素材について考える。ウール(羊毛)とヘアー(獣毛)vol.2

Posted by tribe on 2015年2月4日

羊毛についての前回の続きのお話ですが、素材は手仕事のもっとも基礎となるので繰り返して紹介してゆきたいと思います。

遊牧民から知る羊毛(Wool)加工のルーツ

人類は7000年ほど前から羊毛を加工した何かを作っていたと言われています。西アジア~小アジア地域では長い間、羊と小麦に頼った生活を続けてきた事がわかっていますが、日本人による遺跡の調査や分析などの研究がかなり進んでいて、日本語で読める資料や著作もかなり充実しています。
しかし、羊毛の家畜化は小・西アジアに始まるという歴史的事実はわかっていても、羊毛加工に関しての資料は少なく、多くはイギリスから始まりその後オーストラリア〜ニュージーランドへ向かうものがほとんどです。素材は全ての基本となるものなので加工方法というものは大変重要な部分なのですが、資料がとても少ないというのが現状です。

人口羊毛はなぜ出来ないのか?

獣毛類・羊毛・ウール・毛糸
羊毛の表皮・内部構造・断面図

素材としての羊毛にはとても優れた特徴がありますが、長い間羊毛の生産がほとんど日本ではその良さがあまり知られていません。

羊毛はケラチンというタンパク質で出来ていますが、構造は「スケール」と呼ばれるウロコ状の表面と「コルテックス」呼ばれる皮質部分から成り立っています。水を弾くスケールと水分を吸収するコルテックスという違う性質を持つ物資が二重構造が羊毛最大の特徴です。その違った性質が、熱や水分の作用で相反する働きをする事で、断熱性や撥水性という優れた効果を生みだします。羊毛や獣毛が「生きている素材」と呼ばれてるの所以です。
周りの環境によって表面のスケール(ウロコ状)が開き、コルテックス(スポンジ状)が自然に湿気を吸い込んだり、吐き出したりするのです。最先端の科学技術でもこの働き(人口ウール)を作り出す事に成功していません。

山羊毛(Goat Hair)&ラクダ毛

山羊の毛は羊と比べると硬く、縮れが無く、毛も固いので敷物の表皮などにはあまり使われませんが、チャドルと呼ばれるテントの屋根用の素材として風雨を防ぐために使われます。またキリムやラグのタテ糸、端部分(セルベッジ)、紐類、袋の開口部などに使われます。
特にイラン南東部〜アフガニスタン西部〜パキスタン南部のバルーチ(バローチ)遊牧民は山羊毛をよく使う事で知られています。
これは毒蛇などが生息する地域で山羊毛が蛇よけになるという説もあります。
またイランのザクロス山脈周辺で遊牧するルル族などの古いタイプのギャッベのタテ糸にも山羊毛が使われていますが、敷き布団的な役割をするギャッベラグには蛇をよけるための機能であったのかもしれません。

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山羊の毛で織られたシールトと呼ばれる毛織物

一方ラクダ毛は、地域によって使われる頻度が違うようです。
ラクダ毛をよく使う地域の代表はイラン北東部のホラサーン地方ですが、この地域のクルド族(ホラサーンクルド)の食卓用敷物(ダイニングソフレ)にはラクダ毛がよく使われます。ラクダの毛はあまり伸びない印象がありますが、イラン北東部のホラサーン地方は冬には雪が降ることもあるため、ラクダの毛も長く伸びます。夏前には抜け落ちるため、その毛を使って撥水性の高いソフレやテントの屋根などの毛織物が織られてきました。染めにくいため、そのままの色で使われる事が多いのですが、羊とは少し違う風合いと質感を持っています。

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イラン北東部ホラサーン地方 ダイニングソフレ ラクダ毛

またホラサーン地方のバルーチ族がプレイヤーラグやバーリシト(枕)のフィールド(地)部分にもラクダ毛を使う事がありますが、濃いめの色彩の多いバルーチラグにはバランスのとれた色彩感覚で世界的にも高い評価を得ています。