「女房と絨毯は古い方が良い?」〜経年変化と羊毛の関係〜

Posted by tribe on 2015年5月23日

素朴な疑問としてどうしてキリムやラグが古く成るほど、価値が上がるのか疑問ではありませんか?
絨毯やキリムの原産地である西・中央アジアではもちろん欧米各地でも、絨毯やキリムは古い方が価値があることがあたりまえですが、その常識は日本ではほとんど通用しないようです。
毎月のように行われているアンティークラグのオークションでも16世紀や17世紀の絨毯が出品されると、ゼロの数を数えるのに苦労するような価格になっています。
このブログでも絨毯文化先進国では、どうしては古いものほど価値が高いのか?その事実と背景を繰り返しになりますが、紹介し続けたいと思っています。
今回のテーマは羊毛という素材が使い込む事で艶がでて、美しくなってゆくというトピックです。

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19世紀最初に織られたバルーチのアンティークラグ

古い物に対する価値観

東京や大阪など都会の百貨店などで絨毯の展示販売をしている時に、こんなことがありました。
熱心に絨毯に見いっているお客様との対話で「実はこの絨毯は100年前の古いモノなのです。」と伝えると、とたんに「え〜!人が使ったモノなの?」もしくは「これは中古品なの?」などと、とたんにテンションが下がってしまうことが度々ありました。
百貨店で古い手仕事を販売すること自体に無理があるのかもしれませんが、古い絨毯ほど価値がある事がほとんど知られていない事実を思い知らされます。言い換えると状態の良い絨毯は見た目では、それほど古びて見えないとも言えたりします。

ジェネレーションの違いもあるでしょうが、戦後間もないモノの不足に育った世代の人達は、ことさら舶来のエキゾチックなモノやブランド品にひかれる傾向があるのかもしれません。
若い頃、アメリカの古着が大好きでしたが、親からはあえて古着を買うのか理由が解らないと言われたことがありました。時代は変りつつあり、最近は古着やアンティーク雑貨を生活に取り入れながら味わいのある生活を愉しむのは普通になってきているといえるでしょう。

羊毛の経年変化とエイジング=熟成とは

ここ50年程続いている欧米を中心としたアンティーク絨毯の収集や研究でも、素材としての羊毛の変化についての研究が進められています。羊毛は時代を経て変化して行くのですが、特に使うこと(擦る)で艶が出る羊毛の変化は最もわかりやすい経年変化です。

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高価な値段で取引されるヴィンテージのジーンズ

経年変化というと一般的には金属疲労などのように、衰えていくニュアンスがありますが、例えば革製品や14オンスのデニム生地など、使い込む事でなんとも言えない味わいや風合いが出てくる素材があります。最近は新品をわざわざストーンウォッシュ加工したり穴を開けたりして古く見せているものもあります。最近はこのように使い込まて味わいが出てきた状態をエイジング=熟成という単語で表現する事もあるようです。モノを大切に使うことは昔から日本人が得意としてきた「もったいない」に通じる行為ではないかとも思います。

年を重ねる事で変化する羊毛

絨毯やキリムの場合、たんに古くて汚れがひどかったり、破れていたりする場合は別として羊毛の質がよく、丁寧に織られたもの、さらに草木などの天然染料で染めらたものであれば古いモノのほうが価値があるというのは昔から良く知られた事実です。

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良質の羊毛で織られて、100年程経過したトライバルラグ

例えはあまり良くありませんが、純毛性の学生服などが着ていくうちにひじやひざ、お尻などの良く擦る部分だけがツヤツヤになっている事を、ご記憶にある方も多いのではないでしょうか?これも羊毛の持つ経年変化のひとつの例です。
これがアクリルなどの化学繊維の場合は逆で新品の場合はツルッとした見た目ですが、古くなる程擦られた部分に毛玉が出来たりザラザラになってしまう事さえもあります。

最近はあまり聞かなくなりましたが、日本では「女房と畳は新しい方がいい」という諺がありますが、イランでは「女房と絨毯は古い方が良い」ということわざがあるそうです。ちなみにフランスでは「ワインと女性は古いほうがいい」と言うそうです。

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使うことで艶が出たバルーチ族のパイルラグ

この諺は正反対な価値観を持つように感じていましたが、これも時代とともに変りつつあるように思えます。最近では畳がある家はどんどん少なくなり、次世代では畳という言葉は知っていてもその感触や新しい畳の香りなどはほとんど無くなってしまうので、この諺も残念ながら消えていく傾向にあるでしょう。
自ら使いながら、じっくりと熟成されてゆくモノとつきあいは、楽しみでもありますが同時にモノへの愛情や大切にする気持ちなどが育まれてゆくことにも繋がるのではないかと感じます。次の世代まで使い続けてることで本当の価値が伝わるのも絨毯の魅力のひとつです。