トライバルラグって何? その1.

Posted by tribe on 2020年3月11日

『トライバルラグってなに?!』

本格的に手織り絨毯が日本に輸入されてからかれこれ半世紀ほど経ちますが、世界の手織り絨毯の広がりと比べると、日本ではかなり偏った絨毯しか紹介されてこなかったように思います。
最初に本格的に輸入された手織り絨毯は中国段通でした。
その後はバブル絶頂期のペルシャ絨毯。
十数程前年には全国的なギャベブームがありました。

どれも手織り絨毯ですが、どうも売り手の利益が優先するような絨毯ばかりだったように思います。

ここ数年前から「トライバルラグ」という名前の絨毯がじわじわと知られるようになってきましたが、ネットやお店などで見られるトライバルラグのほとんどはそれ風で、本物とは程遠いように感じます。
本来の「トライバルラグ」は、遊牧民の生活から生まれた精神性の高い毛織物です。商業目的だけではない、家族への思いがこもった手仕事です。

このブログでもこれまでにトライバルラグの魅力を紹介してきましたが、引き続き様々な角度から紹介して行きたいと思います。

『足元からはじまる心地よい暮らし』

ここ数年の地球温暖化、経済格差の増大、未知の感染症への不安など現在の我々を取り巻く生活環境が大きく変わろうとしています。
IT化や少子高齢化が進む将来への不安、早すぎる社会の変化にどう対応したら良いのか、情報の大洪水の中で、身動きが取れない状況にあるとも言えるかもしれません。
今大切なのは見えない世界に振り回されずに、身近な足元を見すえ、軸足をしっかりさせることから始まるように感じます。

長い長い歴史の中で、多くの人々を魅了してきた工芸品の一つである絨毯は、厳しい環境を受け入れながら、しなやかに生きて来た民族の知恵と美意識の結晶です。
時には野生味に溢れ、時には母のように優しい手織り絨毯に直に触れることで、足元からはじまる心地よさを共有して行きたいと思います。

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『トライバルラグとは?』

トライバルラグとは直訳すると「部族の絨毯」になると思いますが、日本では「部族」という言葉に馴染みがないせいか、親みがないように思います。
かといって「トライバル」といっても多くの方は耳慣れない言葉だと思います。
知人の九州の絨毯屋さんがトライバルラグという名前で、雑紙に広告していたら「トライバルタトゥー=刺青の店」と間違われたという話を聞きました。トライバルはタトゥーの方が一般的なようです。
世界と日本を比較してばかりで聞き苦しいかもしれませんが、世界的にはトライバルアート、トライバルラグ、トライバルテキスタイルなどなど、私達の大先輩でもある先住部族の手仕事は高い評価を得ています。
絨毯に関しても数え切れないほどの本格的な研究書が出版されていますし、世界各地でそれぞれの言葉で愛好家のための専門誌も発行されています。
絨毯に限らずトライバルテキスタイル(民族染織)やトライバルアートも含めて、これからもさらに掘り下げて紹介していきます。

まずはトライバルラグを紹介する上で下記のいくつかのトピックに分けて紹介していきます。

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1.民芸とトライバルラグ

トライバルラグが生活の中から生まれた常民の手仕事だとすると,日本人の暮らしの中から生まれた「民芸」という手仕事とどのような関係にあるのかを知りたくなります。
このところは若い世代の中からも広く民芸を理解し、生活に自然に取り入れている人達が増えているように思います。
民芸については長「民芸運動」という歴史もあり、多くの著名な研究家や工芸家がおられるおで、ここでは紹介しませんが、松井健氏という研究者はぜひ紹介したいと思います。
なぜなら松井氏はもともとは人類学者であり、長い間アフガニスタンのパシュトゥーン族やバルーチ族などの遊牧民の研究をされておられました。
ここ数年は民芸と柳宗悦氏を掘り下げ、数冊の研究書を出版されています。昨年から日本民芸館でも、少数精鋭の特別講座をされておられますが、倍率が高くて参加できていません。
まずは松井先生の本の中から感じた民芸の本質を物差しとして、トライバルラグとは何かを考えて見たいと思います。

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2.海外のトライバルラグ研究者と書籍

一昨年から昨年は絨毯研究の世界において大きな損失の年でしした。このブログでも紹介したドイツ人で長らく天然染料と遊牧民の織物の研究をされたハロルド、ベーマー氏と
イギリス人でオックスフォード大学で絨毯研究の基礎を築いたジョン・トンプソン氏が亡くられました。絨毯研究の世界で二人の巨人を相次いで失くしたことは大きな損失です。
彼らの功績と残してくれた書籍などから学べることをわずかばかりですが伝えられたらと思います。
巨人二人の他にも、名著「TRIBAL RUGS」を記した、ジェームズ・オピエ氏と同じく「TRIBAL RUGS」の著者ブライアン・マクドナルド氏、そしてイラン人の彫刻家でありながらたくさんの
トライバルラグに関する本を出版した、パルビズ・タナボリ氏、シャーセバン族や絞り込んだ部族に関しての本を出版したジョン・ウェアタイム氏などの書籍も紹介します。

3.日本におけるトライバルラグの先駆者とコレクター

2016年に日本では初の絨毯に関する本格的な書物が出版されました。こちらも何度か紹介しましたが、慶應大学でイスラム美術を教えておられる鎌田由美子さんが現在「柳宗悦や夏目漱石などの著名人と絨毯について研究されています。
もうすぐ、その研究をまとめた本が慶應大学出版から発行されるそうです。また少し前まで上野の東京博物館で展示されていた松島きよえさんも遊牧民に魅せられ、トライバルラグを収集した草分けのひとりです。
また個人的な愛好家ながら海外の書籍を翻訳しブログなどで紹介している、田井みずさん、故人ではありますがトルクメン絨毯を長く収集し、トルコ語もマスターしトゥルク系文化を掘り下げていた村田清氏、トルクメンのテケ族の絨毯織の技法を追求している橘真美さんなども紹介していきます。