魅力あふれるアフガン絨毯を織る山岳遊牧民(タイマニ族) その2 

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Goods(モノ) - 部族の手仕事

しばらく間が空いてしまいましたが、以前の記事の続編です。
今回の内容は資料が不足してるうえに現地に行く事も難しいため、曖昧でわかりにくい部分も多いのですがどうかお付き合い下さい。

前回は絨毯マニアのサイトTurkoTekのサロンに掲載されていたアフガニスタン西部の部族絨毯の分類がいかに難しいかを紹介しました。アフガン西部をテリトリーとする遊牧の中に、チャハールアイマク(4つの遊牧民)という人達がいます。
まずは4つの部族の織る絨毯が、どの部族に対応しているのかを見分けるのが難く、さらにすぐ近くを遊牧するバルーチ族とも間違えやすく、イラン南部(カシュガイやルル等)と共に、部族分類が最も難しいトライバルラグではないかと思っています。

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モチーフにアウトライン(縁の線)の無いタイマニ絨毯(バーリシト)

山岳と丘陵をテリトリーとする遊牧民達

研究者によれば、チャハールアイマクとはタイマニ(taimani)、フィロズコヒ(firozkohi)、ジャムシーディ(jamshidi)、テイムーリ(timuri)などに分類できるそうですが、人によってはさらにハザラ(hazara)を追加することもあり、それならチャハール(4)ではなくパンジ(5)アイマクと呼んだ方がよいかもしれません。

この地域のラグを分類することは本当に難しいのですが、タイマニ族とバルーチ族のパイル織り(絨毯)のモチーフの表現の仕方(アウトライン化)にひとつの特色を見つけることができるかもしれません。デザインや色彩には共通点が多く、特徴的な違いが見つけにくいからです。

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TurkoTekに投稿されていたアイマク絨毯(バーリシト)

この地域の部族分類については、以前に紹介した絨毯マニアの投稿サイトTurkoTekサロンでも時々議論になっているようです。2007年に掲載された記事の中に、所有するラグがどの部族に織られたものかを問う投稿がありました。
TurkoTekサロン内のアイマク絨毯のスレッドを見た読者による、所有のラグがアイマクかどうかという質問です。その後100にもおよぶ写真や地図、サイトリンクなどを含むスレッドが続くのですが、内容はバルーチ族との比較検討がメインです。特にアフガニスタン南西部のムシュワニと呼ばれるバルーチ族の織る絨毯と確かに似たデザイン構成のラグが多く見られます。

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ムシュワニと呼ばれているアフガン南部のバルーチ絨毯

タイマニ族とバルーチ族の毛織物の違いとは?

上で紹介したバーリシトと呼ばれるラグは、曖昧な配色もその要因かもしれませんが、もうひとつの特徴として文様にアウトラインが入っていないため、全体がふわっとした印象をうけます。これまでに集めたタイマニ族の袋物と比較してみる事にしたいと思います。

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左トルクメン族、右タイマニ族のギュル?

上の写真はトルクメンとタイマニラグの一部ですが、注意してみるとトルクメンはしっかり、タイマニは素朴でベタッとした感じで表現されています。いずれも八角系のギュルモチーフですが、二つにはかなり違う印象があります。左はトルクメンテケ族のタテヨコが正確なモチーフなので、違いが良くわかります。
(右はエルサリ系のギュルを真似しているので、一概にはいえませんが・・・。)

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左はホラサンバルーチ族、右がタイマニ族のリーフモチーフ

上の写真はおそらくバルーチ族の得意とするトゲのある葉デザインをアレンジしたように見えます。アウトラインがないので子供の書いた絵の素朴な感じがします。左はホラーサーン地方のバルーチ族が好んで表現する尖った葉モチーフですが、黒のアウトラインがきっちりと織り込まれているのではっきりとした印象を受けます。

他のタイマニ族の袋物などを比較しても、多くの絨毯にアウトラインの無いものが見つけられます。TurkoTekのサロンで紹介されたラグの中では下の塩袋にその特徴が良く出ているようです。トルコテックサロンの中では最もタイマニらしい特徴を持っているような気がします。

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TurkTekに紹介されていたタイマニ族と分類された塩袋

部族や地域によって文様にアウトラインを入れる部族と入れない部族がいる事がわかって来ましたが、その理由についての検証は難しいかもしれません。織る人の好みの違いと言ってしまえばそれまでですが、西洋絵画の油絵の技法や西洋と東洋の美術や中国の陶磁器や日本の絵付け等と合わせて考察することで、様々な美的表現との比較から見えてくることもあるかもしれません。

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左は左右対称のバルーチモチーフ、右はタイマニ族

プラス思考とマイナス思考の差は遊牧民にもあるのか?

これらは布の絣技法や絞り技法などによってに偶然出来てしまう、ゆらぎやにじみ的な表現との関係も興味深いかもしれません。
刺繍やエッチングなどシャープで強い線を出せる技法を好む欧米と、絞りなど柔らかく曖昧な線を好むインドシナやインドネシア~日本などの嗜好の違い、言い換えると白いキャンバス地に絵の具を足して行く西欧絵画や生地に糸を指していく刺繍などのプラス的な技法、あらかじめ完成されたイメージからマイナスして糸を括る絣や絞りなどの+とーの思考の癖などとも関係があるのでしょうか?
実際に服飾を扱う博物館の学芸員の方から、欧米や中国には絣技法が少ないと聞いたことがあります。特に日本的な美意識では意識的なぼかしや境界をあいまいにする傾向もあるように思えます。
タイマニ族の特徴からはかなり横道にそれてしまいましたが、このあたりの曖昧でゆるい感じがタイマニ族の魅力のひとつではないでしょうか?。

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ゆるすぎるタイマニ族の絨毯(バーリシト)

中央アジア~イラン東北部~アフガニスタン西部のホラサーン地方を代表するトルクメン系・バルーチ系のトライバルラグとほぼ重なるような地域をテリトリーとするアイマクやタイマニ等同じ遊牧系部族の毛織物の文様や色彩にはかなりの違う嗜好が見られるようです。ほぼ同じように感じてしまうトライバルモチーフにも、かなりの差異を見てとることができます。
移動を繰り返す遊牧民達は交流のなかでモチーフも伝播した可能性が大きいと考えられがちですが、同じ部族でも織り手の好みや気分、あるいは技法でも作風にかなりの違いが表現されます。その違いを言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、部族の個性と織り手の個性という二つの個性の複雑な混ざり合いがトライバルラグの魅力のひとつといえるのかもしれません。

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フワフワでツヤツヤなミンクの毛皮のようなタイマニラグ

アフガニスタン西部は今なお治安が回復していないようですが、最も憧れ、訪れてみたい地域です。いつの日か行けることを願っています。

参考サイト:TurkoTek salon Aimaq Balouch? http://www.turkotek.com/misc_00065/aimaq.htm
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執筆者:T.Sakaki