30年待ちで見ることができた!!! リアルなトライバルラグの本物の色

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Infomation(コト) - テキスタイルニュース

昨年に引き続き上野の国立東京博物館でトライバルラグ&キリムが展示されています。
さくらの見ごろとはいきませんでしたが、昨年に引き続き展示会を訪れることができました。展示スペースは博物館を入って右手にあるアジア館地下1階のアジアの展示品エリアの一番奥です。少しわかりにくいですが、行き止まりなので静かにじっくりと見る事ができる場所になっています。
「西アジア遊牧民の染織品」の会期は4月10日(日)迄、残すところ2週間弱となりましたが、今週末が上野公園のさくらも見ごろかと思われます。テキスタイルやキリムのお好きなかたには、見逃せない展示です。

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東南アジアの石像などのを過ぎた左手奥のスペース

『遊牧民研究家、松島清江氏が1960年代から1980年代にかけて現地で収集したコレクションの中から展示する。パキスタン、アフガニスタン、イラン、イラク、トルコ、コーカサスなど27点で遊牧を営んだ部族が染め、織り、制作したハンドメイドの衣類や袋物、敷物などである。家畜の毛をつむいで作られた織物や刺繍など、各部族の特色ある色と文様の世界を紹介する。』

30年前の図録ではモノクロだったのキリムのリアルな色が見られる!

事前にどんなものが展示されているかは、東京博物館のサイトで把握していたのですが、そのなかにどうしても実物を見てみたいモノがありました。それらは、1985年に渋谷の松濤美術館で展示された部族の袋表皮ですが、当時の図録『中近東遊牧民の染織』に掲載された105点のトライバルラグのうち、カラーで掲載されているものは26点、残りの80点近い4分の3のキリムや袋物などが白黒印刷でした。

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シャーセバン族のマフラシュ表皮 スマック織り

その図録ではキリムの命とも言える色彩バランスがほとんどわからなかったからです。今と比べるとカラー印刷がびっくりするほど高価だった時代なので、しょうがないとは思いますが、今回は写真では到底伝わらないリアルな毛織物のテクスチャーが間近で見られるのです。30年間待った甲斐がありました。

実物が見られるのを待ちわびていたシャーセバンスマック

1985年に開催された『中近東遊牧民の染織』の図録に掲載されている毛織物のうち、20数点は昨年展示されていましたが、実物を見たかったのは、シャーセバン族スマック織りのマフラシュ(布団袋)のサイドパネルやマーシュアラブの刺繍布です。今回はこのあたりも出展されると、公式サイトに紹介されていたので楽しみでした。

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実物を見たかったシャーセバンスマック織り

白黒写真で見ていた作品も間近でみるとまったく違う雰囲気に見え、トライバルラグの魅力は色だ!ということを改めて実感させられました。とくに好みだったのは『TI-569-13 コーカサス地方 袋裂 段花鳥幾何文様ソウマク織』というキャプションの付いたシャーセバンスマックです。シャーセバンらしい孔雀と思われる鳥たちが並び、上下にはモーガン山脈周辺の山岳遊牧民の必需品である大型の布団袋(マフラシュ)に良く表現されるモチーフが表現されていました。ここ数年で評価がどんどん上がっているシャーセバンスマック織りのマフラシュ表皮(布団袋の部分)です。
その隣には、これまた大好きなマーシュアラブの婚礼用刺繍布が飾られていました。

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松濤博物館の図録の最初に掲載されていたマーシュアラブ

東京博物館のキャプションにすこしがっかり

どれもが蒐集した松島きよえさんの遊牧民に対する愛情の感じられる作品ですが、日本を代表する天下の国立東京博物館での展示なので、もう少し詳細な解説が欲しかったように思います。今回の展示で部族名が記されていたのは全体のうちの5点のみでした。それもクルド族が定住して織っている有名なセネキリムについてクルド人という記載があったり、ジジム=縫い取り織りが刺繍となっていたり、ほとんどが国境にとらわれずに移動する遊牧民なのに、解説の多くは国名で記載されていいました。

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アフガニスタン〜パキスタン西部のブーラフィー族のシャフィー(寝具掛け)

確かに部族特定には難しい部分もあります。間違ってしまう場合もありますが、世界的なトライバルラグ研究の分野ではこの30年で部族の分類と同定が著しく進みました。例えばシャーセヴァン族の関連書籍だけでも20冊ほどネット検索で見つけることができます。せめてもシャーセバン族トルクメン族くらいは明記して欲しい気がしました。この分野での日本での研究は30年間氷に閉ざされていたままだったのかもしれません。

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さくらも見ごろな上野公園

日本では博物館の学芸員、大学などの専門的な研究者、個人のコレクター、現地に詳しいディラーなどの交流と情報交換がまったく無いのが現状です。ICOC(国際絨毯会議)とは言わないまでも交流の『場』が望まれます。

参考文献:特別展『中近東遊牧民の染織』〜松島コレクション〜 渋谷松濤美術館図録

執筆者:T.Sakaki