トライバルラグは「民藝=Mingei」といえるのでしょうか?

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Infomation(コト) - コラムその他

このところアパレル系のブランドやスタイリッシュなセレクトショップなどで、民芸(MINGEI)がかなり支持を広げているようです。
特にスリップウェアーなどが人気のようですが、「用」と「美」を兼ね備た伝統的な手仕事が見直されているのは喜ばしいいことです。

東京駒場の日本民芸館でも創設80周年特別展として『柳宗悦・蒐集の軌跡』という展示会が開催されています。今回の展示会では柳宗悦が生涯をかけて追求した『信の美』とは?がメインテーマのようです。これまで紹介してきたトライバルラグを柳宗悦氏が目にしたら、果して蒐集のひとつになりえたのでしょうか?

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スリップウェアを代表する陶器

トライバルラグは「部族絨毯」か「遊牧民の絨毯」か?

5月〜9月にかけて東京民藝協会という集まりで連続してトライバルラグについて話をする機会がありました。民藝協会の会員が中心のクローズな集まりということもあり、このブログではお伝えしませんでしたが、長く民藝運動に関わりを持つ方、伝統ある民芸品の店のオーナー、東京在住の民芸品好きな人たちが集う会と聞いていたので、どうしたらトライバルラグの魅力が伝わるか不安でした。

一度だけのつもりでしたが、何故か3回続けてお話するという流れになり自分自身も勉強になりました。

第1回目はトライバルラグの総論ともいえる遊牧系部族の全体像についてお話しました。いつ頃から、どこで、どんな人達が、何のために、どのように作られたものなのかについて、機能的な役割とそのために造形な特徴的を部族の分類を切り口として話を進めました。

第2回目は最も興味のあるトライバルラグの文様について、文様と模様の違い、文様の発祥と進化、文様は伝播したのか共時的に広がったのか等々、文様とはヒトにとってどんな意味を持つのかを分析してみました。

第3回目は織りの構造について、平織り系とパイル(結び)に詳しい専門の先生に協力していただきながら、トライバルラグの構造を実演を見ながら紹介することができました。続けることで、トライバルラグは『モノ』としてどのような意味を持つのかを自分自身再認識し、同時に「民藝=Mingei」とはどのような共通点や差異があるのかを掘り下げるきっかけとなりました。

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世界の手仕事と民芸品のある暮らし

3度目を終えて、どの程度トライバルラグの魅力が伝わったのかには疑問が残りましたが、民藝協会の事務局の方から、『トライバルラグの日本語訳として「部族の絨毯」は一般的過ぎて絨毯を作る集団を的確にさしているとは言えない、「遊牧民の絨毯」ではいけないのか? また定義も、ものそのものの性状でなくて生産流通過程に着目して規定しているので、いくらか無理があるようにも思うのだが・・・・。』というご指摘をいただきました。
コメントをきっかけにどうして世界的に、遊牧生活の中から生まれる絨毯やキリムが「トライバルラグ=部族絨毯」と呼ばれるのかを考察していきたいと思うようになりました。

部族のアイデンティティの結晶としてのトライバルラグ

トライバルラグは確かに遊牧民の織る毛織物のことを指し、部族という言葉自体あまり聞き慣れない日本語です。確かに「部族」という言葉は一般的すぎるかもしれません。英語からの直訳であれば「トライバル=部族の」という意味となるのですが、日本語ではおそらく遊牧民の絨毯と言ったほうが聞こえが良い気がします。実際にネットで検索しても遊牧民の絨毯で調べた方が情報量が多く、「ギャッベ」などを扱う業者がたくさん紹介されています。町のインテリアショップやネット通販の「ギャッベ」が本当に遊牧生活の中で織られたのかどうかは疑問が残りますが・・・。

部族の絨毯=tribal rugに高い評価を続けて来た欧米のコレクター、研究者、ディーラー達は、どうして遊牧民の絨毯=Nomadic rugとしなかったのか?そのほうが雰囲気もあり砂漠に暮らす民族のイメージが広がりやすそうです。
それでも「Tribal Rug=トライバルラグ」にこだわったのは、遊牧生活の中から生まれた自家用のラグが、部族ごとの方が分類しやすい面があるからではないでしょうか?

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様々な部族のトライバルラグ

遊牧民達は厳しい移動生活を営むために、集団をつくり、そのコミニティごとに移動を繰り返します。それは国家や民族を越えた家族とそれを集めたクラン(大家族)単位で行われ、その集団のアイデンティティがなによりも大切にされてきました。
当然キリムや絨毯に織りこまれる、文様や色彩、技法までもが部族の伝統が最優先されます。トライバルラグとは部族の誇りと生きるための知恵が凝縮されて織り込まれていると言えるでしょう。

「用の美」=モノの機能美と「信の美」=象徴的意味を持つ美とは?

民藝とは名もなき職人の生み出す実用の道具に見られる、作り手の技術の結晶としてのモノが『用の美』=機能美として尊ばれてきたモノだと紹介されています。かたやトライバルラグは職人というよりは、どこにでも居る女性達が、移動生活に欠かせない敷物、袋、紐などの道具を必要に迫られて織り続けてきたといえるでしょう。民藝の『藝』を意味する工芸とは程遠い、民俗資料に近い「民具」といえるかもしれません。
あくまでも生活の道具であり、ペルシア絨毯や現在のギャッベのような商品とは大きく違うということです。

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東京駒場の日本民芸館の1階正面

さらに言えば、トライバルラグの織り手は、家族、部族の長、尊敬する人、まだ見ぬ結婚の相手などを思い、「心」込めて作られるモノのように思えます。織り手の「思い」は使う者にはいつかは伝わるので、心地よく日々の生活の中で親しまれ続けることが想像できます。モノには道具の機能面が追求された物理的道具と、祈りがこめられた象徴的側面を持つ信仰的道具があるのではないでしょうか?トライバルラグとは、道具でありながら象徴的な意味を持つ「信の美」に繋がるのモノと言えるのではないか思います。

母は子を、娘は恋人を思いながら織られる絨毯にはそれを使う者を心地よくする『思い』が凝縮し、それこそがトライバルラグの最大の魅力だと思います。

遊牧民研究者でもある松井健氏は『民藝の擁護』のなかで、「民藝はそのもっとも根源的原生的な意味で、「柳宗悦の民藝」であり、柳によって発見されたものであることを忘れてはならないと」記しています。
モノと信を問い続けた柳宗悦がトライバルラグをどう評価したのか?今となっては知る由もありませんが、想像し続けてたいと思っています。

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自宅で寛ぐ柳宗悦氏とルル族と思われるサドルバック

このブログ記事も100回目となりました。途中少し休んでしまいましたが、ぼちぼちと続けて行きたいと思っています。引き続きよろしくお願いいたいます。

参考資料
:「信仰と民具」 日本民具学会編 〜信仰民具の位相 〜神野善治著
:「民俗と民藝」 前田英樹著 講談社選書メチェ
:「民藝の擁護」 松井 健著 里文出版 
:「柳宗悦の世界」 別冊太陽

執筆者:T.Sakaki