アフガニスタン西部のトライバルラグ バローチかタイマニ族か?

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Goods(モノ) - 部族の手仕事

紛争が終結せず、治安も一向に良くならないアフガニスタンでですが、古くから魅力的なトライバルラグやキリムが織られて来た地域です。先頃アフガニスタンのキリムやラグが集まるペシャワールへ行ってきましたが、素晴しいトライバルラグに出会うことができました。とくにタイマニの袋ものが充実していました。
主なバザールの絨毯商たちはアフガニスタンから逃れて来た人達ですが、パキスタン国籍を持っていないので不自由な暮らしを余儀なくされています。

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巨大なタイマニ族の絨毯

多部族国家であるアフガニスタンは、古くから多くの遊牧系部族が群雄割拠を繰り返し、東西南北からの異民族による覇権争いが繰り返された歴史を持っています。絨毯商もアフガニスタン北部のトルコ語を話すトルクメンやウズベク系、ペルシャ語系のタジク族、パシュトゥーン族など多用な部族構成になっています。現在も長い長い歴史の1ページと言えなくもありませんが、一刻も早く平安が訪れることを願うばかりです。

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アフガニスタンの部族マップ

出典:中村哲『ペシャワールからの報告』河合ブックレット、1990)

アフガニスタン西部は最も部族分類が難しい地域?

欧米を中心とした絨毯愛好家&マニアのコミニティサイト『Turkotek』のフォーラムに興味深いアフニスタンラグについての意見交換がありました。
『Perusing Parsons=パーソンズを読み込む』というタイトルで、アンティークコレクションシリーズの『Carpets of Afghanistan(アフガン絨毯)』の著者であるRichard Parsons氏に敬意を表した『パーソンズに熱中して…。』というような内容の記事でした。

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ゴルマジと分類された塩袋とバーリシト(枕)

メインテーマはアフガニスタン西部のヘラート州からゴール州、そしてファラー州周辺の遊牧系絨毯についてです。最も好きな部族のひとつであるTaimani(タイマニ族)についての貴重な情報もたくさん掲載されていましたが、このあたりは放牧に適した高原〜山岳地帯で、古くから様々な民族の行き交う、質、量ともに豊富なトライバルラグを生み出してきた地域です。

何人かの熱心なラグマニアの間でやり取りされていたトピックは、バルーチ族が得意とするバーリシト=balisit(枕)と呼ばれる袋状の毛織物とナマクダン=namakdanと呼ばれる塩袋に関してでした。

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アフガン西部のゴルマジ地方で織られた塩袋

アフガン西部はコアなラグマニアの評価が高いバルーチ(バローチ)族をはじめ、チャハールアイマク(4つの遊牧民)と呼ばれる、フィロズコヒ・ハザラ(タタール)・ジャムシーディ・タイマニ族など四部族の毛織物がたくさん集まっています。

Richard Parsons著の『アフガニスタンの絨毯』で紹介されている絨毯のほとんどは、北西部のトルクメン系(ウズベク等を含むトルコ語系)と南東部のバルーチ(イラン語系)で占められています。
かねてからタイマニ族やアイマク系の絨毯、ソフレ(ダスタルハン)、袋物のもつ素朴さと味わいに魅せられていたので、専門書であるパーソンズ氏の 『アフガニスタンの絨毯』の中のタイマニ族のページを探してみたのですが、わずか1ページ程の紹介記事に物足りなさを感じていました。
そもそもタイマニ族とは何処から来たどんな人達なのか?トルコ系なのか?イラン系なのか?両方の混血という説もあり謎に包まれています。

タイマニ族は存在するのか?しないのか?

まずは『Turkotek』のフォーラム常連のJoel Greifinger氏からの投稿です。
アフガニスタンにおけるバルーチタイプとその関連部族と分類されるラグ群は複雑で部族や産地を特定するのが難しく、今回紹介するラグについてもタイマニと分類される事が多いようです。【下の写真】

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Turkotekでゴルマジの代表と紹介されているバーリシト(枕)表皮

Richard Parsons氏は西部アフガンの小さな村(二本通り村)周辺で織られた『Ghormaj mat』と分析しています。一般に分類されるタイマニ族ではなく「ゴルマジ」という呼び方を強調したのが討論の始まりになったようです。

その後、様々な意見やコレクター自慢の写真の紹介記事などが続いていいるのですが、アフガン西部の地域名であるゴール州由来であろう「Ghormaj(ゴルマジ・ラグ)」の特徴が箇条書きで分析されているあたりが欧米的で興味深いです。

【ゴルマジ・ラグの特徴】

①比較的荒くゆったりした織の風合い。
②シンプルであまり込み入っていない文様。
③オレンジ系と淡い紫系色の組み合わせで、かつ小さめのサイズ。

この地域は多様な遊牧系部族がモザイクのように交差する場所で、東西文化交流の交差点として古くからキャラバン隊が行き交う文明の十字路です。Richard Parsons氏がタイマニ族では無いと分類した袋物ですが、紹介されている写真の中にあるのはタイマニ族によって織られたものも含まれているのではないかと推論しています。仲間に入って投稿したいところですが、十分な英語力が無くて残念です。

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ゴルマジラグの特徴併せ持つタイマニ族と思われるバーリシト

今回のフォーラムに取り上げられいるように、トライバルラグは文様の分類=同定にあいまいな点があります。例えばトルクメン族のように頑固に独自のモチーフや色彩にこだわる部族は一部で、バルーチ系の織り手などは印象的なモチーフ=文様を自由に取り込んで行く傾向があるからです。文様が部族間を越えて取り入れられるとすれば、文様にによる部族の特定はますます難しくなってゆくことでしょう。

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バルーチ族にも同様なデザインが見られるタイマニ族のバーリシト(枕)
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典型的なタイマニ族のバーリシト(枕)表皮

文様だけでない多方面からの分析

TurkotekのコアメンバーのJoel Greifinger氏も文様にとらわれずに行う事ができるこの地域のトライバルラグ(タイマニ〜ゴルマジ)分析を、Richard Parsons氏からの文章から引用しています。

1.素朴なデザインで織りがゆったりしている。
2.正方形に近いフォーマットで1x1m以下のプレイヤーラグが多く見られる。
3.構造上の特徴として幅の広い上下のキリムエンド、二重に付けられたフリンジ(飾り)などのシンプルだが効果的な装飾が見られる。
4.最大急の2枚はぎでも200x135cm程度の大きさ?。(大きいサイズのタイマニラグをかなり見ています。)
5.素材として度々ラクダ毛色の羊毛が使用される。
以上の特徴が上げられています。

4.のサイズの点をのぞけば個人的に感じていたタイマニラグとの共通点は多く、タイマニなのかゴルマジなのかの分類はかなり難しいと思われます。ただしこのディスカッションを読むうちに、これまで集めたタイマニラグにひとつの共通点を感るようになってきました。
それは文様を表現するときのアウトラインの有無です。これについては次回以降でまとめてみたいと思っています。 <つづく>

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袋状のバーリシトのサイズと形状だが、デザインは祈祷用?

参考文献:『Carpets of Afghanistan』 Richard Parsons著
参考サイト:Turkotek 『Perusing Parsons』 – Turkotek Discussion Forumsからの引用です。

また今回はこのあたりのアンティークの袋物がたくさん入手できました。展示会やこのブログなどでそれも合わせて紹介してゆきたいと思っています。

イオリ庵DM切手面アウトライン-[更新済み]
イオリ庵DM写真面のコピー
5月17日〜20日までアフガニスタンの絨毯を中心とした展示会を行います。

会場:杉並区久我山2-16-6  囲織庵  090 9133 9842 榊

執筆者:T.Sakaki