The Textile Museum Washington D.C「織り物博物館」リオープン!

Posted by tribe on 2015年4月4日

日本ではパブリックな「織り物博物館=Textile Museum」が存在していないことを紹介していますが、今回もまた海外での羨ましいニュースです。3月21日アメリカワシントンD.C.のThe Textile Museum のがリニューアルオープンしました!

先日駒場にある「日本民芸館」の講演会で『テキスト』と『テキスタイル』の因果関係についてのトピックがありました。テキスト=(教科書や文章、文字データーなど)とテキスタイル(織り物)はとても関係が深く、ラテン語の語源も共通しているというお話でした。私たちにとってとても身近で様々な影響を受けているはずのテキスタイルについて、その歴史や意味を掘り下げて考えたりする事はあまりないようです。欧米だけでなくアジア・アフリカ各地にもテキスタイル(織り物)美術館は存在しています。インドのキャリコ美術館は染織品マニアにとってはたまらない魅力ですが、戦火の激しいイラクのアルビル(クルド人自治区)にもキリムや絨毯を集めた立派な美術館が存在しています。

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イラクのクルド人自治区アルビルのクルド織り物美術館

今回のThe Textile Museum のリオープンの展示会では、人とテキスタイルのかかわりをテーマに、多様で奥行きの深いテキスタイルの世界を、最高レヴェルの布、民族衣装、ラグやカーペットの実物を展示することで表現しているようです。

アイデンティティーを解きほぐす(私たちのテキスタイルと物語)

それまでの独立した美術館からThe George Washington University Museumと併合された形でのリニューアルオープンですが、今回の展示内容はこれまでのThe Textile Museumの集大成のような充実した展示会が開催されています。織り物で「アイデンティティー」を解きほぐすという少々難解なタイトルですが、2000年の歴史を持つ織り物文化を5大陸各地から時代を超えて収集し、織り物の存在が年代を超えて、個人的、社会的、政治的、経済的な人間の文化的背景との関係性を解明するという壮大なテーマのようです。

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アーメダバード キャリコ織り物美術館

言い換えると、時間を超えた民族性や宗教的信頼に於ける織り物文化は、個人のステータスとしての衣服や装飾品や生地として深く係わり合いながら現在まで続いてきたと言えるでしょう。
世界各地から集められた個性溢れる100点以上のマスターピースがどんな工夫で展示されるのか、The Textile Museumのサイトに紹介された29点の織り物を見るだけでもわくわくします。

【オープン記念の特別展示は3月21日から8月24日まで開催されているそうです。】

信楽のMIHO美術館が所有する謎の絨毯についての記念講演

開館記念のオープニングレクチャーには絨毯研究界で長きに渡り活躍しているイギリスのJon Thompson氏による講演会が行われました。
Thompson氏の講演内容は1931年にロンドン美術館のオープン記念展示会に出展され、その後の第2次世界大戦中のポーランドから消失してしまった、幻の「Branicki Carpet」を含む世界の最も注目すべきオリエンタルカーペットについての『謎』と『モチーフ』についての調査報告でした。

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戦争中に消えた幻のBranicki Carpet

中には元々リトアニア=ポーランドの貴族が所有し現在は我が国ののMIHO美術館が所有している謎の多い「Sanguszko carpets」とThe Textile Museumの創始者であるGeorge Hewitt Myersによって1951年に寄贈された貴重なコレクションも含まれていました。

「Branicki Carpet」「Sanguszko carpet」
は現存する絨毯の中でも「Ardabil Carepet」と並んで世界の至宝と賞賛される絨毯ですが、その1枚が日本にある事実はほとんど知られていません。これも絨毯の「謎」の一つかもしれせん。絨毯研究分野において独自な切り口による研究を行いながら、ロンドンのOxford大学で「絨毯学」の基礎を築いたJon Thompson氏の講演を是非とも聞いてみたいものでした。

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MIHO MUSEUM所蔵「Sanguszko carpet」

素晴しい展示品だけでなく充実したkeynote lecture(レクチャー&ワークショップ)

これまでに数多くの伝説的な展示会を行ってきたThe Textile Museumですが、その魅力は展示品もさることながら、展示テーマに添ったプログラム&イベントが充実していることでしょう。昨年行われたコンゴのクバ王国を中心としたテキスタイルの展示では特別ウィークとして約1週間にわたり、世界各地から専門家やコレクターを招いたレクチャー・ワークショップなどが開催されていました。その他にもテキスタイル旅行プログラムとして専門家が同行するウズベキスタンイカット工房見学ツアーなども開催されています。

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ウズベキスタンのアトラス(絣)工房

また、テキスタイル関連のライブラリーやヴィジュアルアーカイブのコレクションなども隣接するThe George Washington 大学との相互協力によりさらに充実されているようです。布や絨毯が好きな者にとっては、まったく至れり尽くせりのシャングリラ(楽園)のようなアミューズメントパークです。

(*注⒈16世紀に製作されたこの絨毯はペルシャ(イラン)からトルコを経由してポーランドに渡りサングスコ王家で大切に保管されていたことからその名で呼ばれているようです。その後、NYのメトロポリタン美術館に寄託されていたのだが、それが今では日本の「MIHO MUSEUM」が所蔵している経緯があります。)

引用:Washington, D.C’s newest cultural destination joins The Textile Museum with the Albert H. Small Washingtoniana Collection. http://museum.gwu.edu/
写真提供:ブログ イスラムアート紀行