じゅうたん模様千一夜4. 伝統絨毯に使われる文様世界2.

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Goods(モノ) - デザイン

前回までは主にトライバルラグに良く登場する文様を紹介しました。
今回はペルシャ絨毯に代表される都市工房の絨毯にも良く登場する、典型的表現についての考察です。
これまでに多くの研究者が様々な角度から、手織り絨毯の分類を行ってきました。
地域、部族、デザインなど切り口は色々ですが、織り手の立場によって絨毯を分類するのも解りやすい方法のひとつです。

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遊牧民のサドルバッグながらペルシャ絨毯のような品質を持つサドルバッグ

英国人の絨毯研究家Dr.Jon Thompsonは「織り手の立場」から、以下の4つのカテゴリーに分類しました。

1.部族の織りと生活用の織物(自家用の毛織物)
2.村のコテージ生産(時としては売りもの用の絨毯)
3.都市工房または町工房の絨毯(商業用絨毯)
4.宮廷絨毯

この中で、1部族、2村、3都市の絨毯には共通する文様も多く、大陸間交流によってお互いに影響を与えながらデザインも柔軟に変化してきたと思われます。
特に移動が生活基盤である遊牧民の行動範囲は広く、さらにシルクロードに代表される交易ルートによって商品、情報は東西南北に幅広くもたらされたと考えられます。
今回は商業的絨毯文化にも深く関わりのある代表的な文様を紹介します。

◆メダリオンモチーフ(中心円文様)◆

メダリオンとは英語で楕円や円形状の装飾造形で、ペルシャ語ではトランジと呼ばれます。
あまりにも有名なデザインなので、ネットなどでも簡単に見つかるのでここでは多くは解説しませんが、中央に配置されたメダリオンを中心に外へ向かって広がる、アラベスク(唐草)文様と組み合わされたパターンは、イスラム美術を代表的する装飾美術です。
モスクの中は日常とは別世界で、そこに居るだけで宗教心が生まれてきそうな雰囲気がありますが、床には豪華絢爛な絨毯が幾重にも敷かれています。
天井や壁を飾る華やかなモザイクタイル、キラキラと輝く鏡や鮮やかな色彩のステンドグラスなどと相まって、荘厳で目眩く世界観を演出します。

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表紙の異なるR.P.J.Ford氏の「THE ORIENTAL CARPETS」

絨毯デザイン研究家のR.P.J.Ford氏は、著書『THE ORIENTAL CARPETS ~The History and Guide to Traditional Motifs,Petterns,and Symbols~』の中でペルシャ絨毯のメダリオンの花柄デザインの発展は、絨毯の歴史家にとって最も興味をそそられるトピックのひとつであると述べています。
このデザインの発祥と発達は絨毯文化の黄金時代と言われるサファヴィー時代に由来すると思われますが、その時代に花開いた壮麗な絨毯文様世界はそれまでに比類のない充実感があります。

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イラン西部の典型的なコーナメダリオンの絨毯

この時代に発達した典型的な都市工房絨毯のデザインは、中央部にメダリオンと四隅にコーナーが配置されますが、上下左右対象の構成になっています。
デザイナーは絨毯の4分の1のデザイン画を描き、それを展開させて全体的なデザイン構成とします。
このスタイルの装飾を好んだのが、アーツアンドクラフツ運動を展開した英国のウィリアム・モリスですが、壁紙、家具、書物装丁、ステンドグラス、タピストリーそして絨毯など300点ほどの作品を残しています。

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フィールドが無地のシンプルなコーナーメダリオン絨毯

それに対し、トライバルラグの菱形のメダリオンは1つ、3つ、4つなど数も大きさも形状も様々です。織り手は下絵を見ないで記憶と感性で織あげるため、織りながら絨毯サイズに合わせて、途中で突然終わってしまったり、大きく歪んでいたりするものも見受けられます。ある程度のサイズ構成はあるものの、多くは織り手の自由な感性と遊び心がそのまま表現されるように感じます。
正方形が多いサドルバッグの表面にもメダリオン的なモチーフが良く表現されます。
中心を描くことで全体のバランスが取れ、見た目にも納まりが良くなるようですが、その辺りのデザイン構成にも長い歴史の中で生き残ったデザイン力と洗練度を感じます。

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途中で切れた部族の菱形のメダリオン文様

◆大陸の『花・鳥・樹・魚』と日本の『花・鳥・風・月』◆

花鳥風月これは伝統的な日本人の嗜好として、様々なしつらえで日本人の生活の中に取り入れられてきたと思います。

絨毯デザインは良く庭に喩えられますが、西欧や中東の庭園は左右対象の整然とした配置が多いのに対し、日本や東アジアの庭は、ありのままの自然を生かした非対称な景観が好まれるようです。
日本で左右非対称な「ギャベ」が好まれるのには、その辺りの伝統文化が関係しているのかもしれません。

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何故か日本人にも人気の写実的な樹木や動物のデザイン

伝統的な絨毯デザインのひとつにガーデンカーペット(庭園文様)という「庭」そのものを絨毯で表現しているデザインが存在します。
14世紀の中央アジア草原の覇者Timurは、サマルカンドに多くのモスクや霊廟を建設しましたが、彼自身の住居である宮殿は建設しなかったと言われています。
草原の遊牧民らしく、生涯を天幕で過ごしたという伝説がありますが、多くの美しい庭園を築いたことは知られています。
中央アジア〜西アジアは乾いた土地で、砂漠や土漠が広がる荒涼とした地域なので、様々な樹木が聳え、鳥が美しい声で鳴き、美しい花が咲き、魚が泳ぐ清い水を湛えた濠のある庭園はパラダイスだと感じます。
こうした環境が、潤いのある庭をイメージする絨毯文様が生まれた背景にあることは容易に想像できます。

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世界最高穂の絨毯の一枚と言われる庭園文様絨毯(ガーデンカーペット)

『花鳥風月の化学』のという本のなかで、著者の松岡正剛氏(編集者)は『花鳥風月』とはその背後にいくつものコードを忍ばせたモードによって、日本人が表現世界を維持していくためのシステムでだった=マルチメディアである。』という表現をされています。
『花鳥風月』は確かに日本人の感性を理解するうえで重要なキーワードなのだろうと思われます。
絨毯やテキスタイルにも実に多くの花・鳥・樹・魚を文様化したモチーフが登場します。

およそ2500年前に織られたと考えられている、世界最古の絨毯(パジリク絨毯)には、動物、人物、自然、オーナメントなど様々モチーフが見事なバランスでデザインされています。
おそらくその時代から絨毯デザイナーが存在していたのではないかと想像できるほど、完成度の高い洗練された構成になっています。
イスラム教が興る前なので、人物やリアルな動物などの偶像的なモチーフも自由に取り込まれていますが、180x180cmの正方形に計算されたかのようにそれぞれのモチーフが治っています。
スキタイ族の墓から出土したものですが、この時代から松岡正剛氏の言う、マルチメディアとしての絨毯が存在していたと考えられるかも知れません。
その後2500年間に東西南北の様々な文化が融合しながら、宗教的規制や王権などの階級的制限なども取り込みながら文様世界が洗練されてきたと考えられていますが、その間に消えていったデザインも多くあると想像できます。

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ヘシティデザインと呼べれるコンパートメントタイプの庭園絨毯

日本にとっての『花・鳥・風・月』が衣や住にはなくてはならないシステムだったように、大陸を移動する多様な民族にとっても「花・鳥・樹・魚」などの自然のコードとそれを巧みに文様化して生活に取り込んで来た感性には共通点が見られます。
身分や立場、コミニティや部族性、魔除や幸福など人々の生きるための智慧と精神性が文様に籠められて来たことでしょう。
ありきたりですが、生命力、長寿、健康、子孫の繁栄、豊かさ、幸せなどをどのように持続させて行けるかという「願い」が、文様の根本にあると思われます。

次回から、自然、植物、動物、暮らし、祈りなど、人々が文様に託してきた「願い」を手掛かりにそれぞれの代表的なモチーフを紹介して行きたいと思っています。

参考文献:『THE ORIENTAL CARPETS ~The History and Guide to Traditional Motifs,Petterns,and Symbols~』 by R.P.J.Ford
『花鳥風月の化学』 松岡正剛著

参考サイト:tribe-log.com じゅうたん模様千一夜1.トライバルラグのモチーフvol.3
tribe-log.com じゅうたん模様千一夜2.(絨毯に良く使われる文様世界2.)
tribe-log.com じゅうたん模様千一夜1.トライバルラグのモチーフvol.1

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サドルバッグの表に表現されたトライバルメダリオン

執筆者:T.Sakaki