すごく分類が難しい!アフガニスタン西部のトライバルラグ vol.3

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Goods(モノ) - 部族の手仕事

タイマニ族とその周辺部族(チャハールアイマク)の紹介の3回目となります。
12回目はこちらからご覧いただけます。
http://tribe-log.com/article/3126.html
http://tribe-log.com/article/3134.html
繰り返しになりますが、タイマニ族はチャハールアイマク(4つの遊牧民)と呼ばれるグループの一つです。
アフガニスタン西部の遊牧系部族については情報が少なく、欧米の研究書もほとんどありません。最も部族の分類が難しい地域です。

偶然インターネットで「AFGHAN NOMADS IN TRANSITION=アフガン遊牧民の変遷」という本を見つけました。

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「AFGHAN NOMADS IN TRANSITION」 by GORM PEDERSEN

1970年代末のソ連のアフガニスタン侵攻の直前である1975-77年に、デンマーク人のGORM PEDERSEN氏が3度の現地調査を行い、アフガンの民族の変遷を記録した貴重な内容となっています。
滅多に見られないタイマニ系部族やパシュトゥーン遊牧民の写真もたくさん掲載されています。今回の映像の多くはこの本からの引用です。
タイマニ族についての直接の記載は少ないのですが、アフガニスタンの民族史や1970年代アフガニスタンで起きたことを知るには大変に貴重な資料です。

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アフガニスタンの日常生活に欠かせないチャイハネ

Jon Thompson氏とRichard.Tapper氏によるイラン遊牧民の民族学的調査をベースにイラン人のN.Kasraian氏の写真でイラン遊牧民の生活をカバーした、「The Nomadic Peoples of Iran」やトルコ遊牧民の生活文化を長年に渡ってフィールドワークした、Harald Böhmer氏とJosephine Powellさんの写真で綴られた「NOMAD OF ANATORIA」は素晴らしい遊牧民研究の本です。
先に紹介した2冊と同様に、この本は現地入りが難しいアフガニスタンの民俗文化を、たくさんの現地写真と共に知ることができます。
イギリス人で長い間香港をベースに絨毯商をしていた、Richard Parson氏が出版した「Afganistan Carpets」の絨毯の解説と合わせて紹介します。

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1975年4月 アフガニスタン東部 Laghmanの遊牧民

山間に暮らす人々の素朴な毛織物

チャハールアイマク族(4つの遊牧民)(タイマニ・フィロズコヒ・ジャムシーディ・タタール/ハザラ族)について

<1.タイマニ族 Taimani of Chahl Aimaq>

かつてのホラサーンの首都であったヘラート周辺の高原やヒンヅークシュ山脈の西端地域に生活するのがアイマク系のタイマニ族です。
タイマニ族はチャハール・アイマクの中の一部族と分類されています。ペルシア系とトルコ・モンゴル系の混血だともいう説もありますが、人口が2万人程度と少なく、山岳地帯に住んでいるらしい事ぐらいしか解っていません。
アイマク系部族の織る毛織物はどれも似た風合いで、絨毯やキリムで違いを見分けるのは容易ではありません。
また純粋なモンゴル系のハザラ/タタール族との共通点も多く、遊牧民特有の移動もあるので、居住範囲も流動的で生活範囲はモザイクのように入り組んでいます。

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1948年のアフガニスタン「デンマーク人Edelbergの中央アジア調査の映像」

織り物の特徴は敷物はもちろんですがバーリシト(枕)と呼ばれる大型の袋物や祈祷用絨毯(プレイヤーラグ)に美しいものが見られます。
バーリシトは移動の時は物入れ袋としてロバやラクダに背負わせ、テントの中では枕やクッションにもなる多機能の袋ですが、袋の表皮には部族の伝統的な家紋のような紋様が織り込まれます。
天然染料となる植物が限られるためか、ほとんどのラグには赤やオレンジ系の色が多く使われています。
トルクメンなどと比べると染め糸に斑があり、特にたくさんの毛糸を使うパイル(絨毯)の場合は、フィールド(地)にグラデーションのような色斑(アブラシュ)*が表れる事が多いのですが、そこもタイマニ族の特徴の一つです。
遊牧民にとって色の抽出が難しいと言われる貴重な藍色は、アクセントとして部分的使われています。
またメインのパイル上下のキリムエンド*と呼ばれる部分には、「紋織り」技法で丁寧に始末されているのも特徴です。
大型の絨毯は多くありませんが、パキスタンのペシャワールでびっくりするほど大きいタイマニ絨毯を見ました。
キリムや平織りは少なめですが、渋くて味のあるスマック織りの技術は見事で、ヘラートやマイマナの市場などにも出てくるようです。

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タイマニ族のバーリシト(枕)袋物の入り口部分に織り込まれた紋織

<2.タタール/ハザラ族 Tatar or Hazara of Chahl Aimaq>
多部族国家のアフガニスタンにおいて、モンゴル系の血を引くのが、タタール/ハザラと呼ばれる二つの部族です。
ハザラ族は、2001年に破壊された巨大仏像のあったバーミヤンを含むハザラジャート~ガズニと呼ばれるのアフガニスタンの中央部で、主に農業を中心とする生活してきました。
アフガンキリムの代表するキリムの集まる、集積地マイマナ地方やカライナウ地方も、このハザラ・タタール系の部族の多い地域です。
タテ・ヨコ糸ともに堅牢で良質な羊毛をふんだんに使った綴れ織りや紋織技法が特徴で、野趣にとんだ大型のアフガニスタンらしさキリムを織ってきました。
数字の1000(ハザール)と言う意味を持つハザラ族は、かつてこの地を制覇したジンギスカンの末裔という説もあり、征服した土地に千人ずつの部隊を残したのが部族名の由来とも言われていますが、はっきりしたことは解っていません。
樅の木のような幾何学文様の繰り返しモチーフが、綴れ織り(キリム)によく表現されます。

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左上タイマニ族、右上タタール族、左下フィロズコヒ?、右下ハザラ族のラグ

またハザラ族は他の部族にはあまりない染色しない原毛だけを使うシンプルな縞模様のキリムを織ります。乾燥した風土に映える鮮やかな毛織物が多い中、自然素材そのものの風合いを愛でる我々日本人と共通した感性を持っているように感じられます。
織りや刺繍等の手仕事はどれも丁寧で、実直な部族性が物作りにもそのまま現れているようです。絨毯はあまり多く作りませんが、緻密な刺繍の仕事は見事です。
タタール族もハザラ族と同様モンゴル系ですが、彼らは移動の多い遊牧系部族です。
トルクメン族などと同様に移動生活をメインにしてきたため、移動用の袋ものなどに優れたものが多く見られます。
長く過酷な移動生活に耐えられるようなしっかりした、キリムや紋織りのサドルバックや塩入れ袋には、綴れ織りでもアナトリアの遊牧民とは違いタテ糸にはつり(スリット)の入らない技法が使われます。
この穴の開かない綴織技法はインターロックとも呼ばれますが、紋織りも驚くほど緻密で、ごくまれに見られる大型の敷物も高い評価を得ています。

<3.フィロズコヒ族 Firozkhi of Chahl Aimaq > 
フィロズコヒはタイマニ族の北方に位置するカライナウ村の東側をテリトリーとする、もうひとつのアイマク系の部族です。
彼らのほとんどが半遊牧民であり、Chapirsと呼ばれる小さなテントに住んでいます。
部族はそれぞれがたくさんの集団を持ち、大まかに二つの主要グループに分けられますが、東側に住む者達は、西側のマハムードグループよりモンゴル系が強い、特色(顔立ち)をしています。
彼らの織るラグは多様ですが、品質はそれほど細かくはありません。

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フィロズコヒ地方の毛織物と思われる縫い取り織(ジジム)の敷物

自らの手によるオリジナルデザインは少なく、タイマニ族のように近郊の部族の デザインを真似することが多いようです。
配色は全体に紫とオレンジの配色を好むようですが、最近では合成染料による毛糸が出回り、一般もに使われるようになってしまいました。
フィロズコヒの織る平織りの織り物はより他と区別がしやすく、飼い葉入れ(Torba)や多くの塩入れ(Namakdan)はフィロズコヒによるものです。しばしば天然色の焦茶地の平織りの上に、何色かの羊毛で集中した菱形の連続した幾何学文様を柄を織り込みます。
オレンジ、薄緑、生成り、チェリーレッドは先のダスタルハーンと呼ばれる毛織物に好んで使われます。(ダスタルハーンはイランのソフレと同じで家族用の食事用布として使われる。)
羊毛は近隣で大規模に大規模な遊牧を行なうパシュトゥーン族から調達することが多く、北部地方ではでカラクル羊毛が、南部ではギルザイ羊毛が使われています。

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アフガニスタンの遊牧民の女性達

<4.ジャムシーディ族 Jamshidi of Chahl Aimaq>
ジャムシーディ族(jamshidi)はとはほとんどが半遊牧民で、ヘラートからバドギス地方に分散しているチャハールアイマク系(Chahl Aimaq)のもう一つの部族です。
また彼らの人口のかなり多くが、アフガニスタン西部の古都ヘラート市に定住しています。ジャムシーディ族のルーツは不透明ですが、いくらかの人々はアラブの血統を主張し、他の人たちは自らの起源はイランにあると言っています。
ジャムシーディ族は長いあいだトルクメンと関係していたと考えられてきましたが、その理由は彼らの織る絨毯がヘラートに居るテケ族のものと似ているからです。
本来彼ら自身のデザインではなく、マウリ(Mauri)と呼ばれるトルクメンの連続して並んだギュルデザインに似た絨毯を織っていました。
そのためジャムシーディ族の織った絨毯がマウリ(Mauri)として市場に出ていたこともあるそうです。本来は彼らのデザインではありませんが、一般にはジャムシーディ族の織ったものの一つと考えられています。
200x150cm程度のラグサイズを多く織っていて、ウールはカラクル羊、最近の毛織物は合成染料が使われることが増えているそうです。

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アフガニスタン西部を代表するラグ

以上が分類の極めて難しいアフガニスタン西部のチャハールアイマク系部族ですが、ここ40年ほどは外国人が現地に行くことは難しく情報がほとんど入らないこともあってわかりにくいかと思います。
いつかアフがスタンにも平和が訪れて、現地に行けることを願っています。

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アフガニスタン西部の部族地図

写真引用:「AFGHAN NOMADS IN TRANSITION」 GORM PEDERSEN著
「The Nomadic Peoples of Iran」 Jon Thompson&R.Tapper著 photo by N.Kasraian
「NOMAD OF ANATORIA」 Harald Böhmer著 photo by Josephine Powell
参考文献:『Afganistan Carpets』 Richard Parson著

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日本や中国からもたらされた磁器製ティーポット

(アブラシュ)* Abrash 【技法】 トルコ語起源の言葉で、一般的には馬の毛色の模様を説明するのに使われる。
まだら、ぶち、斑点など。その用語はカーペットの単色の中の色味(色相)と明るさ(彩度)の少し変化している部分を言い表すために、長い間取引の中で使用されてきた。
それは、異なった2つの現象にあてはまる。第一は,村や部族の洗練されていない(素朴な)技術によって引き起こされる。紡ぎ糸の太さが一定ないのでそれを一度の染色桶で染めると、糸の染め色にバリエーション(不均一性)が作られると言う事である。これが絨毯の中では、斑のように現れ生き生きとした色合いになる。
その逆である完全に均一な色相は、それと比較すると輝きが無く、冴えなく見えてくる。
第二は、羊毛の一桶で染めた分を使いきって、他の染め束とあまり一致しない物を使い始めてしまう事で、二つの染め束を替えた部分は、目に見えるはっきりとした水平線が見える。いきなり生じる変化である。
主に村や部族の絨毯の収集家は両方のアブラッシュ効果を楽しみ、多くの絨毯商人が深刻な欠陥とみなす色に不均一性を受け入れる。
より洗練された絨毯であればあるほどこれらの不均一性は好ましくなく、都会的な絨毯では目立った染め色に変化は価値を下げてしまう。

(キリムエンド)* Kilim end 【技法】 絨毯や袋物の織初めと終わりの部分に装飾的に織り込まれる技法。
部族によってキリムエンドを織り込む部族とあまり織り込まない部族がある。代表的なのはバルーチ族やタイマニ族などのアフガニスタンの遊牧系部族で紋織や綴織による装飾が施される。

執筆者:T.Sakaki