サドルバックは遊牧民の腕の見せ所!?トライバルラグの楽しむには。#1

Posted by tribe on 2017年1月24日

ブログの更新が滞り、2017年の年明けからすでに3週間が経ってしまいました。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
年頭に今年こそはブログの頻繁な更新を念頭に願ったのですが、なかなか叶いそうにもありません。
あまり気負わずに、好みの話題からスタートしてゆきたいと思います。

このところ「ミニマリスト」を自称する人達が登場し、「ミニマリズム」という暮らし方が注目をあびているそうです。
ミニマル(最低限)という言葉どおり、モノを出来るだけ減らし、必要最低限の道具だけで暮らすという生き方を「ミニマリスト」と呼ぶそうです。
余計なモノを捨ててシンプルに生きるという考え方には共感できますが、やり過ぎると味気の無い生活になってしまうのではないかなどと余計な心配をしてしまいます。

サドルバック1-
遊牧民最大級のサドルバックを織るルル/バフティヤリー族
P2109290
表面にはスマック織りが使われるルル族の大型サドルバック

ミニマリストの元祖は遊牧民!?

望むか望まざるかは別として、最低限のモノだけで、しかも華やかに暮らしてきたのが遊牧民です。
繰り返しの引っ越しを余儀なくされる移動生活では、当然必要最低限のモノしか所有出来ません。数千年の長い歴史の中で移動生活を送って来た遊牧民は「ミニマリスト」といえるのでしょうか?どうも遊牧民=ミニマリストという構図がどうもしっくりきません。それはなぜなのか?シンプルでありながら華やかに暮らすことが可能なのか、という疑問も湧いてきそうです。それを知るには、遊牧生活に欠かせない道具として「モノ」を機能的な側面から分類し、役割や隠された工夫なども合わせて考察してくことが補助線となるかもしれません。

移動に欠かせないサドルバックは、機能性に富み、高い織り技術が必要ですが、なによりもその装飾性は最も見所のあるトライバルラグのひとつです。
今年最初のブログとしてサドルバックに隠された遊牧民の知恵とセンスを、ひも解いてみたいと思います。

ソドルバック4
左タイマニ族/ 右アフシャール族のサドルバック
P2129665
アフシャール族の紋織りのサドルバック

暮らしに欠かせない色々な袋物

遊牧生活では欠かせないのが袋物ですが、遊牧民はどんな袋類を使用してきたのでしょう?
生活に欠かせない袋類を分類してみたいと思うのですが、機能性はもちろん同時に専門性と多様性というある意味では反対の性能を持っています。
例えばマフラシュと呼ばれる、大型の寝具(布団)入れは移動の際はラクダのこぶの両側に振り分けの袋となりますが、テントの中では赤ちゃんの揺り籠としても使われるため、欧米ではベビークレイドルと呼ばれたりもするようです。同時テント内の収納(チェスト)の役割も果たします。

インターネットのサイトなどでは違う言葉で紹介されていることもありますが、ペルシア語とトルコ語の違いで本来は同じ役割を持つ袋です。

1.サドルバック (鞍掛け袋)イランではホリジン、トルコではヘイベ。
2.ソルトバック(塩袋) イランではナマクダン
3.グレーンバック(穀物及び道具袋)イランではジュワルもしくはタッチェ、トルコでザックもしくはチュワル
トルクメンの大型の袋もジュワルもしくはチュヴァルと呼ばれる。
4.クッション (枕)イランでバーリシト、トルコでヤストック
5.布団袋 イランでマフラシュ、トルコでベシック。(欧米ではベビークレイドル=赤ちゃんの揺り籠)
6.飼い葉入れ イランでトブレ。
7.小物入れ イランでチャンテ。
8.カラトリー袋(スプーン入れ) イランでガシュクダン。
9.トルクメンの婚礼用の袋類(ジャラー、トルバ、オクバシュ等)。

このところ再注目されている民藝は手仕事復興の運動として、「用の美」というわかり易く親しみ易いフレーズを生み出しました。
このブログでも何度か民藝運動を取り上げてきましたが、袋物はまさしく民藝の精神に近い道具として完成度の高いものです。ところがサドルバックの最大の魅力は道具としての用途はもちろん、その「用」を越える「美」という部分に最大の労力がこめられているように感じます。

サドルバック2
イランのカシュガイ族とルル族のサドルバック
450P1010681
ルル族のパイルサドルバック

サドルバックは遊牧民の女性達の腕の見せどころ!?

サドルバックの最大の魅力は、部族の象徴的モチーフと色彩感覚が組み合わされた美しさにあると言えるでしょう。同時に表面、底、裏面、止め口など様々な織技法を駆使する必要があるため、高い技術が求められます。
そのためサドルバックを織る事は遊牧民の女性達にとって最大の腕の見せ場となります。実生活でも季節の移動や町への買い出し等など、馬やロバの背中に積まれたサドルバックは人の目に触れる機会が多いのです。
キリムや絨毯などはテントの中の敷物としてし使われますが、サドルバックは家族以外の人達にも目にするため、周囲の評判にもなりやすいのです。部族社会では織り物の上手な女性は最大の尊敬を集め、族長など有力者達の妻として玉の輿に乗る機会がやってくるかもしれません。

息子を持つ母親達はの大切なお嫁さん選びの基準として、サドルバックの出来具合が評価に繋がることもあるでしょう。
織技術からは織り手の誠実さや忍耐力、配色などの美的なセンスからは織り手の生活への知恵などが、伺い知れるのかもしれません。
バルーチ族はサドルバックが嫁入り道具のひとつだそうですが、彼らと関連部族に優れたサドルバックが多いのもその一つの理由かもしれません。

トライバルラグには部族意識の結晶のような文様と伝統的な配色に加え、織り手の遊び心(センス)が微妙に組み合わされているもの大きな魅力と言えるでしょう。

サドルバック3
左と真ん中シャーセバン族・右バールリバルーチ族のサドルバック
400P1010542
ジジム&キリム織りのシャーセバン族のキリムのサドルバック

ミニマリズムとは対極にありそうな濃くて重厚なサドルバックですが、最もトライバルラグらしい魅力を持つ毛織物なので、もう少し続けて紹介したいと思っています。