民族と民俗の手仕事 エスニックとフォークロアの違いとは?

Posted by tribe on 2015年7月5日

世田谷区の三軒茶屋にある「生活工房」のイベントで『ものつくりの時』というドキュメンタリー映像の上映会に参加しました。

今しか手に入らない材料で、今だけ作るもの。一年中入る材料で、一年中作っているもの。世界の様々な「ものつくりの時」を、映像で見て行きます。

埼玉県秩父に伝わる「竹縄」・福井県「和紙作り」・福島県昭和村の「からむし(苧麻)と麻」(民族文化映像研究所)

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福島県昭和村でからむし糸を紡ぐ

ダゲスタン「アヴァール人の絨毯とキリム」・インドネシアジャワ島「ガジ村の手紡ぎ更紗」・セネガル「ジャワラ村の藍染め」・ペルー「チチカカ湖のアシ船作り」(国立民族学博物館)のものつくりの映像を見ることができました。どれも貴重な映像でしたが、現在ではすでこのような手仕事が終ってしまった地域もあるかもしれません。そう思うとなんだかせつない思いにもなってきます。

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コーカサスダゲスタン地方のアヴァール人

民族と民俗から見えてくること

アジアやアフリカの少数民族や先住民族の布や手仕事に興味を持ち、その美しさに魅せられていくうちに、それらが、いつ、どこで、どのように生まれた来たのかが知りたくなってきます。
その源流を辿っていくと、そこには民族的な広がりと、民俗的な奥行きが見えてきます。民族学(エスノロジー)とは多様な環境で生きる人々の分析と統合に多様な意味や価値を見いだし、民俗学(フォークロア)は、それらを生きる人々の基層に根ざした風習、芸能、昔話などの伝承を明らかにしてきました。

このところ、モードの世界でフォークロアや「トライバル」という言葉を耳にします。直訳すると「部族風」のという意味になるでしょうか?雑誌などでもそれらしいファッションの特集記事を目にします。絨毯の柄をそのままプリントしたジャケットやスカート、カラフルなミーラーワーク刺繍やビーズをアレンジした、バックなど洗練と野性味を併せ持つセンス溢れるアイテムがパリやミラノのコレクションで披露されているようです。

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GIVENCHY 2015 autumn-winter collection

これらは昔からあったエスニック(民族調)のモードとどこかに違いがあるのでしょうか?表層的なファッションの世界からもう少し掘り下げた、生き方や思想などに結びついているでしょうか?

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Burberry 2015 autumn-winter collections

身近な素材を加工する技と匠

日本では十数年にわたって、山ぶどうやあけびの蔓で編んだ手籠を持つのが、流行にになっていましたが、その人気は衰えることはなく、中には数十万円という価格のものもあるようですが、今や流行というよりは定番になりつつあるようです。これらが流行りだした頃、偶然に青森市の三内丸山遺跡で、イグサ科の茎を編んで作られたと言われる日本最古の編み籠を見る機会がありました。5500年前のものと推定される「縄文のポシェット」と名付けられた13×5センチ程度の小さなものなのですが、実物は繊維の表面がツヤツヤでなんとも言えない風合いがあり、ひときわきらめく存在感を持っていました。

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青森県三内丸山遺跡で発見された縄文ポシェット

他にもたくさんの歴史的な発掘品が展示されていましたが、縄文ポシェットの深い味わいと存在感はその後の編み籠文化の源流になったのではないかという思いが強くのこりました。
おそらく5000年も前から私たち日本人は、身近にあった素材(植物繊維)を最大限に利用し、様々な身の回りの道具に加工してきたことでしょう。イグサのゴザやタタミなどは、最も身近にあったものかもしれません。またそれが今にも密接に繋がっていることに少なからず驚きまました。

有名ブランドとトライバルセンス(部族の手仕事)の関係とは?

西・中央アジアの遊牧民たちは、ヒツジやヤギ、ウマやラクダと共に生活を続けてきました。生活の道具としての毛織物(ラグ&キリム)はもちろん、馬具や蹄鉄という金属加工の技術も身につけてきました。同時にこの技術は身を飾ったり、護身用のアクセサリーや指輪としても発達していったことでしょう。馬具の加工職人の卓越した技術をそのルーツに持つエルメスなどのヨーロッパの一流ブランドにも、そのような影響はあるようです。
数年前にサハラ砂漠をラクダで移動する遊牧系部族のトワレグ族に、アクセサリーのデザインを依頼したブランド(エルメス)がありました。馬具職人の伝統と遊牧民のセンスが融合した個性が高い評価を得たようです。

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エルメスがトワレグ族にオーダーしたベルトのバックル

このような斬新さと伝統を併せ持つトライバルセンスが特別なものではなく、ファッションアイテムのひとつとして身近になってきたことの背景には、世界中が急速に均一化(グローバリゼーション)されていくなかで、自分がどこのだれなのかを問われる時代になって来ていると言い換えられるかもしれません。

伝統的な手仕事のこれから

ますます進化を遂げる、情報技術のスピードはとどまるところを知らないようですが、世界のどこにいてもそれぞれの個人の情報を発信し、それに対して瞬時にリアクションすることが可能にな時代なってきたことは、自分自身のアイデンティティをしっかり持つことの重要さがますます見直されていくことでしょう。
東北生まれのわたしがどうして手編みのカゴや布にひかれたりするのでしょうか?

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こぎん刺しに良く似たジジム織り技法のクルド族の塩袋

津軽の雪の夜に忍耐つよく施された「こぎん刺し」が美しいと思うように、それに似た文様や風合いを持つ遊牧民の毛織物に魅せられるのでしょうか?まずは自分にとって何となく気になるモノや無意識にひかれるモノに気づくことが出来たら、それはより深く自分を知ることへ、繋がってゆくきっかけとなるのではないでしょうか?そしてそれを生み出した世界に繋がる文化の交流や、色彩や柄のとの関係が知りたくなってくるかもしれません。

民族と民俗の関係をタテ・ヨコに織りなしていくことによって、ややもすれば消えてしまうかもしれない先住の人達の知恵(センス)や霊性(スピリチュアリティ)を現代社会に生かしてゆけることを願っています。

引用:世田谷文化生活情報センター 生活工房 2015 イベントより
引用:BURBERRY 2015 autumn-winter collectuin
引用:Givenchy 2015 autumn-winter collection