民族・部族の手仕事を知る 〜美人と長生きの国!〜コーカサス地方の手仕事
Posted by tribe on 2015年4月30日
〈民族・部族の手仕事を知る〉のコーナーでは世界各地の民族や部族地域の伝統的な工芸品を中心に、ぞの地域や民族・部族の特徴やエピソードなどの四方山話的な要素も取り混ぜて紹介していきたいと思います。
今回紹介するのは欧米で圧倒的な人気を誇るコーカサス地方です。が、みなさんは「コーカサス地方」と聞いて頭の中にすぐに地図として「この箇所」だと思い浮かべることができるでしょうか?
なかなかイメージしづらいですよね。
この地域は旧ソ連だった事もあり私たち日本人の頭の中の地図からはすっぽりと抜け落ちている地域ではないかと思います。
ところがこの地域では本当に多くの部族と民族が高い水準の「手仕事」を展開していて、世界文明的にもテキスタイルを知る上でも外せない重要な地域なんですね。まずはそんな未知の国々や地域から紹介してゆきます。
1.コーカサス地方(カフカズ)・アゼルバイジャン・アルメニア
ダゲスタン・グルジアなどの地域は多民族・多言語。
主な産地…カラバグ・エリヴァン・モーガン・シルヴァン・クバ・レンカロン・チチ・ゲンジェ・アクスタファ・ダゲスタンなど‥
毛織物のタイプ:パイルラグ(絨毯)・キリム(綴れ織り)・スマック織り・ジリ(真珠織り)・ヴェルネァ(ジジム織り)
欧米人に好まれるコーカサス絨毯とは
コーカサス(カフカズ)地方は、コーカソイド(白人)の原郷とも言われている地域です。ジョージア~ダゲスタン~アルメニア~アゼルバイジャンなど、多民族と多言語の複雑な集落が山や谷という入り組んだ環境からから構成されています。
歴史的にも絨毯文化の発祥と深い関わりがあり、欧米ではすさまじい人気を誇る絨毯産地として有名なんですね。もっとも好まれる絨毯産地のひとつです。
たまに美人・美男が多く長寿でも有名な地域として、テレビで紹介されているのを見たことがある方もいるかもしれませんね。
コーカサス文化についての研究者も数多く、コーカサスの工芸品関連の書籍も数多く出版されています。
欧米では手織り絨毯といえばコーカサス絨毯が人気ですが、キリム、刺繍布(カイタグ)、民族衣装などは美的センスも抜群です。素晴らしいコーカサス絨毯やテキスタイルをどれだけ持っているかが、絨毯ディーラーのステイタスになっています。
日本で最も知られている手織り絨毯はペルシア絨毯ですが、最盛期のアッバス朝時代には多くのアルメニア人が絨毯製作に関わっていたことが知られています。また、コーカサス山脈の高原地帯という自然条件が質の良い羊毛を育み、東西南北の様々な文化を取り入れることで、洗練された色彩感覚や文様の豊かさを生み出されたのではないかと思います。
数ある名作コーカサス絨毯のなかでもプレイヤーラグの完成度は抜群です。マラサリ・シルヴァン・クバなどどれも素晴しい色彩感覚と洗練されたデザインで、今でも世界中のコレクターの憧れとなっています。1998年には「Caucasian Prayer Rugs」というコーカサスの祈祷用絨毯だけを集めた本が出版されています。バルーチの祈祷用絨毯と双璧を為す素晴らしい内容なので、興味のある方はぜひ探してみてください。
様々な手仕事が生まれた地域
今度はコーカサス地方の東側に目を移してみたいと思います。
コーカサス山脈の東側にある、ダゲスタンは古くから手工芸品の優れた産地として、フエルト・絨毯・キリム・スマック織り*などのテキスタイルや金属・木工・陶器など、多くの文化を生み出した地域です。
なかでも“KAITAG”と呼ばれる自由なモチーフと色彩の刺繍布は、ダゲスタン地域に花開いたアーティスティックなテキスタイルです。カスピ海に近い古都デルベンドや周辺地域では、アヴァール人の作る大型で細長いキリムやスマックなども有名で、洗練されたデインと高い技術を持つ毛織物は世界中の愛好家の憧れとなっています。
1996年に、渋谷の松涛美術館で行われた「ダゲスタンの工芸展」は、貴重なダゲスタン地域の工芸品が数多く展示されました。サブタイトルに東西文明の十字路とありましたが、紀元前からユーラシア大陸を東西に移動したスキタイ遊牧系民族と北からロシア系、南からはアラブ系など独自の文化をもつ民族に翻弄されながらも、独自の芸術性を発展させてきた民族・地域といえるでしょう。
イランに近いアゼルバイジャン地方も世界的な絨毯の産地で、カラバグ・カザク・シルヴァン・モーガン地方の配色の美しい絨毯は、欧米で常にトップの評価を得ています。欧米の絨毯商のランク付けは、コーカサスの状態や意匠のよい絨毯やキリムをどのくらい揃えているかで決まってゆくと言っても過言ではなく、コーカサスの絨毯やテキスタイルが愛好家達の間でもどれだけ重要視されているかが分かりますよね。
龍モチーフから見る東西文化交流
ここには、ドラゴンラグやドラゴンスマックと呼ばれる『龍』をモチーフにした絨毯やキリムがあります。中国の写実的な『龍』とは異なるモチーフ化されたに『龍文様』は、龍を自然信仰の化身として表現する東〜東南アジアと、悪者のイメージが強いヨーロッパ文化の中間地点として東西文化交流の交差点として興味深い研究材料でもあります。
この龍文様=龍信仰(龍を肯定的にとらえる)の西の端がこの地域の特殊性のひとつといえるかもしれません。
また、カスピ海と龍のモチーフとの関連性も少なからずあるのでは?と見ているのですが、今後もう少し掘り下げてみたいテーマのひとつとしてこのブログでも紹介してゆければと思っています。
参考文献:「ダゲスタンの工芸展」杉村棟著 松濤美術館図録