ノマドとは?本当の遊牧民を知るための1冊
Posted by tribe on 2014年10月18日
みなさんは最近ではAmazonなどで本を買ったりする機会が増えたのではないでしょうか?トライバルラグやテキスタイル、その他様々な手仕事についても本当にたくさんの本が出版されてています。外国語圏の本も含めるとその数は計り知れませんが、Amazonなどのネットショップに掲載されていない書籍も含め、日本ではトライブ(部族)とその手仕事に対する理解、研究、書籍の発行などがかなり遅れていることがわかってきます。
世界的にはトライバルラグを軸にした部族紹介の本が信じられないほど多く出版されていて、別のページでも書きましたがアメリカやイギリスでは「絨毯やテキスタイル関係の専門書店」が何件も存在しています。
青山や銀座などでは、アートやデザイン分野に特化した専門書店を見かけることがありますよね?
トライバルラグやテキスタイルにまつわる情報もそれらと同じほどあります。皆さんの想像よりもはるかにたくさんの情報が世界の愛好家の間に広まっています。
話が少し逸れてしまいましたが、今回はそんな部族の文化に関わる書籍で、特にこのブログでもよく出てくる遊牧民について「超高値」の1冊を紹介したいと思います。
絨毯関係の研究書でこのところ最も値上がりした本が「The nomadic people of Iran」というイランを中心とした遊牧民研究の本です。
Amazonなどで検索すると、新品は6万円という販売時から数倍の価格がついています。
(2015/3月現在)この本は2002年に出版されましたが、2009年頃までは1万円程度で購入できました。2014年秋には20万を超えていた時もありました。どうしてこれだけの高値になってしまったのかは想像もつきませんが、素晴らしい内容の本に間違いありません。
3人の巨人の共同作業による作品
Richard Tapper, Jon Thompson and Kshraianという3人の研究者と写真家による合作として生まれた本です。なかでもイラン人カメラマン、カスライアン氏の写真は素晴らしいです。
この本が生まれる背景としては、私は絨毯研究家のJon Thompson氏がカスライアン氏の撮影したイラン各地の遊牧民の映像に魅せられて、書籍化したのではないかと想像しています。
30年以上イラン各地を巡り、自然、人々、遺跡、都市などを取り続けてきたカスライアン氏の写真集は急速な変貌を遂げた20世紀後半の風景を見事に切り取っています。この写真にロンドン大学の人類学者で、イランシャーセバン族やアフガニスタンの民族学を研究してきたRichard Tapper 氏を中心とした世界各地の文化人類学研究者の研究調査(フィールドワーク)を編集し、カスライアン氏の写真と組み合わせてまとめた本です。
遊牧民を知るには最高の1冊
またこの本は、「遊牧民とは何か?」という切り口で、世界的な研究者による遊牧民族の定義をはじめ、イラン各地の遊牧民の生活文化を深く掘り下げている1冊です。
序章 「イランの遊牧民」リチャード・タッパー著では、ロマンティックなイメージとして語られやすい遊牧民の定義を
『イランの遊牧民は外部世界にいろんな鮮烈なイメージを与えてくれる。緑の丘と花のカーペットに囲まれたテントの宿営地といった牧歌的な情景、目を見張るような渓流をたどって行くラクダや驢馬の列、その技量をもって世界でもっとも繊細なカーペットを織り出す、色鮮やかに着飾った女性達といったもの』このようなイメージが遊牧民的であるが、『実際はそれだけではなく破壊と紛争をもたらす、或る意味野蛮な存在として失われた価値と技術の保持者であり、遊牧生活そのものを現代社会に適応する能力も併せ持つ存在』
としてとらえているようです。
過去から現在そして未来への想像までも含めた遊牧民の潜在的可能性を含めた視野は、グローバル化によって均一化する現代にとって興味深い教訓や提案となりえるかもしれません。
破壊と想像を繰り返す事で活性化する都市とフィールド
現在でも多くの遊牧民が残るイランでは王権と遊牧民、つまり言い換えれば「都市と荒野」が複雑に関係しあい、時代とともに変化しながら現在に至っている社会とも考えられます。川沿いの肥沃な土地に発生した古代文明都市に住む定住民と、草原や荒野を移動する人々は、時として敵対しながらも、情報や物流の交換という活性化システムを巧く利用してきました。
この本では遊牧民の保持するダイナミックな活力と、自由で風のような流動性をそれぞれの地域や民族の違いなどを含めて紹介しています。
歴史的にも、合理化 / 効率化が進み閉塞化してゆく都市に、どこからとも無く現れ、風穴を開けてきたのが遊牧民族のひとつの個性です。
現代は政治・経済・文化・人口が大都市に集中し、都市の巨大化とともにおこる様々な弊害に対処するのに大きな労力や資本を使う時代になってしまいました。
そんな中で5〜6年ほど前から遊牧民的な発想やしがらみの無い関係、所有するものが少ないため身軽でとらわれない暮らしなどが見直されているように思います。組織に取り込まれないノマド・ワーカーや所有する必要の無いシェアという考え方が広がっているのもその一環と言えるのではないでしょうか?
今こそノマドの本当の意味を掘り下げ、自分たちの暮らしに活かせる時代が来たのかもしれません。
だからこそただスタイルとして紹介される上澄みの知識だけでなく、遊牧民達の本当の暮らしぶりや考え方、そのコンテクスト(背景)を知ることでより豊かな応用や「深みのあるライフスタイル」が手に入るとも言えるでしょう。
そこでこのブログでもまた回を改めて、この本から遊牧生活とその過酷な部分や自由なところなどを紹介して行きたいと考えています。