遊牧民に欠かせない用の美(サドルバッグの魅力)

Posted by tribe on 2014年10月24日

皆さん日常生活でどんなタイプのバックを使っていますか?
はるか昔から最近まで色々なタイプのバッグが世の中に出ては消えてきたと思います。そういう意味では常に新しいプロダクトが生まれ続けるのがバッグや靴のジャンルだと言えるかもしれませんね。
初っ端から少し脱線してしまいましたが、今回はトライバルラグに因む遊牧民にとって欠かせないモノとして登場するバッグ類(袋物)ーーなかでも「サドルバッグ」のことについて書こうと思います。

特にサドルバッグを集めようと思ったことはありませんが、いつの間にか少しずつ集まり、今では50点ほどのサドルバッグを所持しています。

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シャーセバンサドルバッグ

これは何に使うものですか?

展示会でサドルバッグを並べていると、「これは日本では何に使ったら良いんでしょうか?」と聞かれることがあります。確かに日本ではどのように使えば良いのか、こちらも適切な答えが無いままに「椅子の背もたれにかけたり、階段の手すりなどにかけて使うのも良いですよ。」などと、これまで的を得ないような答えをしてきました。

普通ラクダやロバなどの家畜を飼う事のない日本でサドルバッグを実用に使うのには、相当な工夫が必要かもしれません。
ごくまれに、使い道のはっきりしないサドルバッグを、なにも聞かずに購入してくれるお客様がいらっしゃいます。なぜだかとても嬉しくなり、サドルバックと共にいつまでも記憶に残っています。

日本では実用に適さないサドルバッグを何十枚も仕入れてしまうのには、自分なりに何かの理由があるとは思うのですが・・・。とても魅力的だから、という単純な答えしか見つけることができません。ただモノとして見た場合、最も遊牧民らしさを持つ毛織物のひとつだと感じています。

白と黒のバルーチサドルバッグ

サドルバッグについてはいくつかの思い出がありますが、特に最初にイラン北東部のマシュハドに行った時に見つけた白と黒のバルーチサドルバッグが印象に残っています。両方とも同じくバルーチ族の織ったものなのですが、とても対称的な2枚です。見たばかりの時ははどうしても同じ部族が織ったとは思えませんでした。

織り技法、色彩感覚、文様どれを取っても違いがありました。海外の資料などでよく似ているものを見つけましたが、やはり両方とにバルーチ族と分類されていました。部族絨毯(トライバルラグ)を簡単に分類したり、少しわかったような気になってはいけないのではないか?このサドルバッグを見るたびに、絨毯を初めて見た時のような純粋な気持ちに戻れるような気がします。

トライバルラグやキリムの背景には、部族の伝統をまもりながらも織り手の個性や独自のセンス、創造性がこめられていると感じます。そしてその織り手の「思い」がモノを通して見えてくるところが魅力の一つではないでしょうか?

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現在も自転車やオートバイに使われるサドルバッグ

ホーリジンとヘイベ

サドルバッグとは言うまでもなく、移動用の袋としての機能を持つモノです。そして馬やロバなどの鞍としての役目も合わせ持っています。
ペルシア語では「ホーリジン」、トルコ語では「ヘイベ」と呼ばれますが、アフガニスタンでは少し訛って「ホールジン」です。
ある時、日本に留学してから、祖国には一度も帰っていないというアフガニスタン出身の文学博士と合う事がありました。彼は西アジアと日本の文学、特に詩と俳句などの関係の研究者で、関西の大学で比較文学を教えていました。展示会に遊びに来てくれたのですが、サドルバッグを見ながらこちらが発した「これはホーリジンです。」という言葉に驚いていた様子でした。
アフガニスタンを出てから長い期間日本に滞在し何十年振りかに、初対面の日本人から「ホーリジン」という言葉を聞いたことが不思議だったようです。

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アフガニスタン タイマニ族のサドルバック

その言葉から彼が何を感じたのかは想像もつきませんが、とてもとても懐かしい気持ちになったという事は伝わってきました。後から、お祖母さんから聞く昔話に出てくる、「編み傘」ような響きがあったのではないかと思いました。「ホーリジンについて」の会話の後、彼とはいっきに打ち解けました。
長い間生活の中で続けて来た道具には、言葉にできない深みがあります。日本でも100年使った道具は九十九神(つくもがみ)のになる、というおとぎ話がありました。
道具が持つ手仕事としての温もりや心地よさをあらためて感じました。