トライバルラグマニア憧れのトルクメンエンシ vol1.

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Goods(モノ) - デザイン

仕入れの旅に出かける際にいつも思い出す言葉があるのですが、それは「虎穴に入らずんば、虎児を得ず(危険を冒さなければ、大きな成功は得られないことのたとえ)」という諺です。
戦争中のイランやアフガニスタンの国境地域、パキスタン西部など少し行きづらい地域に行く理由は、「どこかで良いもの出会えるのではないか?」という期待からに他なりません。
イラン人の友人も掘り出し物を見つけた時に、「シェカール ショディ!」と言ってくれるのですが、直訳すると「良い狩りをした!」というような意味です。今回の仕入れはまさに「シェカール」続きの大漁となりました。

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トルクメン テケ族のエンシ(テントドア用ラグ)

ついに見つけた!トルクメンエンシ絨毯

トライバルラグ好きにとって憧れの一枚といえば、トルクメン族のエンシ(テントドア用ラグ)は外せないのではないでしょうか?
ここ20年間状態の良いエンシに出会う機会がありませんでした。海外のオークションや専門書などの写真を見ながらいつかは手に入れてみたいと願っていました。これまで現地のバザールやショップにはほとんど姿を現さなかったエンシですが、今回の仕入れでついに見つけることができました。
見つけたのはエンシの中では比較的数の多いテケ族のものですが、状態も良好でテケ族らしいキリットした切れ味と品格が感じられます。エンシの魅力は独特なデザインにあり、テントの入り口専用というトルクメンならではの絨毯文化の結晶ともいえるでしょう。

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トルクメン サリーク族のエンシ(テントドア用ラグ)

トライバルラグの最高峰サロールエンシ

エンシの最高峰といえばトルクメンサロール族のものです。大げさですがその気品に溢れた全体像はトライバルラグの頂点に輝く一枚といえると思います。長い間世界の表舞台に姿を現さない幻の一枚でしたが、以前にrug rubbitというサイトで紹介されてました。状態はあまり良くないものの、やはりサロールにしかない完成度とワイルドながらも高貴な雰囲気を併せ持っていました。

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トルクメンエンシの最高峰 サロールエンシ(テントドア用ラグ)

サロールエンシを最初に見たのは、Jon Thompson氏の名書『Carpet Magic』という本の写真です。他のどの絨毯とも違うデザインバランスと色彩の深さに加え、ユニークなモチーフがアクセントになっていて、一度見たら忘れられないオーラを醸し出していました。

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トルクメンヨムート族のエンシ(テントドア用ラグ)

このサロールエンシは本の著者でもあるJon Thompson氏が所有しているものです。
1993年にニューヨークのsothbysのオークションハウス行われたJon& Thompsonトルクメンコレクションに出展されるのではないかと、ファンの期待は高まったのですが、結局この絨毯だけは出展されませんでした。その後一度だけ「HALI」マガジンのオークション情報で見つけたことがありますが、驚きの値段で落札されていました。おそらくトライバルラグの落札価格としては最高額と言えるかもしれません。今回はこのサロール・エンシを含めたトルクメン族の最高傑作といえるエンシという絨毯の深みに迫ってみたいと思います。

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トルクメン エルサリ系 のエンシ(テントドア用ラグ)

エンシのデザインが意味するもの

世界の絨毯愛好家による「turkotek」 というマニアックな投稿サイトがありますが、膨大な絨毯研究者や愛好家による情報が集まっています。
そこで紹介されていた『Salon 130: The Kush Motif in Turkmen Ensis』(トルクメンエンシに見られるクシュ=鶴モチーフ)by Louis Dubreuilを参考にしながらトルクメンエンシの紋様にこめられた意味の一端をひも解くとかが出来ればと思います。

『クシュ』とはトルクメン語で「鳥」を意味し、Louis Dubreuil氏によればトルクメン絨毯のエンシ(テントドア用ラグ)のほとんどに鳥の頭の形をデザイン化したようなモチーフが見て取れる事を考察しています。『中央アジアにおける強力なシンボルとしての鳥』の存在をメインに、様々な角度からこのエンシがトルクメン族にとって重要な意味を持つ絨毯であることを解明しています。部族絨毯の研究書といしてこれまでに何度か紹介しているJ.Opie氏の『TRIBAL RUG』でもトライバルラグに共通したモチーフとして『animal head column=動物の頭柱モチーフ』ともある意味で共通した解釈ですが、中央アジア各部族の伝統的な霊魂感であるシャーマニズムと結びついた、鳥=クシュモチーフとの関係性は興味深いトピックです。

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中央アジアの鶴

トルクメン族の精神性を表すエンシとは

まずは、このエンシという絨毯がトルクメンにとってどのように使われて来たのか?またほとんどの生活道具を絨毯技法で作り続けてきた彼らにとってどういう存在なのかが知りたくなります。トルクメン絨毯といえば赤の色彩と整然とならんだ八角形のギュル紋様に代表され、メインラグと呼ばれる敷物から、大型、小型の袋物=嫁入り道具袋(ジュワル・トルバ・ジャラー)、からラクダのこぶ飾りに至るまで日本の家紋のようなギュル紋が繰り返し織り込まれています。

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トルクメンを代表するラクダのこぶ飾り、ジュワル、トルバなどの袋物

ところがこのエンシにはトルクメン各支族ともに、ほとんどギュル紋様が登場してきません。その理由ははっきりとは限定できませんが、エンシの使われ方に関係があるのかもしれません。Louis Dubreuil氏もサロンの中でエンシがトルクメン族の伝統的な住居であるテント=ユルタの入り口に掛けられるために、外からの敵や『邪視』から災いを防ぐプロテクター(魔除け的な意味)と関連性があるのではないかと述べています。

さらには、中央アジアの伝統的な部族社会にとってテント自体とその内部はとても重要な存在であり、大切な家族の中心として、様々な外的から家族を守る宇宙の中心としてのシンボリックな装置と考えているようです。その入り口に掛けられるエンシはまるで結界のように、内と外を隔てる面界(インターフェイス)の布としての意味を持つのではないかと思えてきます。(続く)

5月17日〜20日までの展示会に出展予定です。

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イオリ庵DM写真面のコピー

参考サイト:TurkoTek Salon

執筆者:T.Sakaki