トライバルラグ 100名品. <No1.トルクメンエンシ>

100名品-3

Goods(モノ)

トライバルラグやテキスタイルには世界的に評価の高いアイテムが数多く存在しています。
例えばトルクメン族を代表する「エンシ」(テントのドア用絨毯)、バルーチ族のプレイヤーラグ(祈祷用絨毯)、シャーセバン族のスマック織(マフラシュなどの袋物)、コンゴクバ王国ショワ族のラフィア布などなど、トライバルラグやテキスタイルの名品と呼ばれる名品をシリーズ化してして紹介して行きたいと思います。

トルクメンエンシ

まず1回目はトルクメン族の「エンシ」と呼ばれるテントの入り口のに掛けられるドア用ラグの紹介です。

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トルクメンサロール支族 エンシテントドア用ラグ

トライバルラグ好きにとって憧れの一枚といえば、トルクメン族の「エンシ」(テントドア用ラグ)は欠かせないと思います。
その魅力的な「エンシ」の中でも最高峰といえば、サロール支族の「エンシ」ではないでしょうか?
今では幻と言われるトルクメンサロール支族の絨毯ですが、テントの入り口用の「エンシ」と呼ばれる絨毯は文様のバランス、色彩の深さ、そして何よりも風格と気品が感じられます。

欧米では常に人気のトライバルラグのオークションですが、数年前にそのサロールエンシがトルクメン絨毯の最高価格で落札されたという話題がニュースになりました。
実物を手に入れるという夢は程遠いでしょうが、本物を一度は目にしてみたいと思っています。

サロールエンシを最初に見つけたのは、Jon Thompson氏の名書『Carpet Magic』の写真です。
写真ながら、どんな他の絨毯とも違う独特のオーラを感じました。このサロールエンシは本の著者でもあるJon Thompson氏が所有しているという噂でした。

1993年にNYのサザビーズにてJon Thompson氏と奥さんのコレクションがオークション掛けられることが絨毯業界で大きな話題になりました。
彼の所有するサロールエンシが、オークションに登場するかもしれないという噂が広まり、ファンの期待が高まったのですが、結局オークションには出品されませんでした。
その後1点がドイツのrippon boswellという絨毯専門のオークションに出品されたと聞きました。
落札価格は250,000$ 当時のレートでも28,000,000円というとらいバルラグとしては最高の価格が付いたそうです。
「エンシ」がどうしてそこまでトライバルラグファンの心を惹きつけるのか?

今回はその一端を紹介できればと思います。

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トルクメンテケ支族 エンシテントドア用ラグ

「エンシ」のデザインが意味するもの

10年近く前になりますが渋谷にあるトルクメニスタン大使館で聞いた話です。
大使の奥様のお姉さんにあたる方がトルクメン絨毯の研究者で、その人が来日していた時のことですが、トルクメン族が絨毯にどのような思いがあるかを偶然に聞くチャンスに恵まれました。
トルクメン民族には特に大切な絨毯が3枚あって、その一枚が「エンシ」だと聞きました。
大型のオイと呼ばれるテントの入り口のドアとして吊るされるのがエンシの本来の使い方ですが、あまりにも美しいため現在ではそのデザインを真似て商業的に織られることも多くなっています。
トルクメン絨毯のほとんどには、ギョルと呼ばれる家紋のようなモチーフが表現されますが、「エンシ」にはギュル紋様が登場しません。
その理由ははっきりとはわかりませんが、エンシの使われ方に関係があるのかもしれません。

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トルクメンサリーク支族 ドア用ラグ

「エンシ」がトルクメン族の伝統的な住居であるテント=ユルタの入り口に掛けられるために、外からの敵や『邪視』から災いを防ぐプロテクター(魔除け的な意味)と関連性があるのではないかと考えられています。
さらには、中央アジアの伝統的な部族社会にとってテントはとても重要な存在であり、大切な家族の中心として、様々な外的から家族を守る世界の中心としてのシンボリックな装置と考えられていて、その入り口に掛けられるエンシは
結界のように、内と外を隔てる「面界としての布」の意味を持つのではないかと思えます。
ここでデザインの意味には詳しく触れませんが、興味のある方はこちらもご覧ください。

トルクメン族の誇りともいえる絨毯文化を代表するエンシラグを一度は手にしてみたいものです。

参考文献:『Carpet Magic』 by Jon Thompson ,
Turkmen and Antique Carpets from The Collection of Dr.and Mrs.Jon Thompson. By SOTHEBy’S NEW YORK.

参考サイト:tribe-log.com トライバルラグマニア憧れのトルクメンエンシ vol1.www.turkotek.com Salon 130: The Kush Motif in Turkmen Ensis

執筆者:T.Sakaki