じゅうたんの教科書 第二章絨毯の基礎知識 〜道具としての毛織物3〜 「いれる」

Posted by tribe on 2022年1月20日

前回紹介した道具としての毛織物「かける」に続いて、今回は様々形状と多様な機能を持つ袋物「いれる」を紹介します。

じゅうたんの教科書 第二章絨毯の基礎知識 その3〜道具としての毛織物4〜

「いれる」

 

3.袋物
袋物は遊牧民にとって欠かせない道具のひとつです。
遥か昔から遊牧民達は、移動時の家財道具の運搬、食物の保存や保管、衣類や生活用品の収納、テント内のクッション(家具)、婚礼の持参品を入れるなど、多種多様な目的で数多くの「いれ物=袋物」を織り続けてきました。

袋物は使用目的により様々な造形があり、それらは用途によって使い分けられています。今回は遊牧生活の必需品である様々な「袋」を用途別に紹介します。

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イラン西部ルル族の最大級のサイズのサドルバッグ

①.移動の際の家財道具を入れる袋


遊牧民は家畜の草を求めるための「移動」を余儀なくされるため、家財道具や食料を運ぶ際に使役動物に背負わせる、いくつもの大型の袋が必要となります。
それ以外でも日々の放牧、町への買い物、荷物を持ち運ぶ際にロバや馬につける運搬用の袋類も多数織られます。
<サドルバッグ(鞍掛袋)、マフラシュ(布団袋)、トブレ(飼い葉入れ)など>

●ホールジンもしくはヘイベ(鞍掛袋=サドルバック)・・・移動の際に使われる荷物入れで、主にロバなどの動物の背に掛けて使われるためドンキーバックと呼ばれることもあります。人が乗る鞍と収納を兼ねた振り分型の袋物です。(ペルシャ語でホールジン、トルコ語でヘイベ)

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イラン北西部シャーセバン族のサドルバッグ


●マフラシュもしくはベシック(布団袋)・・・5面立方体の袋物で移動の時には主に寝具が入れられます。マフラシュは大型なのでラクダのこぶの両側に対で掛けられて運ばれます。テント内では、寝具の収納、赤ちゃん揺り籠になることもあるそうです。(トルコ語でベシック)
*イラン北西部のシャーセバン族がマフラシュを織ることで知られています。

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シャーセバン族のスマック織のマフラシュ
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シャーセバン族のキリム織のマフラシュ


●チャンテもしくはトブレ(飼い葉入れおよび小物入れ)・・・移動中の家畜の餌となる飼い葉を入れたり、生活道具や化粧道具、タバコやお茶などを収納するための小型の袋です。

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左はシャーセバン族、右はバルーチ族のチャンテ(小袋)


②.保存保管用の収納袋


日常生活に必要な食料(塩、小麦、穀物)や布団や衣類などの生活道具を収納するの袋類。
マフラシュ(布団袋)、ジュワル(大型袋)、ナマクダン(塩入れ)、バーリシト(枕およびクッション)、タシェン(穀物入れ)などなど。

●ジュワルもしくはチュバル(大型の物入れ袋)・・・小麦などの穀物や衣類などを収納するための大型の袋。

*トルクメン族はパイル技法で横長のジュワル(チュバル)をクルド族やトルコのユリュックと呼ばれる遊牧民は縦長でスマック織りや縫い取り織りの袋を織ります。

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トルクメン族の横長のジュワル開口部は上
アナトリアの遊牧民の小麦入れジュワル入り口は左側

●ナマクダン(塩袋)・・・家畜をコントロールするのに欠かせない岩塩を保管・収納する袋。動物の口が入らないよういに入口が括れた特徴的な造形です。

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左シャーセバン族、右ルル族の塩袋

●マフラシュ(布団袋)・・・移動の際にはラクダのこぶの両脇に積まれますが、テントの中では衣類や寝具の収納という機能を持ちます。かつては赤ちゃんの揺り籠(ベビークレードル)と呼ばれていた時期もあります。大型なので主にスマックや綴織のものが多く、パイル技法はあまり見られません。

③.室内のクッション

●バーリシトもしくはヤストック(枕)・・・(トルコ語でヤストック)細長い袋物で部族によって大きさが違いますが、縦方向の狭い方が入り口の場合とサイド部分にスリット(開口部)がつけられているタイプがあります。
*バルーチ族にたくさんのバーリシトが見られます。ほとんどが表面パイル、裏面平織ですが、表面が紋織技法の物も時々見られます。
バルーチ族以外にもアナトリアの遊牧民(ヤストック)やアフガニスタン西部のタイマニ系部族も多くのバーリシト袋を織ります。

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タイマニ族の房付きのバーリシト
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バルーチ族の紋織のバーリシト

④.婚礼や儀式用の袋
主にトルクメン族の花嫁の持参品を入れるための特別な袋物。


●トルクメン族の婚礼用袋物(嫁入り道具などを入れる袋物)・・・トルクメン族に特有の婚礼用に用いられる袋類(トルバ、ジャラー、オクバシュ等)
トルクメン族の嫁入り行列は盛大に行われますが、その際に持参品を入れてラクダのこぶに幾重にもぶら下げられる細長い袋物にも質の良いものが多くみられます。
長さ1メートル超える細長い物をジャラー、それに比べて短めのもはトルバと呼ばれています。

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トルクメン族の様々な婚礼用の袋物

袋の表面にはトルクメン族の伝統的な家々の紋章が織り込まれ、部族の独自性が表現されています。
オクバシュと呼ばれる下が窄まった独特の形状の袋物もトルクメン族の婚礼には欠かせない袋物です。
*トルクメンの婚礼用の持参品は衣装、布、絨毯など多岐にわたり、嫁入りの行進の際にお披露目をする伝統的な習慣があり、その為の大型で多様な袋が見られます。

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トルクメン族(べシール)の婚礼用の袋物の表皮

⑤赤ちゃんの背負子(揺り籠)・・・移動の際に母親が生まれたての赤ちゃんを背負うための袋物(ザングー)
生まれたての赤ちゃんなどを移動の際に母親が背負うための特別な袋物。バルーチ族など限られた部族が織る珍しい袋物。

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バルーチ族のザングー(赤ちゃんの背負子)

遊牧系部族は伝統的に婚礼際に持参する毛織物が決まっていて、特にバルーチ族やトルクメン族ではサドルバッグやジュワルなど決められた袋物w持参するので数多くの優れた毛織物が残っています。
袋物にはそれぞれの部族のアイデンティティーを表現する文様が織り込まれているため、小さいながら優れたものが多く世界的な絨毯好きの間でもコレクションの対象となっています。

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様々な部族の袋物

*袋物の呼び方についてはトルコ語とペルシャ語で呼び方に違いがあります。言葉は違いますが同じ意味です。

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ルル族のサドルバッグ、ペルシャ語ではホーリジントルコ語ではへいべ

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次回は〜道具としての毛織物4〜 テントベルトや荷紐(しばる)、馬やラクダなどの家畜の装身具(かざる)を紹介します。

参考ブログ:tribe-log.com じゅうたんの教科書 第二章 絨毯の基礎知識 〜道具としての毛織物1〜 「しく」
じゅうたんの教科書 第二章 絨毯の基礎知識 〜道具としての毛織物2〜「かける」
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