現代音楽とトルクメンラグ 〜35年にわたる絨毯コレクション〜
Posted by tribe on 2015年5月8日
アートコレクター夫妻のドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー』をご存知ですか?
人生のおよそ半分を現代美術の収集に費やした元郵便局員のご主人ハーブさんと図書館司書だったドロシーさんの、現代アートの収集へかける情熱を丹念に描いた作品としてロングランを続けているハートフルな映画です。監督はニューヨークに長く暮らす日本人女性監督(佐々木芽生=めぐみ)の作品ということで日本でも話題になりました。数年前に2度見ましたが、不思議ともう一度みたくなる映画です。
今回のオークションも同じくニューヨークに暮らすMunkacsi&Jeffriesご夫妻が、音楽関係の仕事の傍ら、35年にわたって情熱的に収集したトルクメン絨毯のコレクションがウィーンのオークションに出品されているというお話です。
まだまだ続いている欧米でのトライバルラグ熱
ウィーンのオーストリアオークションでは昨年のICOCの特別開催に引き続き素晴しいコレクションの数々が出展されています。メインの出展品は始めに紹介したニューヨーク在住のMunkacsi&Jeffriesご夫妻のトルクメンコレクションですが、85枚のアンティークラグ、夫妻のトルクメンコレクションが139枚で、全部合わせると224点のラグが出品されています。
前半ではコーカサス絨毯を中心にアナトリアキリムやシャーセバン族、クルド族のサドルバックなどのトライバル系のラグなど、どれも見応えのあるコレクションピースばかりです。
オークションは現地時間の5月9日午後2時〜、日本時間の5月9日の22時スタートなのでネットでの入札であれば、まだまだ間に合います。
ライブオークションはこちらからも見られます。
1993年にサザビーズで競り負けた絨毯が出展!
送られて来た立派なオークションカタログをチェックしていたところ、どうも見覚えのあるラグが掲載されていました。出品番号#191ERSARI CHUVAL と紹介されている絨毯は1993/12/16にN.Y.のサザビーズで行われた、トルクメン絨毯研究家のJon Thompson氏のコレクションに出品されていたものでした。当時その絨毯に魅せられ、オークションで競り合ったのですが見事に破れ、他の絨毯を購入したという思い出がよみがえってきました。トルクメン絨毯のなかでは町の洗練された雰囲気のするエルサリ族の大型の袋物の表皮(ジュワル)なのですが、明るめのブルーとグリーンやトルクメンにはめずらしい黄色などもバランス良く織り込まれた愛らしい絨毯です。向かって左側のボーダー部分が欠損しているで間違いないでしょう。オークションカタログのReference(参照)にも1993年のサザビーズオークションで落札されたJon Thompsonコレクションとしるされています。
今度こそ!という思いもありますが、なんと参考価格は当時の倍以上となる€3,500~4,500(およそ¥480,000〜¥600,000)ととても手の出せる価格ではありません。今回のオークションは全体にそれほど高いという印象はないのですが、日本はバブル経済も終わり、現在はこの価格で90x115cm程度の絨毯を買う人は少ない事でしょう。
音楽とトルクメン絨毯の共通点とは?
情熱をもってトルクメンラグをコレクションしたMunkacsi&Jeffriesご夫妻は、共に音楽関係の仕事をされているようなのですが、ご主人のMunkacsi氏は現代音楽(ミニマル)の作曲家として様々な映画や話題の演劇・オペラなどに独自な作品を提供しているフィリップ・グラス氏とともにサウンドデザイナーとして共同制作活動を続けられた音楽制作者で、奥さんのJeffriesさんもポール・マッカートニー、レニー・クラヴィッツ、スザンヌ・ヴェガ、ジャクソン・ブラウンなど著名なミュージシャンのマネージメントと音楽製作を行うプロデューサーのようです。ご主人は優れた絨毯研究家でもあり、最近ではニューヨークの名門絨毯クラブ『HJIJI BABA CLU=アリババ・クラブ』で開催された”TimbktuからTibet”という展示会の中心的存在として活躍し、アメリカ各地の絨毯好きの集い(ボストン・ワシントンDC・プリンストン・インディアナポリスのラグソサエティ)でも講演会やコレクションの紹介などを行う絨毯界のオーソリティーとしても活躍されているようです。
Munkacsi氏はミニマルミュージックなどの常に最先端の変化と発展を続ける音楽シーンに身を置く環境からか、音楽と絨毯の親密な関係を感じていたようです。トルクメン絨毯に規則的に配置されるギュル文様と波のように繰り返すミニマルなサウンドに共通の何かを感じていたのかもしれません。
オークションカタログにも、音という素材を限りなく突き詰めていく作業とトルクメン絨毯の持つ際立つパターンの連続性がリンクしているところにも魅力を感じていると述べられています。
今後も音楽と絨毯の関係性を見つめながら違いや、共通点を掘り下げていけたらとも思っています。