を乗せるという機能があります。このギザギザ文様には、ばい菌などのマイナスなモノを払い清めるという意味があるのではないかというようにも思えてきます。科学的根拠のないオマジナイともいえますが、そこには日本でいう「結界」のような意味があるという考え方もできそうです。そうして見ると、どのソフレにも少しずつ形状は違えども見事に尖ったジグザグ文様が見えてきます。バルーチ族は先端がハリの様に細く尖った文様が多く見られます。クルド族にはナイフのように細長い形が多数見られます。人にとって食べるという行為は健康にもなれば病気にも繋がる、生きて行く上に欠かせない生活の基盤といえるでしょう。

世界に広がるジグザクモチーフ(鋸歯文様=トンパル)

余談になりますが、このジグザグ文様は、更紗などにも見られ鋸歯(きょし)文様と呼ばれ日本にも伝わっています。古渡りのインド更紗やインドネシアのジャワ更紗ににも良く見られるこの文様は海を越え伝わり江戸時代には、陣羽織として珍重されていたようです。

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インド更紗の裾部分にデザインされたトンパル=鋸歯文様

これは17世紀のインド更紗で仕立てられた陣羽織で山鹿素行が所持していたと伝えられています。また加賀藩に伝わる、白羅紗舟帆紋陣羽織というフランス製の生地を使った陣羽織の袖部分にも鋸歯文様が表現されています。背中の南蛮船からも渡来のイメージが伝わります。ちなみにこれは陣羽織は1744年ごろに、八代藩主前田重熙が作らせたもののようです。

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加賀前田家に伝わる羅紗の陣羽織

これを見ると幕末の新撰組の羽織を思い浮かべますが、斬新でインパクトのあるデザインセンスはこのあたりから来ているのかもしれません。

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更紗の羽織の袖部分に使われる鋸歯文様

おそらくこれらにも、世界の先住民の民族衣装に共通する悪い物を払い、敵には強さを見せつけ、異性からも受けるような、様々な意味があったのではないでしょうか・・・?

参照サイト:歴史関係ブログ 「天正遣欧少年使節のたび」
:イランの文化についてのサイト Iran Japanese Radio

参考文献:「The sofreh of Kamo」 parviz tanavoli著
「Bread and Salt, Iranian Tribal Spreads and Salt Bags」parviz tanavoli著

parviz tanavoli著の2冊のソフレの書籍

執筆者:T.Sakaki