🐦ハマダンの小鳥占い 旅で見た夢-2

Posted by tribe on 2020年5月16日

イラン西部に位置するハマダンという町には何故かひかれるものがありました。
現在はハマダン(ハメダン)と呼ばれていますが、遠い昔は「エクバタナ」という地名で、どうもその響きに魅せられていたようです。
エクバタナとは古代メディア王国の首都の名前に由来していますが、マスメディアなど情報を媒体するという意味を持つ「メディア」と同じ名前の王国が、古代オリエントにあったという事を知る人は少ないかもしれません。
ここにはメソポタミア文明に関係が深い「ギンジャナーメ」という古代の碑文が残されていて(上の写真)、昔からその碑文の実物を見てみたいと思ってました。
当時の最先端の情報発信の「場」でもあったと考えられるからです。
現在のハマダンは、世界の半分と詩われた古都イスファハン、アケメネス朝イランの壮大な遺跡ペルセポリスのあるシラーズ等に比べれば若干地味ですが、知るひとぞ知る脅威の自然洞窟(アリーサドル)などが観光向けに整備されて、イラン人には人気の観光スポットになってます。

Hamadan-Iran
イラン西部に位置する現在のハマダン

裏に結び目が見えない絨毯

ハマダンは絨毯生産の歴史も古く、18~19世紀は欧米の輸出用絨毯の生産地としてイラン経済を支えていた時期もあるようです。
またここに集まる絨毯は特殊な技法で織られていて、世界広しといえどもここにしかない特殊な技術が使われています。
その技法とはシングルウェフト(単一緯糸)と呼ばれる図太い一本のヨコ糸が、絨毯の織の構造を支えるというもので、裏から見ると真っ白なヨコ糸がはっきり見えるのでだれでも見分けがつきやすい特徴があります。
革新的な技術なのですが、他の地域にはあまり広がりを見せていません。
これは木綿という素材が入手が難しかったのか?
技術的な問題なのかは、今後検証していきたいことの一つです。

IMG_5280
ハマダン産絨毯の表面
IMG_5281
ハマダン産絨毯の裏面、白いのはヨコ糸

このハマダン産絨毯の集まるバザールやや古代メディア王国の碑文の他に、もう一つハマダンで行きたかった場所があります。
イラン人の偉人の中でもひときわ誉れ高いイブンシーナ(イラン人の間ではブーアリ・シーナと呼ばれる)の博物館とハーブガーデンです。

オリエントが生んだ天才ブーアリ・シーナ

西洋医学の基礎を築いた人物と言われ、西~中央アジアの多くの知識人から尊敬されているブーアリ・シーナは薬草学の大家のみならず哲学者、錬金術師、心理学者としてもオリエント地域を中心に大きな影響を与えました。
余談ですが、現在のトルクメニスタン大統領のグルバングル・ディベルディモハメドフ氏(確か?)も薬草学に詳しく、大統領直筆の薬草に関する本も出版されています。
またトルクメニスタンを紹介する観光用プロモーションVTRの冒頭にも、ブーアリ・シーナが紹介されています。

3-1350273040-hafez-mausoleum-and-gardens
ブーアリ・シーナ博物館のハーブガーデン

彼が見つけ出した薬草(ハーブ)と長い時間を費やして調べ上げたそれらの効能は、中国由来と考えられている漢方薬とも関係が深いそうです。
彼の残した膨大な量の薬草研究の資料と薬草の描写、そして庭には彼が研究した、たくさんのハーブが植えられています。
現在のイランや中央アジアでもハーブ(漢方薬)は生活の中に生きています。

スクリーンショット 2020-05-12 20.24.20
世界中で尊敬されるブーアリ・シーナ(イブン・シーナ)

気持ちの良い空気のながれるハーブガーデンでしばしリラックスしていると、小さな小鳥を指にとまらせた少年が近づいてきました。
その小鳥(おそらく文鳥)が何かの芸をするらしい事は想像できました。
少年がペルシャ語で小鳥に話しかけるとその小鳥は、彼の持っている幾つかの丸めた紙の筒の一本をくちばしで上手に咥えました。
あとで知ったのですが、これはイランに昔から伝わる「小鳥占い」と言う芸で、神社のおみくじにそっくりな占いのパフォーマンスだったのです。

82295700_2547992328775604_3451019978957905741_n
イランの小鳥占い

日本にも昔は神社のお祭り等で、山雀芸という野鳥のヤマガラに芸を仕込んで行う占い神事があったようです。
12~3歳の少年が実に巧みに小鳥に話かけ、おみくじを引かせる。
もちろん観光客相手の芸ですが、占い&野鳥好きとしては試してみたくなりました。


偶然それを見ていたイラン人が近くにやって来て、その少年に「あっちへ行け!borough!borough!」と人払いのような態度をとったのです。

ハマダンの人は親切で有名なので、その時はこの人も観光客相手に小銭を稼ごうとする少年を追っ払おうとしているのだろうことは察しがつきました。
まあまあ、これも経験なのでと相場のお金を払って少年は立ち去ったのですが、貰ったおみくじを広げても全てがペルシャ語で、その時は全く意味不明でした。

数日後テヘランに戻って英語の出来る友人に意味を聞いてみると、その後の数日の経験がまさにピッタリ当たっていてびっくりしたのです。
そこには、『身近に近づいてくる男にはだまされるかも知れないので、注意が必要だが楽しみもある。一週間後には紳士に出会う。また逆も真なり?』というような
意味が書いてあったのです。

イラン人に大人気の地底湖アリーサドル

実はその際に少年を追い払った一見親切そうな若い男性とその後仲良くなり、まったく予想していなかった「アリーサドル」という鍾乳洞へ行く事になったのです。
出会った青年はハマダン出身ではなく、イラン南部のバンダルアッバスという港町から、ハマダンに観光で来ている高校の英語先生ということでした。
その後どこへ行くかと聞かれたのですが、サンゲシールというライオンを象った古代の石の彫刻を見に行くくらいで、その後は時間があると言うとイランでも一番有名な観光地のひとつで地底湖のある素晴しい洞窟(鍾乳洞)=アリーサドルに行こうと誘われたのです。
観光客なら、ましてや外国人ならアリーサドルは絶対に行くべきだと何度も言うのです。

スクリーンショット 2020-05-12 20.07.41
土漠の広野に突然現れる立派な観光地の入り口。

その時はどうしよかと迷ったのですが、あまりにも素晴しいところだと誘うのでついに出かけてみる事になりました。
ミニバスに乗って山道を小一時間走ると、土漠の中に急に人がたくさん現れて、ああここが観光地かと直にわかりました。入り口には入場券を買う行列ができていたのですが、同行の男は食べ物を買ってくると行ってその場を離れました。
暫くして入場チケットを購入する順番になったのですが、その男はまだ帰って来なかったので2枚分を購入しました。イランは遺跡などの入場料はとても安く日本円で30円~50円程度、それに比べるとアリーサドルの入場料は当時で20倍程の値段で少し驚きました。
イラン人にしては東京デズニーランドの入場料くらいの価格かもしれないなあなどと思っていると、高校の先生と名乗る男はニコニコしながらできたてのホットドッグを持って現れました。
そして日本からのお客さんだからサンドイッチはごちそうするといってお金を受け取りませんでした。イラン人はとても親切で、紅茶や軽食を御馳走してくれる事は良くあるのでありがたくごちそうになりました。

自然洞窟の中はとても広く地底湖も素晴しく大きく、さらに中はとてもひんやりしていて夏のイランでは人気の観光スポットだと直に理解できました。
入場料も高いわけです。
いかにもイラン人が好きそうな施設でボートで地底湖を渡ったり、地底湖の中にある山のような島には例によつてチャハネ(喫茶店)が用意されていました。
チャイハネではテヘランで外資系の銀行に勤めているという、いかにも優秀な感じの家族とも仲良くなったり、楽しい時間を過ごしました。
ボートに同乗したイラン人の若い女性が洞窟の中にあった鍾乳石をもいで手渡してくれたのですが、さすが天然記念物を当たり前にもぎ取るとはイラン人らしいなどと思いつつも、その鍾乳石は今でもお宝の一つになっています。
まったく予備知識が無かったので大満足して、鍾乳洞を後にしました。

1397091815565288316098664
神秘の地底洞窟&地底湖アリーサドル

その日の夜にはテヘランに戻りたかったのですが、予定外の観光をしてしまったので洞窟を出てからは大慌てで、タクシーを乗り継ぎギリギリで長距離バスに間に合いました。
バスに乗ってからふと思いだしたのは、例の高校の先生から入場料を貰っていなかった!こちらもすっかり忘れていたのですが、故意なのか、彼も忘れていたのかは定かではありません。

テヘランに戻ってからその話をすると、友人はただ笑っていました。
「小鳥占い」にあった身近な男に要注意!とはこの事だったのか!と小鳥占いのあまりの的中に驚きました。ただ彼のおかげで予定外の自然洞窟を堪能できたのです。

その1週間後に日本へ帰国したのですが、飛行機の中で偶然にもミリ工房の代表ラジ・ミリ氏と日本で代理店を行なっているアリ・ソレマニエ氏が隣の席で日本までのフライトはとても愉しく勉強にもなりました。

これも小鳥占いが的中!恐るべしハマダンの「小鳥占い」。イランに行かれたら是非お試し下さい!