トライバルな毛織物技法(平織り) ジャジム・スマック織りvol.3

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Goods(モノ) - テキスタイルの仕組み

みなさんが通常家庭で目にする絨毯やラグの大半は機械で織られていることが多いのですが、トライバルラグとなるとそのほとんどが手仕事による一点モノです。トライバルラグやキリムは「手仕事」というだけでなく、その技法(作られ方)も特殊で伝統的な技法が使われていることが多く、海外ではそういった面も含めて非常に価値の高いモノとして評価されているんです。
では一体、トライバルラグで用いられる「特別な技法」にはどのようなものがあるのでしょうか?今回は、トライバルなラグやキリムで使われる技法や織り方のうちの1つ「スマック織り」について書いてみたいと思います。

いくつかある平織りの中でも最も複雑で手間のかかる技法がスマック技法です。この技法に対応する日本語がないので、現地名をそのまま使うスマック織りと呼ばれる事が一般的です。英語でもそのままsoumack=スマックと呼ばれています。遊牧民の中でも限られた部族が使うことからもかなり特殊で難しい技法と言えるかもしれません。

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移動しやすいように水平の杭機(地機)を使う遊牧民

スマックのバリエーション

スマック織りの由来はコーカサス地方のshemaka という地名に由来するそうですが、ダゲスタン、アゼルバイジャン、イランの北西部の地域や部族が好んで使います。有名なスマック織物ににコーカサスのドラゴンスマックと呼ばれる龍文様の毛織物があります。迫力のあるモチーフと鮮やかな色彩そして細かいスマック織りの技術を持った芸術性の高いものです。絨毯(パイル)にも「ドラゴンカーペット」呼ばれる17~19世紀のコーカサス産の典型的な絨毯がありますが、西欧では忌み嫌われるドラゴンという空想上の動物がここでは絨毯の文様として表現されるという伝統が残っています。
シャーセバン族の袋物にもスマック織りがよく使われます。文様のシャープなアウトラインが表現できるため、はっきりとしたモチーフを描くには適していますが絨毯(パイル=結び)にも引け劣らない程時間がかかるので、全体的な少ない平織りの技法です。このためか欧米でもコレクションが進み、現地でも大変貴重な織物になっています。

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コーカサス地方のドラゴンカーペット

順目スマックと逆目スマック

順目スマックとはタテ糸に一列づつ糸を巻きつける技法ですが、同じ方向に巻きつけて行くため揃ったきっちりした印象があります。遊牧系部族ではシャーセバン族のマフラシュ(布団袋)などによく見られます。逆目スマックとは順目とは逆に一列づつ反対方向に糸を巻きつけていきます。きちっと揃った感じは ありませんが文様に表情がでて、立体感が出ます。
これ以外にも綴れ織りのはつり部分にスマックを使ったり、平織り地に文様の部分だけをスマック織りにするものや、様々なバリエーションのスマック織りが見られます。

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スマック織り・シャーセバン族マフラシュ表皮

もじり織り twining=ツイニング

もじり織り (twining) 織り技法の中ではとてもシンプルで基本的な技法です。主に2色の違った色糸を端から交互に縦糸に交差して柄を作ります。このときに糸をもじるようにねじるのでもじりとも呼ばれます。単純なシングルツイニングと鎖編みのような2重のものがよく見られます。他の技法と一緒に取り入れるとアクセントになり効果的です。モロッコのベルベル族の毛織物やバルーチ族のものによく見られます。また、キルギス族やクルド族に時々見られるテントの周りに巻きつけるスクリーンのような編み物(リードスクリーン=葦簀)にもこの技法が使われます。これはテントの中にぐるっと回されて網戸のような役割をする毛織物です。また北米の先住民族であるハイダ族の織物も有名です。

カード織り=タブレットウィービング=card weaving

カード織りはカードの穴にタテ糸を通し、カードを回転させて紐や帯を織る技法です。遊牧民の間では細幅のテントベルトなどによく使われる技法ですが、紀元前から行われていたと云われています。ヨーロッパではタブレット・ウィービングtablet weaving、アメリカではカード・ウィービングcard weavingと呼ばれています。

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テントベルトなどに使われるカード織り技法

イラン錦織り=ジィルゥ=zilu

古代イランのゾロアスター的雰囲気を色濃く残すカシャーンからヤズドにかけての地域に僅かに残る技法のが古代タテ錦織り(ジィルゥ)です。先に紹介したのジリ織りとは違います。織りの構造に関しては、イラン人の毛織物研究家パルビズ・タナボリ氏の「Persian Flat Weaving」 に詳しく紹介されています。手織りの古い実物はあまり多く残っていないようです。相当古くから伝わるこの織り専用の、竪機の織り機によって伝統的に織られてきました。基本的には2色のツートーンカラーでほとんどがブルーと白の組み合わせです。一見いぐさで編んだ花ゴザを連想させます。木綿地がベースの都会的な洗練された織物です。

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イランのヤズドで行われるジルゥ織り(空引き機)

 

いかがでしたでしょうか。一言に「技法」と言っても、トライバルラグやキリムの世界では実に多彩な織り方が深く伝えられていることがお分かりいただけると思います。
実はこういった技法などを把握しておくことで、自分の好みのルーツや「どういった経緯で作られたのか?」などの品々への理解にもつながったりすることも多く、それもラグとの生活を長く楽しんだり、新しく探したりする中でのヒントになっていくんですね。

みなさんの多彩で豊かなラグライフのため、また別の記事に分ける形で、更なる技法やまつわるエピソードなど紹介していきたいと思います。

執筆者:榊 龍昭