トライバルな毛織物技法(平織り) ジジム=縫い取り織りvol.2

2014-12-19-12.17.26

Goods(モノ) - テキスタイルの仕組み

前回に引き続いて織りの構造についての解説ですが、現地で呼ばれている織りの技法の名称は聞き慣れないため憶えにくいですよね。ここでは様々な違った織りの構造が使われているということを知って頂ければと思います。
織技法に関する日本語も研究者や専門家によって微妙に違いますが、日本語は小林桂子さんの「糸から布へ」を英語はマルラ・マレットさん「Weaven Structure」を現地語はヴェルピナールさんの「Kilim・chichim・soumack」を参考に、日本語=現地語=英語の順で紹介してゆきます。実は私も織りの構造は一番苦手な分野です。

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「Kilim・chichim・soumack」B.べェルピナール著

▲縫い取り織り(もしくは浮き織り)=ジジム(トルコ語)=(brocading)

遊牧民の毛織物の技法で分類が難しいのが、この縫い取り織りもしくは浮き織りです。日本語で縫い取りと訳すのが適切なのかどうかもわかりませんが、トルコで『ジジム』と呼ばれている平織り地に盛り上がった糸で模様を表現している技法です。一見刺繍のようにも見えるのがこの技法です。

インドシナ(タイ・ラオス)でも似たような技法があり、それを浮き織りと表現している研究者も多いです。今回の技法分析のテキストとして引用しているマルラ=マレットさんの「織りの構造=Woven Structures」ではBrocade=錦(辞書では)となっています。錦織というと金襴緞子の最高級の着物や帯を連想してしまいすが、織りの基本構造は似ていてまぎらわしいので、ここではあえて「縫い取り」という表現をします。

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シャーセバン族 ジジム(縫い取り織り)

このあたりも日本語での表現が難しいところです。またとても似た技法でアナトリアやコーカサス地方で使われる『ジリ』(Ziliと呼ばれる織物りや、呼び方のまぎらわしいタテ糸表構造のの『ジャジム』(wrap-substitution)という織物も存在しています。
ジジムとジャジムは言葉が似ていますがこれは基本的な技法に違いがあります。ジジムはヨコ糸で柄を織り出しますがジャジムはタテ糸で柄を織り出します。ジジムはタテ糸もしっかりしているので、厚みがあり丈夫な毛織物として、敷物や袋物に使われますが、ジャジムのヨコ糸は細めで軽く柔らかいので薄くしなやかな織物です。掛け布(寝具掛け)、間仕切り(カーテン)、被い布(荷物カバー)などに使われます。
ジジムは幾何学文様を描き易い技法なので、多くの部族で多様に使われます。一見すると刺繍のようにも見えることから、イランの一部ではジジム織りの毛織物をスザニ(刺繍=針)と呼んだりするので間違え易いのですが、これは織物で、針を使う刺繍ではありません。

織物研究家マルラ・マレットさんによればヨコ糸が上にでる(オーバーレイ=ブロケード)とヨコ糸が下に出る(アンダーレイ=ブロケード)そして上にでたり下に出たりする(オーバーレイ&アンダーレイ=ブロケード)という厳密な分類をしていますが、ここでは詳しくは触れません。

▲巻き取り織り=ジリ (トルコ語)=Zili brocading

縫い取り織り技法の一つで、アナトリアの遊牧民に時々見られる珍しい技法です。現在では織る部族が減っているためあまり実物が残っていませんが、縦方向に線がくっきりする ジジムとは一味う技法です。マレットさんによれば(ジジム織り=ブロケード)技法のひとつだそうです。イラン北西部の遊牧民シャーセバン族などが用いますが、イランではこの技法のヴァリエーションをモルバリード(真珠)織りと呼ぶこともあります。一つ一つの織り目が独立していて真珠のように輝いているのが由来のようです。

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アナトリア ジリ織り

▲紋織り(ヨコ糸紋織り)=バフト(ペルシア語)=weft-substitution

紋織りは遊牧民のなかでもイランの西部からアフガニスタン、パキスタンにかけて移動生活を続けるバルーチ族・ブーラフィー族やアフシャール族に良く見られる技法です。 これも紋織りという日本語表現が適切かどうか判りませんが、菊の花のような小紋がらの家紋のような文様を見ることが出来ます。
縫い取り織りと見比べてみると、縫い取りが平織り地に糸が盛り上がって柄を織り出すのに対して、紋織りの表面はフラットです。 横糸紋織りは、ヨコ糸で文様を表現するため、編み込みのセーターのように織り糸が裏を通ります。このため表面はすっきりした感じですが、裏面をみると表とはまったく違った糸の渡りを見ることが出来ます。マレットさんの分析によれば「weft‐substitution=ヨコ糸で代用する」という言葉で表現されています。 バルーチ族などの他にもアフガニスタンのハザラ族やモロッコのベルベル族のゼモール地方の毛織物にもこの技法が見られます。 ちなみにバルーチ族の毛織物は、今まで紹介したほとんどの技法「パイル・キリム・ジジム・紋織り」が一枚にバランス良く使われているものがあります。 まるで遊牧民の毛織物の見本帳のようです。

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バルーチ族 ブロケード(紋織り)

厳しい環境により草木染めの原料となる植物に恵まれないために色数が少ないのがバルーチ族の毛織物です。それを補い華やかさと豪華さを出すための生活の知恵かもしれません。

執筆者:榊 龍昭