じゅうたん模様千一夜3.トライバルラグのモチーフ2.

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Goods(モノ) - デザイン

2回に渡って絨毯によく使われる文様を紹介してきましたが、いよいよ遊牧民が生活の道具として織るトライバルラグの文様についての考察です。
現在の芸術と呼ばれる「表現」は個人に依るものがほとんどですが、洞窟壁画や縄文土器などは、特定の個人ではなく共通した集団のための「表現」ではなかったのかと感じます。
トライバルモチーフは厳しい自然環境の中の生活や命に関わる移動など、大自然に対しての畏れや家畜に対する愛情が、道具としての毛織物に「祈り」として「表現」されてきたのではないかと想像できます。

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アラブ系の感性を持つハムサ連合の絨毯のモチーフ

◆トライバルモチーフ(動物の頭のフィギア)◆ 

 

トルコ〜イラン〜アフガニスタン〜中央アジアの遊牧民の毛織物をトライバルラグ(部族絨毯)と呼びますが、そのトライバルラグには共通した文様があります。
紀元前10世紀頃、イラン西部〜イラク東部の国境付近を南北に連なるザクロス山脈のイラン側中腹に、最古の青銅器を生産したと考えられるルリスターン文明が興りました。
世界でも最も古くから青銅器を創作した文明として知られていて、剣、馬具、動物のフィギア、装飾品など、数多くの完成度の高い造形物を残しています。
祭祈用の呪具とも考えられている動物をモチーフにした青銅器は、独創的な造形芸術として世界の研究者から高い評価を得ています。

最近の研究では、このあたりには古くから部族集団が存在し、近隣を移動しながら生活を送っていた可能性があることが解ってきています。
周辺に暮らしていた人々のお墓からも、多くの埋葬品が出土していることから、高度な技術水準を持ち、定住する住居を持ちながら、季節によっては家畜を移動させる半遊牧・半定住民の暮らしをしていた人々の存在が想像されます。
また、同時期に出土した幾つかの青銅器が、馬具としての機能を持つことから馬などの家畜を所持していた人々の存在も考えられます。

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世界最古のルリスターン動物の頭の青銅器
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ザグロス山脈を移動するルル(ロル)遊牧民のサドルバックのモチーフ

部族絨毯研究家の、JAMES OPIE氏は相反する方向を向いた動物の頭の青銅器に注目しています。非常によく似たモチーフをロル(ルリ)族のサドルバックやラグに見つけることが出来るからです。
そしてこの造形(動物の頭モチーフ)は、少しずつ形を変え、様々な部族絨毯や袋等の生活の道具の中に表現されています。
ザクロス山脈近郊のロル/バフティヤリー族はもとより、アナトリアのキリム、ファルス地方のカシュガイ族、アラブ系のハムセ連合、中央アジアのトルクメン絨毯の中にも共通した動物の頭のモチーフを見つけることができます。
またシルクロードの各地から出土する「形象土器」という特有な造形の杯があります。

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リュトンと呼ばれる角形の器

馬、牛、羊、山羊、鹿、鳥、ライオンなどの動物や人そして神話上の怪物など形は様々ですが、水やワインなどの液体を入れる焼き物や金属の容器です。これらの動物や鳥は当時の生活の中では比較的身近に居たと考えられています。
シルクロード考古学者の山内和也氏は「シルクロードの土と形」のなかで『動物の持つ豊饒性や多産性、生殖力、神聖さに対する人々の思いが、このような造形性を生み出したものと考えられる。
また動物を模ったこのような土器に入れられた水や酒を飲むことによって、その動物のもつ神秘な力を取り込もうとしたのであろう』と述べています。

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シャーセバン族の双頭の造形を持つ動物のモチーフ

西アジアのほとんどの遊牧民達は、共通して『動物の頭のフィギア=アニマルヘッド・コラム』を様々な生活道具としての毛織物の中に表現しています。
現在も多くの部族絨毯研究者は、部族に共通する幾何学的なモチーフに織り込まれたトライバルラグからのメッセージの解読を、試みようとしています。
その文様が具体的な何か(サソリとか櫛とかオオカミの足跡とか)を意味するのか、それとも数千年歴史を持つ遊牧系部族が最も大切にしてきた普遍的なメッセージが籠められているのか・・・。
トライバルラグの上でくつろぎながら、想像力を豊にして、その謎を紐解いてゆくのも楽しみの一つではないかと思います。
このテーマは引き続き掘り下げていければと思っています。

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生命の樹と動物の頭を組み合わせたようなバルーチ族のモチーフ

◆魔除のジグザグモチーフ◆

文様というよりは模様に近いかもしれませんが、キリムや絨毯の周り縁(ボーダー)に共通して見られるのがZIGZAG文様です。
特に遊牧民のソフレの両端から中央に向かって表現される尖った三角形の造形は特徴的です。
遊牧生活に必要な綴れ織り(キリム織り)の敷物や食卓布には多く表現される文様でもあり、特にイラン西部のクルド系部族の多く住むクルディスタン地方には、ZIGZAG文様だけのキリムも見られます。
またアフガニスタンのモンゴル系ハザラ族のキリムにもZIGZAG文様の繰り返しパターンによる綴れ織り文様が使われます。
このキリムはアフガン北西部のサリプル地方に集まってくるのためサリプルキリムとも呼ばれますが、アメリカインディアンのナバホ族の織るブランケットにそっくりです。
とてもよく似た文様表現ですが、ナバホ族の毛織物は生成りX黒X赤などのコントラストの強い配色なので、見た目には目がクラクラするような、目くらまし効果があるそうです。
通称「チーフブランケット」と呼ばれるナバホ織りの毛布や敷物は、敵に威圧感を与える強い印象をうけます。

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渋谷松濤美術館で行われたナバホブランケットのカタログ

世界に共通する綴れ織り技法(キリム)と関係の深い、ZIGZAG文様の繰り返しパターンも普遍的文様表現のひとつのように思われます。
ZIGZAG文様表現は、タテ糸に対してヨコ糸を行ったり来たりしながら文様を織り出すため、ジグザクなどの幾何学的表現がしやすいという技法的側面もあると思います。(つづれ織り)

コントラストの強い色彩とデザインのナバホラグ

同時に幾何学文様によって生まれる尖った部分には、悪い物をはね返すという魔よけ的な意味があるとも言われています。
特にソフレと呼ばれる食事用の毛織物には、共通して食べ物を乗せるという機能があるので、ZIGZAG文様の内側にナンやスープなどの食物を乗せることで、ばい菌やウィルスなどの災いの原因を払うという意味があるのではないかと想像できます。
科学的な根拠はないですが、食べ物を浄めるオマジナイ的効果をもたらすと信じられているという話を聞きました。日本の稲藁を編んで作られる、しめ縄を張る「結界」のような役割をしているかも知れません。

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ジグザグ文様の多い食卓用のソフレデザイン

多くの絨毯やテキスタイルにも形状は少し違いますが、先の尖ったZIGZAG文様が存在しています。
例えばインド更紗の端部分に表現されるZIGZAGパターンは鋸歯(きょし)文様と呼ばれ、古くから日本にも伝わっています。
古渡りと呼ばれるインドで染められた更紗は、海伝いにインドネシアにも伝わりジャワ更紗に昇華して、世界各地に広がりました。
先の尖った文様はサロン、着物の裾や袖部分に使われ、外から「禍」が入り込まないようにという願いが込められていたそうです。

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鋸歯文様(トンパル)と呼ばれる魔除的なモチーフ

ZIGZAG文様の更紗は海を越えてアジア各地に伝わり、江戸時代には、着物や陣羽織として珍重されていたようでが、特に有名なのは17世紀のインド更紗で仕立てられた陣羽織で、儒学者の山鹿素行が所持していたと伝えられています。
伊達男として、知られる伊達政宗も更紗ではありませんが、背中に大胆な南蛮渡来の帆掛け舟が描かれた異国情緒溢れる陣羽織を所持していたようです。
おそらくこれらにも、世界各地の先住民の民族衣装に共通する、悪い物を払い、敵には強さを見せつけ、異性にも受けるような、意味があったのではないでしょうか? 
この陣羽織が幕末の新撰組の陣羽織の基になったという説もあります。
人々に共通する願いや祈りが込められた文様は、時代や場所を超えて繋がり広がっていったようです。

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伊達政宗の南蛮船が描かれた陣羽織

参考文献:TRIBAL RUG by James Opie
シルクロードの土と形 山内和也著 
アメリカインディアンの染織 アンソニー バーラント コレクション 渋谷松濤美術館図録

参考サイト:tribe-log.com じゅうたん模様千一夜2.(絨毯に良く使われる文様世界2.)
tribe-log.com じゅうたん模様千一夜1.トライバルラグのモチーフvol.1
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ソフレと呼ばれる食卓布に見られるジグザグ文様

執筆者:T.Sakaki