素材について考える。羊毛について vol.1

Posted by tribe on 2015年1月9日

21世紀に入ってから、書店で自然環境にまつわるタイトルやジャンルの雑誌を見かけることが多くなってきました。ついこの間も、立ち寄った書店で『天然生活』というタイトルの雑誌が平積みされているのを見かけました。
『天然生活』は「ずっとい使い続けられるモノや暮らし」に着目した雑誌で、「ていねいな暮らし」を営むための大小様々なヒントやコラムが溢れている内容のライフスタイルマガジンです。
21世紀を迎え、極端な気候変動や自然災害などが増えています。地球環境に優しい天然素材が見直される中で自然環境への意識が高まり、環境に配慮した、土に還る素材を使っていこうという意識に変わってきたといえるでしょう。

私たち人類は、石器時代から身近にある天然物資を生活の道具として使用しその土地にある様々な素材を生活の道具に加工してきました。私たちの身近にある道具も天然素材のものからプラスチックなどの化学物質へ大きく変化してきています。

このブログでも、様々な地域や民族で使われている素材を紹介してゆきたいと思います。

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遊牧民の財産でもある羊たち

人は羊毛や獣毛などをいつ頃から使うようになったのか?


今回はメインビジュアルにも掲げた「羊毛」素材についてご紹介しましょう。

羊の先祖であるウシ科のアンテロープは、中新世紀(2300~500万年前)にはオーストラリアと南アメリカを除く全ての大陸に分布していたそうです。
古代の原生種とその後人間に有用な羊毛用や食肉用などに品種改良されたものに分かれるそうで、現在最も多く飼育され服地やニットなどに使われるメリノ種は南ヨーロッパから長い時間をかけて現在の高級羊毛へと改良された代表のようです。

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乾燥地帯に多いファットテイル種羊

牧畜の起源であると考えられるメソポタミア遺跡に近い、イラク〜シリア〜イラン国境地域のクルディスタン地方は7000年前から羊を家畜にしていた可能性が高いという研究があります。現在のこのあたりは、クルディとかバルーチとか部族名と同じ名前の羊が遊牧というスタイルで家畜化されていますが、ファットテイル種と呼ばれる尻尾に脂を蓄える種類が多く見られます。これは乾燥地帯に生息する羊の特徴でもあり、ラクダと同じように厳しい環境で何日間か水無しで生きられるようにという特徴を備えているからかと思われます。

現在世界各地で家畜として飼われている代表的な羊毛の種類をいくつかご紹介します。

●メリノ・・・世界の羊の半分近くの頭数を誇るメリノウールは、細く、柔らかく、羊毛世界のダイヤモンドのような存在です。

●ロムニー・・・毛肉兼用の長毛種の羊でウールカーペットの80%がこのロムニー種を使用していると言われています。

●ジャコブ・・・英国でスパニッシュ・シープと呼ばれこともあるようですが、そのルーツはメソポタミアにまでさかの茶と生成りのまだら模様の毛の短いタイプの羊です。

●チェビオット・・・英国の丘陵の名前がつくチェビオットは弾力性のある毛質でニットなどの編み物には最適のようです。また高級ツイードの記事などにも使用されたきました。

●サフォーク・・・日本で最も多く飼われているのがこのサフォークで顔が黒いのが特徴です。短毛で弾力性に富むので布団の中綿などにも使われるようです。

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顔の黒い羊サフォーク種 写真引用 http://utokazan.jp/chipping.htm

わたしたちが暮らしている自然条件に恵まれた日本の場合では、豊富な自然素材を様々な道具に加工してきた歴史をもっています。その知恵と技術は世界に誇れるものと言えますいえます。草や樹皮からは繊維を、木から材木や紙を、粘度質の土からは土器を作り出してきました。

それに比べると乾燥地域に住む人々は、極めて少ない素材の中でしか道具を生み出す事が出来なかったと考えられますことでしょう。大河の下流域(デルタ地帯)などの限られた地域を除いては、ほとんどが農耕に適さない土地です。荒れた土地を住処とする遊牧民にとっては羊毛という素材が何よりも大切な素材だったのではないでしょうかかと想像されます。

有機物である羊毛や獣毛は自然に還ってしまうため、パジリク絨毯のような特別な条件(パジリク絨毯)以外は千年を超える古いモノはほとんど見つかっていませんが、羊毛を加工して道具にしたと想像される石器などが8000年程前の遺跡から大量に発見されています。
(藤井純夫氏・小麦と羊の考古学)

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南レヴァント地方のタビュラー・スクレイパー

その代表が現在のヨルダン南部ジャフル盆地で発見されたのタビュラー・スクレイパーと呼ばれる石器です。この石器は羊の毛を刈るのにも使用されていただろうと想像されていますが、当時の羊が毛織物などの繊維に向いていたかどうかの研究も進んでいるようです。(つづく)

参考文献:「羊蹄記」 大内輝雄著  atricot jp 羊毛の種類について