今年は幻の絨毯は見られるか? 動く美術館・祇園祭の縣装品とはvol.1.〜

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Infomation(コト) - テキスタイルニュース

だいぶ暑くなって来ました。今年も京都の八坂神社の神事である祇園祭が始まっています。(日程はこちらから)
八坂神社や山鉾町を中心に様々な行事が行われ、クライマックスの「山鉾巡行」は今年も17日夜と半世紀ぶりに復活した「後祭り」は、24日の2度にわけてに行われるようです。
祇園祭は「動く美術館」とも呼ばれています。

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「HALI」マガジンの表紙を飾った月鉾のムガル絨毯

そこにはヨーロッパでも「幻」と呼ばれる絨毯や、13世紀の東西交流文化を織り込んだような貴重な絨毯やゴブラン織りなどの縣装品がさりげなく山鉾に懸けられいて、誰でも間近に見る事ができるのです。さらに歴史的な美術品を、誰もがただで見られるという太っ腹なお祭りでもあるのです。

世界中の美術館や研究者が取材にくる貴重な絨毯とは?

祇園祭りの縣装品にかなり古い絨毯が飾られているという事を知ったのは15年ほど前のことです。
最初で最後かもしれない規模の絨毯展が大阪の民族学博物館で行なわれました。アルダビルカーペットサングスコの狩猟文絨毯など、現存では世界最高レベルの絨毯が数多く並んだ、今では信じられない展示会です。この中で負けず劣らない絨毯が、祇園祭の山鉾に掛けられた縣装品としての絨毯でした。

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「MIHO美術館所蔵」サングスコカーペット

それらは、ムガル時代のインドやペルシア最盛期の逸品といわれるイスファハンで織られた通称ポロネーズ絨毯などで、世界でも数点しか残っていない貴重なものばかりです。長い間祇園祭の山鉾の廻りを飾って来た縣装品の数々は、世界でも貴重な背景を持つ絨毯だと言うことを初めてしるきっかけとなりました。実はそれらの絨毯の何枚かはかなりユニークなもので、ヨーロッパの絨毯研究家(美術史家)にとって「幻」と言われたムガル朝時代に織られたと思われる絨毯もあったのです。

最近ではイスラム美術史が専門で慶応大学で教鞭をとられる、鎌田由美子氏がこのあたりを専門に研究されています。

ペルシャ絨毯ではなくインドのデカン地方で織られた絨毯だった?

1986年にアメリカのメトロポリタン美術館の東洋染織研究チームがこの絨毯群の調査を行っています。17世紀〜18世紀に織られた絨毯がまとまって、素晴しい状態で存在していることはかなり珍しく、世界でも例を見ない絨毯グループといえるようです。

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北観音山所蔵の8角星ムガル絨毯

それまではペルシャ産(イラン)と思われたいた絨毯が、実はインドでもかなり南の地域で織られたことが判明したわけです。京都の人達にとっては、有名な「ペルシャ絨毯」と思い込んできたのが、驚きの新事実であったかもしれませんが、実は輸出品として織られた絨毯群の新発見という新たな評価でもあったのです。
中でも北観音山の「8角星デザインの絨毯」は17世紀のオランダの絵画に頻繁に出てくる絨毯に良く似ています。しかし研究者によれば、現在までヨーロッパ各地で実物はほとんど見つかっていませんでした。

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何故か日本に数枚ある8角星デザインのムガル絨毯

祇園祭の山鉾には、油天神山・岩戸山・函谷・北観音山・鶏・長刀・放下・南観音山などにもオリエント地域で織られたと思われる絨毯が飾られ、その数は30枚にものぼります。

日本人の心づかいが支えた幻の絨毯グループ

驚くのは、今から300年も前の絨毯文化の最盛期に織られた絨毯がほぼ完璧な状態で保存されていることです。
祇園祭を訪れた際、無理を言って懸装品が保存してあるお蔵を見学させて頂いたのですが、絨毯を保管するために絨毯全体が折れ曲がらないような特注の桐箱が作られ、その中に、吊るしてしまうという気の使いようでした。さすが日本人の細やかさと丁寧さが感じられ、納得したことを憶えています。
このような心使いがあったからこそ、高温多湿な日本でも羊毛製の絨毯や懸装品が極めて良い状態で残されたと想像できます。

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〜シルクロードの華 絨毯〜 杉村 棟著 

また、日本に於ける数少ない絨毯研究者の杉村棟氏は「絨毯・シルクロードの華」のなかで、江戸期の日本が東インド会社などを通じて西方諸国と海上貿易をしていたのではないか?という見解を述べられています。実際にこれらの絨毯の年代を特定する際に、これら飾り物の購入履歴が「寄進帳」に記入されていることから、これら絨毯の製作年代の特定の大きな証拠となったこともあげられています。
先の北観音山(8角星絨毯)の寄進帳には1724年(享保9年)に寄進、購入、補修が記載されています。

ロンドンに本拠地のある絨毯研究紙「HALI」マガシンも1994年に最初に取材に訪れ、ムガル絨毯の最高峰の呼び声高い「月鉾」の絨毯はその表紙を飾っていました。

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月鉾の前懸けに飾られるムガル絨毯
この絨毯は「ヘラティ文様」の源流のようなモチーフが織り込まれていますが、絨毯中央部にある中心柄を囲むように4枚の葉のようなモチーフが見えます。パイルがしっかりと残っていていかに貴重に保管されていたのかが伺いしれる典型的な絨毯の一枚です。

今年の見所と世界が認めた貴重な絨毯とは?

この暑さを感じると、祇園祭を思い出し、この暑さのなかでしか見られない貴重なアンティーク絨毯の数々に思いが馳せます。これからが見所の祇園祭ですが、絨毯をじっくりと見物するのでしたら午前中が比較的すいているようです。あまり早いと飾りがまだ仕舞われている事もあるので、9時半過ぎがよいようです。

【タイミングが合えばアンティークな絨毯に出会える注目したい山鉾!】

2015年山鉾巡航マップ 《7月17日:前祭で見られる》

長刀鉾(なぎなたぼこ)常に山鉾巡業の先頭を切る鉾ですが、ここにはメトロポリタン美術館も注目する「謎」の絨毯を所持しています。産地不明ですがモンゴル産という説のある絨毯が胴掛け(脇部分)に掛けられます。これについては後ほど詳しく説明いたします。

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長刀鉾胴懸けムガル絨毯

油天神山(あぶらてんじんやま)古い歴史を持つこの鉾には、遊牧系カザフ族=コーカサス産と思われる貴重な部族系絨毯が胴懸け(脇部分)に掛けられることがあります。年によっては新調した織り物などが掛けられる場合もあります。

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油天神山所蔵カザフ(コーカサス絨毯)

函谷鉾(かんこぼこ)山鉾の大きさ、歴史、懸装品どれも一流ですが、ここにも注目に値する絨毯が飾られています。ベルギー製のタペストリーの方がが有名ですが、イスラムと仏教という東西文明を両方取り込んだ動物文様の不思議な絨毯が胴懸けとして存在しています。

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函谷鉾所蔵中国西域(ウイグル?)絨毯

鶏鉾(にわとりぼこ)ここもベルギー製のタペストリーが有名ですが、南インドのデカン産と思われる赤地の絨毯が胴懸けにそえられています。状態がとても良いのが特徴です。

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鶏鉾所蔵ムガル絨毯&ウイグル絨毯

月鉾(つきぼこ)祇園祭の中でも最高峰との呼び声高いムガル絨毯が月鉾の前懸けです。1994年の『HALI』マガジンの表紙を飾ったのがこの絨毯で300年を経ても素晴しい状態で残された貴重な絨毯です。

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月鉾所蔵のムガル絨毯(胴懸け)

放下鉾(ほうかぼこ)いまでも女人禁制という伝統を守り続ける、保守的な山ですが、ここにもムガル絨毯が前〜胴〜後懸けに見られます。どれもが月鉾のものにひけを取らないほどの見事なアンティーク絨毯です。

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放下鉾の胴懸けのムガル絨毯

岩戸山(いわとやま)ここの胴懸けにされるムガル絨毯は祇園祭の中でももっとも古い絨毯のひとつですが、モチーフの大胆さと力強さなどから玄人好みの絨毯として、評価されています。前や後ろにもペルシア絨毯などが飾られます。

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岩戸山の胴懸けに飾られたムガル絨毯

次回は「後祭り」の山鉾と縣装品をご紹介する予定です。

参考文献:「絨毯・シルクロードの華」杉村棟著
「京都グループ」とよばれるインド絨毯― その流通と受容 鎌田由美子著
『HALI』マガジン 1994年 ISSUE77

写真引用: 祇園祭2015 山鉾一覧 

執筆者:T.Sakaki