遊牧民のユニークな毛織物 所沢folmaのトーク3回目
Posted by tribe on 2015年10月26日
所沢のギャラリーformaさんでの展示会「遊牧民の毛織物と刺繍」でのお話会も最後の3回目となります。
1回目は遊牧民の全体像をそのなりわいと3つのルーツを持つ民族的なバックグラウンドを中心に、2回目では、遊牧生活に欠かせない毛織物にこめられた文様についてお話をしました。
機能についてはこれまでにソフレ、塩袋、サドルバック等々の遊牧民の暮らしに欠かせない道具としての毛織物の機能を、このサイト内でも紹介してきました。
今回はそれ以外のユニークな機能や造形を持つ毛織物を紹介したいと思います。
■遊牧民をめぐるお話 3回目 遊牧民の様々な機能を持つ毛織物
10/27(火) 午後2:00~ 会場:会場:cafe Gallery forma ファルマ
住所:所沢市泉町914-17千雅堂1F TEL/FAX04-2933-6800
ギャッベやキリムだけではない、遊牧民の毛物(トライバルラグ)
絨毯やキリムの販売サイトやインテリアのショップなどでも、遊牧民のラグとして紹介されているのは敷き物としての『ギャッベ』や『キリム』がほとんどです。実はそれ以外にも様々な機能を持つ毛織物が存在しています。袋物、動物の飾り、テントベルト、荷紐など移動生活に欠かせない用と美を合わせ持つ、ユニークな毛織物の実物を紹介したいと思っています。
まずは敷物以外にどんな毛織物があるのか紹介します。
袋物には、日本ではあまり見たことも無い不思議な形や、トルクメン族が婚礼用に使用する独特の造形を持つモノなどがあります。
展示会でも時々「これは何に使うものですか?」という質問を受けます。扱い始めた頃は、こちらも何に使われたのかわからない物がたくさんありました。現地の人達に聞いたりしながらわかったことも多く、その実用的な形や機能が遊牧生活に必要な知恵が凝縮された、納得のゆくものだったりします。これでもかという程たくさんの飾りがついているも多く、「用の美」を追求してきた日本の手仕事とは違った、「用を超えた美」を追求していることが見てとれます。
遊牧生活に欠かせない様々な毛織袋物
●ジュワル(大型の物入れ袋)… 小麦などの穀物や衣類などを収納するためのもので、移動のときにはそのままロバ等の家畜に積むための袋物。
●ホールジン(鞍かけ袋=サドルバック)… 主にロバなどの動物の背にかけて両側に振り分けて荷物を入れる袋。
●ナマクダン(塩入袋) … 家畜をコントロールするのに欠かせない塩を収納する遊牧民には欠かせない袋で、家畜に舐められないように口の部分が、細くなっています。
●マフラシュ(布団袋)… 立方体の形状で移動の時には主に寝具をいれて、ラクダのこぶに対で2つ掛けられる。テントの中では、赤ちゃんの揺りかごになることもあります。
●バーリシト(枕およびクッション)… 移動中はテントの枠組みの棒や様々な物いれとして、テント内では柔らかいものを収納して枕や座布団として使います。
●ガシュクダーン(カラトリー入れ)… 細長い袋状の形で、スプーンやフォーク、ナイフなど食事用のカラトリーを収納する袋ですが、濡れいる場合などもあるので通気性の良い編み目になっている物もあります。
●スザンダン(針入れ)… いわゆる裁縫道具を入れるお針箱のことですが、壊れやすい箱状のものではなく、独特の形をしています。
●ザングー(赤ちゃんの背負い袋)… 形状は部族によって異なりますが、大切な赤ちゃんをくるんで運ぶためのものなのでしっかりと頑丈に織られる場合が多いようです。
●サバト(卵入れ篭)… 移動や生活の中でも壊れやすい卵を入れるバスケット状の篭ですが葦で編んだ篭を羊毛で、遊牧民らしいトライバルモチーフで刺繍されています。
トルクメン族の独特な袋物と動物飾り
遊牧民の毛織物を紹介するうえで欠かせない、トルクメン族はその卓越した技術と多様な毛織物をることで世界中のトライバルラグファンを魅了してきました。
なかでもコレクター達が熱望するのが、婚礼用に心をこめて丁寧に織られた袋ものや動物飾りです。かつての遊牧民時代のトルクメン族の結婚式では花嫁が、ラクダにのって嫁ぐ習慣がありました。その際にラクダのこぶや背中、首、足(膝)は、手の込んだ絨毯や刺繍の手仕事で彩られていました。同時に婚礼用の持参品には幾つかのお決まりの婚礼用絨毯や結納品があり、衣装や絨毯を入れて親類や縁者に見せびらかすための収納袋=箪笥も見事な絨毯織りです。それらは必ずペアー(ジョフテ)で2枚一組になっているのですが、それらの代表的なものも紹介します。
袋物
●ジュワル…(上の説明を参照)
●トルバ…小さめの衣装入れ袋
●ジャラー…細長く房飾りのたくさんついた大型の袋物
●オクバシュ…かつての騎馬民族の伝統を受け継ぐ矢を入れる縦長の袋もの
●ボッチェ…正方形のラグや布を折りたんで袋状にした正方形の袋物
動物飾り
●アスマリク…ひとラクダのこぶの両側にかけられる五角形のラクダの背当て
●ザンヌバンド…装飾されたラクダの両膝に結ばれるラクダ専用の膝宛(ディアディズル)
●ギャンダンバンド…ラクダの首飾り
●ジュルアスブ…馬の背当カバー
●イエールリッキ…主に馬用の鞍座布団
この他にもテントの入り口上部に暖簾のように飾られるカプヌクと呼ばれるテント飾りやテントの壁に巻きつけられるテントベルト(ジョラミ)などにもトルクメン独特の家紋のようなモチーフが織り込まれています。
遊牧民の毛織物を機能という切り口で見てみると、実に多様な機能性、ひとつのものを様々に使う合理性、多機能な道具でありながら、必要以上?な装飾性が見られます。
生活のほとんどが移動という、必要最低限のモノしか所有出来ない遊牧民達にとってモノとはいったい何を意味するのか?様々なモノが存在する現代生活に少し考えさせられるテーマです。
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■遊牧民の生活道具の役割