絨毯や先住民族の手仕事に魅力を感じてからずっと文様の意味が気になっています。
若手の遊牧民研究者から文様について共同で調べて見ませんかという提案をいただき、文様への思いが復活してきました。
トルコキリムのガイドブックなどには、どれも同じようなステレオタイプの意味解説がありますが、果たして「本当なのか?」と疑うこともしばしばでした。
気持ちのどこかに、もう少し文様の意味を深く掘り下げてみたいという思いを持っていました。
今回のシリーズでは海外の文様に関しての文献やサイトなどを参考にしながら、資料も併せて紹介していけたらと思います。
出来るだけ作り手の思いに寄り添いながら、文様に込められた意味を紐解いていければと思っていますが、ある意味で独断的になってしまうかもしれません。
主観的な妄想も多いので、ファンタジー的要素も多く含まれますが、趣味のブログということで楽しんで頂ければ幸いです。
捉えどころのない文様の世界観
文様についての研究や分類は、これまでにも多くの研究者が挑戦し、研究書も発行されています。
ただ文様の意味は主観的な側面が大きいため、どうしても研究者によって違いがあったり、現地のベテランの絨毯商や実際の織り手に聞いても、それぞれに違う答えが返ってくる場合も多いです。
尊敬する文化人類学者の渡辺公三先生が中央アフリカのコンゴのクバ王国で、草ビロードと呼ばれる儀礼用の布の文様について、現地の部族の人達に聞き取り調査を行った際に、10人に話を聞くとそれぞれ違う答えが返ってきて困ったという苦労話をお聞きしました。
特に遊牧民族の織るキリムや絨毯の文様についても、似ている造形や身近にある道具などに見立て意味付けする喩えを何度も聞きました。
今回はある意味で捉え所のない文様の意味、あるいはあえて意味付けする必要の無い文様世界を言語化してみようという試みです。
そこは技法、素材、染料などのように科学的に検証できない世界なので、かなりファンタジックな部分も出てくると思われます。
タイトルには「絨毯もよう千一夜」と物語的な世界観が広がることを願ってつけてみました。
どこまで続くかわかりませんが、1001回を目指したいという願いを込めて、敢えて大風呂敷を広げます。
まず1回目はあまりにも有名な「空飛ぶ絨毯」が登場する千一夜物語に因んで絨毯文様の話です。
2年程前にイランの文様をテーマにした展示会を銀座の画廊で行いました。表面的ですが、まずはその際に拾い上げた、イランの絨毯(ペルシャ絨毯を含めて)いくつかの代表的文様を紹介しましす。
その後で、そのそれぞれのモチーフを他の地域にも共通する文様やイメージ的な世界観とを、想像力を膨らませなが繋げて行きたいと思っています。
代表的な絨毯文様パート1
◆ギュル文様◆
トルクメン絨毯に代表される文様のひとつにギュル(花紋章)があります。八角形やその変形の幾何学的文様のひとつです。
『ギュルって何?』と良く聞かれますが、その名の由来ははっきりしていないようです。
ペルシア語のGOLゴル(花)という言葉がルーツという説が一般的ですが、トルコ語で目を意味するGOZという言葉が似ているという話もあれば、泉や池を表すペルシア語にも近い言葉があるようです。
また面白い例えとして漢民族の伝統的な民族衣装の雲襟(cloud collar)に見られる、衣服の開口部の丸みを帯びた造形が、ギュル文様の源流のひとつではないかという説もありました。
このギュル文様を絨毯の象徴的モチーフとして織り込んできたのは、なんといっても絨毯織り技術の高い、部族絨毯の最高峰トルクメン族です。
トルクメン族の多く絨毯や袋物には、全体にこのギュル文様が、繰り返し繰り返し表現されています。特に遊牧生活を送っていた19世期までの物には多く見らます。
ギュル文様はトルクメン族の家紋もしくはエンブレム(紋章)として始まり、時間をかけて洗練されながら完成し、それぞれの氏族や支族を象徴する文様になって行ったとも考えられます。
ただ、トルクメン絨毯はせいぜい300年前の物しか見つかっておらず、13世紀にコンヤのモスクから発見された絨毯群にある八角形のモチーフとの関係性などが研究対象になっています。