ザグロスに暮らす山岳遊牧民、ロル/バフティヤリー族の移動が凄すぎる!

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Goods(モノ) - 部族の手仕事

辛いことがあったときなど『Grass』という映画の一コマを思い出すことがあります。今から90年前に撮影されたモノクロの無声映画で、シンプルにバフティヤリ−族の移動風景を撮ったものですが、繰り返し繰り返し見たくなるドキュメンタリーです。
すでに20回は見ているでしょうか?見終わると、さらに落ち込むこともありますが、今いる自分の環境がいかに生温いのか思い知らされます。
それに比べれば人生もなんとかなるさと、不思議と勇気をもらえるのです。

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ドキュメンタリー映像『Grass』

最も過酷な移動をするロル族・バフティヤリー族とは 

イラン西部からイラク国境にかけて連なるザクロス山脈を中心に遊牧を続けるのがバフティヤリー族とロル(ルル)族です。動物を象った世界最古の青銅器がたくさん出土した事で有名になったルリスターン文明を築いた人々と言われたいます。
現在のイランではロルというと「山の人」という印象があるようですが、かつてはイラン全土に住んでいた部族であり、誇り高いペルシア人の母語であるペルシア語の原型に近いロル語やラキ語を話す人々です。

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移動の途中でチャイを飲んで寛ぐバフティヤリー族

バフティヤリー族は大ロル族の中のひとつの支族という位置づけにありますが、時には想像を絶する大移動をすることで知られています。生まれたばかりの子羊や子山羊、ラバ、牛、馬などを連れ、雪解け水で増水したザクロス山脈の谷筋を流れる川を何本も越えて移動します。時には4000メートルを超える峰々を越え牧草=グラスの生い茂る高原地帯を目指す移動の旅はドラマチックです。1924年に撮影された「GRASS」は、彼らの過酷な移動光景を余すことなく伝えています。

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映画の見所シーン

巨大なサドルバック「ホリジン」と穀物入れ袋「タッシェ」

遊牧民のなかでも極めて大型のサドルバックを使うのがロル/バフティヤリー族です。
山岳の険しい山道を越えて移動するには、移動が長期にわたり、時には片道だけで2ヶ月にも及ぶこともあるそうです。移動中は食料を含めた生活用品がたくさん必要になるので、保存を兼ねた袋物がどんどんと大きくなっていったのではないでしょうか?
袋は用途に合わせて幾つかの種類がありますが、ロバやラバの背にのせる「ホリジン」と呼ばれる大型のサドルバック、同じく動物の背に乗せる「タッシェ」と呼ばれる穀物入れが代表的です。

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サドルバックの表皮部分左はバフティヤリー族・右はロル族

女性達の織ったサドルバックはここ20年ほどで、敷物用に加工されて市場に大量に流出しました。かつては何千何万もが存在していたのでしょうが、現在はオリジナルの状態のサドルバックを見つけるのは本当に難しくなっています。ペルシャ語では「ホリジン」ですが、トルコ語では「ヘイベ」と呼ばれるています。多くは中央部分を切り開き、反対側を縫い合わせて敷物用に変貌を遂げています。

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サドルバックを広げた状態。(織り上がったそのままの状態)
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真ん中を切って両端を縫い合わせてある。(敷物用に加工)

ホリジンの表皮はバフティヤリー族の得意とするスマック織りで緻密な文様が表現され、底は破れにくいパイル(絨毯)、裏面には平織りの縞模様が織り込まれています。この異なる技法を組み合わせたこの袋類が、ロル族・バフティヤリー族を代表する毛織物ですが、特に多くの人の目に入る表皮部分は、毛織物を織る女性達にとっても腕の見せ所とばかりに、目一杯の技術とセンスが籠められているようです。遊牧民の中の遊牧民と称えられるバフティヤリー族らしさを感じられるのが「ホリジン」と「タッシェ」です。

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穀物を入れる袋物 Tasheh タッシェ
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主に小麦などの穀物を入れる専用の袋物

部族のアイデンティティとしての動物の頭文様

山道が多くラクダでの移動が難しいのか、多くの荷物はロバやラバに担がせます。サドルバックの正面には力強いモチーフが表現されていますが、そこにはルリスターンの青銅器にも共通する、動物や鳥の頭(アニマルヘッド・コラム)を象った独特なモチーフが見られます。このアニマルヘッド・コラム(動物の頭文様)は、その他の部族絨毯にも共通して表現されています。

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ルリスターン青銅器に表現される動物モチーフが織り込まれている

このモチーフを研究したジェームス・オピエ氏は、部族絨毯のバイブルといえる「tribal rugs」 の中で、このロリ族・バフティヤリー族に表現される動物の頭の文様(アニマルヘッド・コラム)がトライバルラグのモチーフの基層にあるのではないかという見解を示しています。

彼らは独自のセンスで幾何学的モチーフをを毛織物の中に表現してみせます。
表皮には、複雑で呪術的な部族の誇りともいえる動物の頭(アニマルヘッド・コラム)を織り込み、底部分には破れないようにパイルが凸形織り込まれます。さらに表には見えない裏面にもユニークなモチーフが取り入れられます。本来は機能面から違う技法が織り込まれるのですが、袋全体を広げて眺めてると、現代アートの作品のような自由でポップな感覚があります。かつてはたくさんの広げられたサドルバックがバザールなどに並んでいましたが、このところは商品としても織られるようになったと聞きました。

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バフティヤリー族の大型スマック表皮のサドルバック

ちなみにカシュガイ族の織る遊牧民絨毯として有名になった「ギャッベ」などの敷布団用のオリジナルはロル族ではないかといわれています。ロルのギャッベは自家用なので、もともと数が少ないうえに、コレクターや研究者の間でアーティスティックな表現が高い評価を得ていて、現地でもかなりの高額になっています。
またバフティヤリー族はとても勇敢で野性的な面もありますが、かつてはイスファハンなどの都市文化にも多いなる影響を及ぼしました。とくに一部のバフティヤリー支族は「チャハルマール」と呼ばれる絨毯を織りますが、鮮やかな色彩と独特な文様が洗練されたセンスを持っています。
イランを中心に東欧から西南アジアまで幅広いフィールドを持ち、ペルシア文化に深い造形があり元外語大、上岡弘二先生がこのあたりの専門家で、深い造詣をお持ちです。

《ANDES&ZAGROS》

 
〜展示会のお知らせ〜
『アンデスとザグロス、大自然が生んだ異なる文化の手仕事』
2016/ 9.29〜10.2  open 11:00~18:30 (最終日17時迄) 大塚文庫

会場:大塚文庫 東京都目黒区自由が丘3 丁目6-25  TEL:03-3718-4411東急東横線・大井町線「自由が丘」徒歩約8分
今回紹介しているサドルバック等や塩入れなどの袋物や毛織物を集めた展示会を行います。地球の反対にあるアンデス山脈の染織品や工芸品も見応えあります。

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執筆者:T.Sakaki