草原の赤い絨毯 ~トルクメン族の絨毯文化~vol.1

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Goods(モノ) - 部族の手仕事

トルクメンとは?いったい何処に住んでいて、どんな人達なのか?
「99%行かないかもしれない国」というTV番組がありましたが、そのなかでも中央アジアの北朝鮮、独裁国家トルクメニスタンと紹介されていました。確かに一般的な日本人の印象はそんなものなのかもしれません。まくらことばとして「未知の国」というフレーズつきで紹介されることがほとんどです。

ところが世界中の絨毯好きにたまらない魅力があり、トライバルラグにはまると何故かトルクメン絨毯にたどり着き、熱狂的なコレクター研究者が世界中にはたくさん存在しています。
トルクメン族は18〜19世紀にはかつての勇猛果敢な遊牧系騎馬民族から農民へと生活基盤を変え、激動の20世紀はソ連という社会主義国家に飲み込まれ、現在ではトルクメニスタンという国家で近代的な生活をする市民へと変貌をとげています。

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オイと呼ばれるトルクメン族のテント

言い換えると昔ながらの天幕(オイ)から定住生活へ、それも共同住宅から、個人の持ち家へと生活基盤は変化しました。世界最高水準の技術と歴史を持つトルクメンの絨毯文化のこれ迄と、今後どうなってくのかを何回かにわけて紹介してゆけたらと思っています。

騎馬民族トルクメンとは?

誇り高き騎馬民族として知られるトルクメン族は現在は中央アジアのトルクメニスタンを中心にイラン東北部のカスピ海沿岸地域、アフガニスタン北西部でなどで暮らしています。
かつてはドーム型のテント(オイ)を住居に遊牧生活を続けてきましたが、20世紀には定住生活が急速に広まり特にに中央アジア(旧ソ連邦)地域では、社会主義政権によるの定住化政策によって多くの遊牧民達ががテント生活を捨てました。今世紀中ごろまでは、アフガニスタン北部に住むトルクメン族は、昔ながらの生活スタイルを残してきました。その後の終わらない戦争や内戦で現在では情報を入手することが難しくなってきています。

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平織り地にパイルで文様を織り込みトルクメン独特のテントベルト

トルクメン文化の特徴の1つに強い部族意識があります、8000年とも言われる古い歴史を持つホラズム地方文化を頑なに守り続けて来た彼らにとって最も大切な手仕事が、乾燥地帯の暮らしに欠かせない羊毛を利用した絨毯です。

トルクメンならではのこだわりの紋様と色彩

西アジアの遊牧系部族たちは、歴史的にもオリジン(血族)にたいへんにこだわり、独自の部族文化を保ちつづけています。なかでもトルクメン族は紋様と色彩には特別なこだわりを持っています。絨毯・刺繍・フェルト・金属加工等の手工芸品に素晴らしい技術と美的センスを表現してきましたが、そのどれもに深い赤い色が使われています。中でもトルクメン族は最も赤にこだわり、赤のもつ呪力を信ずる部族といえるでしょう。

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衣装もアクセサリーも赤い色にこだわるトルクメン族

トルクメン族の織る敷物、袋物、テントベルト、動物飾り等ほとんどが茜染料で染められた深紅の毛糸で織られています我が国でも高貴な人の通る道に敷かれる深紅の絨毯、雛壇に敷かれる緋毛氈には、魔を祓う意味があるといわれています。

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トルクメンの中でも多様なギュルモチーフを持つヨムート支族

レッドカーペットと称される『赤い絨毯』にもおそらく彼らの織る赤の色が影響を与えているのではないでしょうか?また絨毯の紋様にもその特色が良く表現されていています。日本でいえば家紋のように、各部族ごとはもちろん更に細かく各氏族ごとにはっきり区別できるような特徴のあるギュルと呼ばれる独特の文様をもっています。

トルクメニスタンの国旗にも現在勢力の強いテケ、ヨムート、サリィーク、チョドール、エルサリの5支族の特徴を表現するギュル紋様(家紋)が取り込まれているほどです。

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上から順番に並んだ5部族のギュル文様が入った国旗

生活に深く結びついた絨毯

かつては中央アジアの草原をテリトリーに移動生活を営んできた彼らはオイと呼ばれるドーム型の天幕(モンゴルではゲル、またはパオなどとも呼ぶ)が住居なのですが、その内側は、様々な用途をもつ遊牧生活に欠かせない赤い絨毯やキリムが何枚も重ねられて敷かれています。なかでもテントの一番奥に敷かれる絨毯(メインラグ)は、トルクメン女性の手仕事の結晶といえる細かい打ち込みと洗練された文様が表現されています。テントの入り口や、女性が居る場所(向かって西側/男性は東側が一般的)を、カーテンのように他人から直接に見えないように隠す間仕切り用絨毯(エンシ)、も窓のような幾何学文様のバランス感覚が美しいことから、世界中の絨毯愛好家の間で高い評価をえています。

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トルクメン愛好家にとって憧れのサロール支族のエンシ

その他に衣類などを収納し、移動時には荷物袋として使われる大型の袋物(ジュワル)や嫁入り道具として特別に織られる袋物(トルバ)など必ずペアーで二枚が一組で織られまます。テントの中では棒枠に吊るされ、新しい衣類と着古した洗濯用のものとに分けて、収納する袋として使われる事が多いようです。婚礼の際には、持参の衣装を袋につめてラクダのこぶにぶら下げて、皆にお披露目するための細長い袋物(ジャラー)もトルクメン独特の毛織物です。かつてはラクダの背に乗って嫁ぐ習慣がありましたが、ラクダのコブに飾られるための絨毯(アスマリク)や膝飾り用の絨毯があるほどです。

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結婚式にラクダのこぶに掛けられる飾り用絨毯ヨムート支族のアスマリク
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大型のひとこぶラクダの背に乗って嫁ぐヨムート支族の花嫁

トルクメンにとって絨毯は欠かせない生活の道具ですが、それらはどれも赤い色です。他の部族やトルクマン同士でも異なる支族との違いがはっきりと分るために、その家々に伝わる家紋のような、格調高い独自な文様が表されています。いずれもひと目みて、トルクメンとわかる全体に連続した8角形のギュルと呼ばれる文様です。雨が少なく昼夜の温度差が激しい気候の中、移動を続ける遊牧生活は、想像以上に厳しいことでしょう。その一瞬の春に咲き乱れる真っ赤なケシの花畑をそのまま取り込んだような赤い絨毯は、彼らの美意識の結晶です。千里の道を駆ける駿馬を操り東西の歴史上の大国から恐れられたかれらは、『ノーブル・サヴェージ』=優美なる野生人と言えるかもしれません。

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婚礼用の持参品を入れてラクダに掛けるエルサリ支族の袋物

参考文献:「Turkmen」 Louise W. Mackie & Jon Thompson& The Textile Museum
:「Between the Black Desert &the Red」Robert Pinner & Murray Eiland Jr.

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執筆者:T.Sakaki