ウズベク〜キルギス〜カラカルパク〜カザク(中央アジアの部族)

Posted by tribe on 2020年6月10日

部族分類の中ではほぼ最後になりますが、それにしてはかなり時間が経ってしまいました。中央アジアのトルクメン以外のトルコ語系遊牧民の絨毯や手仕事についての考察です。

ウズベク〜キルギス〜カラカルパク (中央アジアの部族)
主な居住エリア:(中央アジア、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン、アフガニスタン北部)
主な集積地:(ブハラ・ヒワ・サマルカンド・マザーリシャリフ、マイマナなど。)

絨毯をあまり織らないウズベク族

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ウズベクらしい文様の袋物(ナフラマージ)の表皮

ウズベク族は中央アジアのトルコ語を話すトルコ系民族ですが、絨毯の生産はあまり多くありません。
絨毯以外の工芸品としては「スザニ」と呼ばれる刺繍布と「アトラス」と呼ばれる絹絣の手仕事は世界的に高い評価を得ています。
中央アジアのウズベク族はブハラ、サマルカンド、ヒワ、タシュケント、シャフリサブスなどオアシスの町を拠点に洗練された工芸品を産み出し、シルクロードの文化交流に関係が深い民族だと思われます。
文物の流通には商業的な才能が豊だったと言われるソグド人の存在も欠かせません。
古くからこの地域に住んでいたペルシャ語系のタジク族やチュルク語系のトルクメン、キルギス、カザフ族達とも交流しながら様々な技法や文様を育んできたと思われます。
特に「星文様」、「八角形のギュル文様」は中央アジアを中心に西はトルコ、東はウイグルにも共通した文様表現です。

織物では、絨毯、キリム、スザニ(刺繍)、アトラス(絹絣)、アドラス(絹と木綿の絣)、フェルト、リードスクリーン(文様入りりすだれ)など多岐にわたります。
その他にも金属加工、陶磁器、タイル、木工など工芸品のレベルが高く、旧ソ連以前のハンドクラフトは世界のコレクターや美術館の収集品として高い評価を得ています。

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とても珍しいウズベク族?と思われる絨毯

部族によって作るアイテムが多少異なり、ウズベク族とタジク族はスザニとアドラスに素晴しい伝統を持っていますが、一部の袋物を除いて絨毯(パイル)はあまり多く見られません。
ウズベキスタンとトルクメニスタンの国境付近にあるアラル海の南、世界遺産の古都Khiva(ヒワ)の北に位置するカラカルパク地方では、大形のギュル文様が表現された味のある絨毯を織っています。
生産されたのはソ連邦が成立した時代(1930年頃)くらいまでで、トルクメン族とウズベク族を足して割ったような味わいがありますが、個人的には大好きです。
ただ限られた地域なので人口も少なく、全体数はあまり多くありません。

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大変に貴重になっているカラカルパクの絨毯

キルギス〜カザフ族は刺繍、絨毯、フェルト、リードスクリーンなど生活の道具として織られたトライバルラグが僅かにみられます。
同じドーム型テントの遊牧民であるトルクメン族の敷物がパイル構造の絨毯なのに比べ、キルギス〜カザフ遊牧民はフェルトの方が一般的です。
これはモンゴルの遊牧民にも共通しますが絨毯文化とフェルト文化の分岐点がどの辺か、また絨毯(パイル構造)を作る部族とあまり作らない部族の違いは何かなども、今後考察してみたい課題です。

ジュルヒュールと呼ばれるプリミティブラグ

ウズベク〜アフガニスタン国境の山岳地域に暮らすアラブ系遊牧民によって織られる、シンプルで大胆な文様のジュルヒュール(熊の毛皮)と呼ばれる絨毯(パイル)があります。
プリミティブな魅力があるので、一部の絨毯マニアにコレクションされています。
昔ながらのシンプルな結びや後染めの技法が使われているので、相当に古くから存在していた絨毯でははないかという研究者もいます。
大きく分けて、文様のない無地と、大胆な菱形が連なる幾何学文様やウズベク族の得意な絣柄に影響を受けた文様が見受けられます。
伝統的なものはタテ糸が表に出る、原始的な織技法を使って織られています。織り機の幅が30cm未満と狭いので仕上がりが細長く、その細幅を何枚か繋ぎ合わせて大形の敷物にしています。
また赤と濃紺もしくは深緑の2色染めのシンプルなジュルヒュールは、最初に生成りの細長いラグを織り、後から染めるという極めて珍しい染色方法(後染め)が取られています。
こちらもなぜ無地と文様が織り込まれている違うタイプのものがあるのかという考察が必要です。

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シンプルなタイプのジュルヒュールの表面
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シンプルなタイプのジュルヒュールの裏面

寝具や衣類を収納するナフラマージ(袋物)

イラン北西のシャーセバン族が織ることで知られる立方体のマフラシュ(トルコ語ではべシック)と呼ばれる寝具袋は有名です。(カシュガイ、バフティヤリー族に時々みられます。)ウズベク族もそれに似たナフラマージと呼ばれる箱型の袋物が絨毯(パイル)で織られています。
ただシャーセバンに代表されるマフラシュとの違いは、装飾部分が前面の両サイドだけで底と裏面には木綿地の素朴な布が充てられています。
そのためナフラマージが市場に出てくる時はほとんど裏面が外されています。
どうして底と裏面が木綿なのか?完全な立方体でなく船底のように底部分に傾斜が有るのかなどはわかりません。
トルクメン同様袋の前面と側面の文様は共通していて、例外を覗いてほぼ同じような文様が織り込まれています。

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上下のキリムエンドもウズベクらしいナフラマージの表皮

蜘蛛、蝎、蛇文様を好むラカイ族の刺繍

ウズベキスタン〜タジキスタン国境(クングラート)にはラカイと呼ばれるワイルドな遊牧民が居り、彼らの刺繍布、袋、テント飾りなどは技術的な緻密さと他に無いユニークな文様表現からアートとしても高い評価を得ています。
10年ほど前ですが、絨毯愛好家の専門誌HALIマガジンにラカイ族の特集が組まれていました。
「スパイダー、スネーク、スコーピオン」というタイトルで、少し恐ろしい生き物が文様に使われるという内容でした。
いずれも毒性を持ち、野外で暮らす遊牧民にとっては身近にいる恐怖の存在かと思われます。

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独特な文様のラカイ族の刺繍が施された袋物

自然界に存在する人間にとって恐ろしい生き物を畏怖の念を持って神格化し文様として表現し、魔除的な意味を持たせることは比較的見られます。
ラカイ族の刺繍にも場合によっては人に禍を及ぼす生き物達を、美しい文様にして悪いものを遠ざけおようとする思いを感じます。
ただ1930年代以降はソビエト連邦となり、その他の中央アジアの遊牧民と同様に遊牧生活が失われたことで、手仕事も減少していったと思われます。
繰り返しになりますが、現在では大変に貴重な手仕事となっています。

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ウズベクラカイのガジャリと呼ばれるテント内の掛布

参考文献:UZBEKISTAN Thames and Hudson
Traditional Textiles Central Asia JANET HAVEY 著

参考サイト:JOZAN // https://www.jozan.net/gallery/oriental-rugs/uzbek-rugs/karakalpak-rugs/
oturn // http://www.oturn.net/rugs/karakalpak-main.html
 tribe-log 「熊の毛皮という名のプリミティブな絨毯」 // http://tribe-log.com/article/3708.html