✨星座とシンクロする絨毯文様 クラウドバンドべシールvol2.

cut.IMG_5941

Goods(モノ) - 部族の手仕事

前回のブログ☁️ホラサーンで見たクラウドバンド(雲龍)vol1.の続きです。

クラウドバンドべシール絨毯についてさらに調べて見ると、大変に興味深い資料が見つかりました。
この不思議すぎるクラウドバンドデザインは、多くのラグマニアの間でも、トルクメンにはあり得ないデザインと感じていたようです。
特に整然とした文様パターンを良く知るトルクメン絨毯ファンであれば、なおさらだと思います。

何度か紹介しているturktecという絨毯愛好家の投稿サイトに、今回のクラウドバンドべシールについては2回に分けて、なんと100近いコメントのやり取りが行われていました。
かなりマニアックなコミニティなので内容もかなりコアでファンタスティックな面もありますが、トライバルラグについての妄想がここまで広がるのかという空想力を知るのも楽しみの一つとかと思います。
今回はかなりオタクな内容なので、意味不明なところも多々あると思いますので、そのあたりはご容赦下さい。

トルクメンラグに見られる文様の違い

素朴な疑問としてトルクメン絨毯の中のエルサリ支族の絨毯には、他のトルクメンとはかなり違う文様が表現されていて、トルクメン好きでもかなり戸惑いを感じます。
この疑問についてturktecに一つ論文の紹介がありました。そのまま紹介します。
「べシール絨毯の文様の議論で私が最も気に入っている記事のひとつは、ハンス・コーニッヒ(Hans Konig)の論文(Hali magazin 4/2)です。
その中で彼は、この地域のトルクメン系エルサリ支族のラグを「部族」、「準部族」、「非部族」に分けて論じています。

beshire-small (1)
トルバと呼ばれる婚礼用袋物にもクラウドバンドべシールデザインが。

1.「部族」デザインのグループには、他のトルクメン部族に似た典型的なグルのパターンを持つものが含まれていることを示唆しています。(いわゆるギュルが整然と並ぶタイプです。)

2.「準部族」グループには、他の地域のデザインの伝統に影響を受けている可能性のあるラグが含まれます。(例えば、「イカット」に影響を受けたものや、土着のデザインの伝統に関連したものなど)。

3.「部族的でない=非部族」ラグとは、外部のラグデザインの影響を受けた花柄のラグのことを指します。(これには、「ミナハニ」や「ヘラティ」などの都市型絨毯デザインが含まれます。)

興味深いことに、コーニッヒ氏はトルバに見られる「雲帯」のデザインを「花柄」のデザインプールに入れています。
整理するとトルクメンにも大きく3つの違うグループが存在しているという訳です。

1.遊牧系騎馬民族のトルクメン (ギュル文様に代表される典型的な文様)

2.アムダリア川流域に住む半遊牧的トルクメン=べシール (中央アジアのウズベキスタンのイカットなどの影響を受けたデザイン)

3.オアシス都市の定住トルクメン (ペルシャ絨毯やイスラム美術の影響を受けた洗練されたデザイン)

これはある意味でわかりやすいです。

besirJT 2
ウズベク族の絣文様に影響を受けたべシール絨毯 J.Thomson コレクション

アストロジーとクラウドバンドべシールのコンステレーション

全く意味不明のカタカナ語の羅列ですが、某都知事の真似では有りません。
アストロジーは「占星術」、コンステレーションは「星座」を意味することもあります。またコンステレーションは心理学者のユングが心理学用語として良く用いていたことも知られています。
この場合のコンステレーションは「布置」という言葉に訳されることも有りますが、いずれにしてもあまり聴き慣れない言葉です。
星座というのは夜空に輝く無限の星を、動物、神話、道具などの造形に見立て、その布置を結ぶことで「牡羊座」、「射手座」、「水瓶座」とかに喩えています。
それぞれの性格をその人の生まれた時間や場所のホロスコープと照らし合わせて、未来や相性を占ったりすることで知られています。
西洋占星術、インド占星術、中国の北斗七星信仰など、それぞれの地域で共通して星が観測され、それを生きていくための知恵として取り入れてきたことは興味深い史実です。

Print
北斗七星を柄杓に見立てる星座の布値=コンシテレーション

本題に移りますが、turktecのサイトの中にこの絨毯のクネクネしたモチーフは、星座の中に出てくる「龍文様」と相関性があるのではないかという、Martin Andersen氏の意見が有りました。
突然「星座との関係性」と驚いたのですが、クラウドバンドベーシール絨毯を産んだ中央アジアには、偉大なる天文学者&占星術の大家アフマド・アリ=ビールーニーが存在していることも同時に紹介されていました。
アフマド・アリ=ビールーニーは知る人ぞ占星術の元祖のような人で、「占星術教程の書」という膨大な学問としての星読みを行った中央アジアが産んだ偉人です。
中世の天才科学者と称され、科学のあらゆる分野、精密科学、数学、天文学、哲学、年代学、地理学、薬物そして占星術に関して146冊の書を記述したと言われてます。
彼の研究を受け継いだ中央アジアの研究者達は細密画にも天文学的な記録を残していて、その中に現在ではあまり言われることのない蛇使い座や龍文様の星座の存在を示唆しています。

4bk9006b774111dmpj_800C450-660x330
中央アジアが産んだ天才科学者アフマド・アリ=ビールーニー

長い間、絨毯の文様には天体に関係する文様が多く含まれているんではないかと妄想していたので、この投稿記事にはとても魅せられました。
現代の日本の都会は明るすぎるのと、大気汚染が進行しているため、ほとんど夜空の星を見ることが難しくなっていますが、30年前にイランの砂漠で見た天の河を含む満点の星空は今でも忘れる事ができませせん。
その際に一生をほぼ外で暮らす遊牧民達は、毎晩毎晩どのくらい星を見ているのだろうかと思いました。
オールドやアンティークのトライバルラグが織られた頃はもちろん電気もなく、見渡す限りの夜空は真っ暗で、遮る物がない乾燥した砂漠の夜空に見える星や月はどれだけ美しいのかと想像していました。
この地域で天文学や占星術が発達したことも納得できますが、それ以上に日々大自然の懐で暮らしている遊牧民が、無意識に夜空の満天の星を絨毯の文様に表現して来た事は納得できます。

timorid-horoscope
ウズベキスタンのブハラを中心に発達した占星術

これまでに紹介してきた八芒星や星形の文様は、数多くのトライバルラグのモチーフに見られます。
Andersen氏がturktecに投稿した記事から、中央アジアの夜空に広がる星の輝きとトライバルラグの文様の関係性を、あらためて気づかさせてもらったように思います。

中央アジアの草原に咲く芥子文様のボーダー

ここからがさらに飛躍した話となりますが、クラウドバンドべシールのボーダー(周り縁)のモチーフは、中央アジアの草原に咲く「芥子」の花と阿片の原料となる花弁が落ちた後のケシ坊主(果実)がデザインに取り込まれているというのです。
これもturktecに掲載されていた投稿ですが、かなりの反響を呼んだようで、その後80に及ぶコメントのやりとりが続いていました。
全文を呼んだわけでは有りませんが、多くのべシールラグのファンがいるということ、ケシ坊主や芥子の花を見立てたようなデザインがたくさんのべシールラグに表現されている事がわかりました。
実際に1993年にニューヨークのサザビーズで行われた、Dr.Jon Thompson氏のコレクションのオークションで購入した19世紀のべシール絨毯のボーダーが、まさにこの投稿に紹介されているケシ坊主のデザインにそっくりでした。(冒頭と上から2枚目の写真)

flowers
ケシの花とケシ坊主に似たようなモチーフが見られるべシール絨毯

クラウドバンド絨毯のデザインの意味は、前回紹介した「クラウドバンド(雲)」・「蛇」・「龍文様」に見立てられるクネクネしたモチーフとそれを取り囲む芥子の花文様が結びつきが、この不思議な文様の謎を解く鍵になるかもしれないと感じました。
投稿で芥子は4000年も前から広くユーラシア地域で、心に変容を齎す植物として栽培されてきた可能性も指摘されています。
戦争が起きる程の危険な効果を持つ麻薬として世界各地の歴史にも刻まれています。
実際に多くの人々が芥子から抽出される阿片によって、社会からドロップアウトしてきたことでしょう。そういう危険な植物であると同時に精神に無限の幸福感と芸術的感受性を齎すことも知られています。
また中国では阿片は歴史上「ドラゴン」と呼ばれ、龍の形をしたパイプなども多く見られます。1920年代の香港のスラングでは、パイプの煙は「ドラゴンの息」と呼ばれていたようです。
阿片を摂取した酩酊状態で雲龍や星座の布置に龍の姿を見る事は想像できます。

opium
ケシ坊主から抽出するahenとドラゴンの形のパイプ

あくまでも空想上の世界ですが、人間の潜在意識と関係が深い麻薬を摂取した際の精神状態と龍文様の関連性は興味がつきません。この潜在意識とユングの云う「コンステレーション」の結びつきはトライバルラグの文様解明のヒントになるかもしれません。
実物の「龍」をみた人はほとんど居ないと思いますが、アジア各地に広く「龍」の存在が信仰として伝えられています。これ自体が「コンステレーション」と言えるかもしれません。
個人的にとても興味深いトピックなので、引き続き人の潜在意識が、「部族文様」とどのように関わっているのかを探ることができればと思います。
西欧人で潜在意識の解明に取り組んだ一人として、ジグムンド・フロイトは良く知られた心理学者ですが、彼の診療室のカウチ(ソファ)の上におそらくハムサ族と思われるトライバルラグが掛けられていたそうです。
次回はこの潜在意識とトライバルラグの文様世界に触れられたらと思っています。

dragons 2
中央アジアの天文学と占星術のミニアチュール

参考文献:「占星術教程の書」 アフマド・アリ=ビールーニー著 山本啓二、矢野道雄翻訳:「こころの最終講義」 河合隼雄著

参考サイト:turktec Beshir Cloudband2 by Martin Andersen
:tribe-log.com 「ゆらぎ」が心地良さを誘う?〜文様の意味をひも解く
:tribe-log.com ☁️ホラサーンで見たクラウドバンド(雲龍)その1.

執筆者:T.Sakaki