タテ糸の張力とヨコ糸のバランスで織り物が生まれる?!

Posted by tribe on 2015年4月18日

織り物好きはもちろん、そうでない方にもオススメの一冊です。

『糸から布へ』小林桂子著 日貿出版社

500ページに及ぶ力作で、中味は著者の手書きによる織りの構造解説図と、技法ごとによる実物やイラストの紹介が満載です。在野の研究者である小林さんの数十年にわたる調査と研究が凝縮された力作です。

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糸から布へ 編む・もじる・組む・交差する・織る技法

日本のテキスタイル関係者のタテ糸とヨコ糸

2012年に大阪の民族学博物館で行われた『世界の織り機と織物』展はユニークなアイデアと、世界各地から集まったおびただしい数の織り機、VTRなどによる再現映像も含め、これまでに無い規模の展示でしたが、情報量の多さからか、織りをする人にとって熱望された解説図録がありませんでした。

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アメリカの構造紹介本 marla mallet Woven Structures

織物や織り機の構造はかなり複雑で図解された資料やテキストがないとなかなか理解が難しいのですが、図録が準備中だったため展示会場で見た「織りの構造」などを直後に復習できずに忘れてしまった方も多かったのではないでしょうか?個人的にも多くの織り構造を見たのに理解出来ないものも多くありました。織り機や織りの構造の解説図録はその後、年が明けてからしばらくして出版されたそうです。

もし『糸から布へ』を期間中に博物館会場で見ることが出来たら、織り物構造の初心者にももっと理解が深まっただろうと思います。

日本には、今回の「糸から布へ」の小林桂子さん、国立民族学博物館教授の吉本忍先生をはじめとして、テキスタイルに関する世界的的なの研究者、コレクター、技法の習得者が存在していると聞いています。残念なのはこれらの研究者やコレクション情報機関などとのの連帯が薄く、それらのネットワークが希薄だということです。糸が布へ仕上がってゆくには、タテ糸とヨコ糸の連携関係が不可欠です。現在の日本テキスタイル関係者の状況は立派な糸だけが、何本も存在しているといえるかもしれません。

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様々な織り技法を駆使するバルーチ族の毛織物

膨大な織りの構造の解析と図解

世界各地の人々は身近な材料を使い、システマティックな作業を繰り返して、籠や敷物、そして布状のものを作ってきました。著者はその作例を求めて取材を重ね、写真やスケッチに記録し、文献を調査してきたようです。本書はその成果を図説する他に類の無い貴重な労作となっています。
本書では、糸状のものを布状にする方法の組織を、大きく「編む・もじる・組む・交差する・織る」といった構造に分類され、そのバリエーションが約2300以上に及ぶ手描き図版と共に解説されています。織り手の住む風土によって体に必要な布の大きさも異なりますが、人が10本の指で糸を操る時、同じ技法を考えつくこともあるようです。長い民族の歴史の中では民族移動によって他の地域へ技術の伝播もあると述べられています。

組織を作るには糸や紐の要素が、1本の場合、1組を扱う場合、逆方向から重なり合う2組、または2組以上などの場合があるようですが、本書ではそのような要素数による組織分類ではなく、糸の動きに焦点を当てた画期的な分類を試みています。
道具を使わずに布を作る方法から始め、生産性を高めるために考案された道具「原始機」までを説明する、糸と布の文化を知る上で布に関わる人たちにとって大変貴重な資料となるでしょう。

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機能的な理由から織りの構造を選択するバフティヤリー族

●主な目次内容
◇編――リンキング・ルーピング・インタールーピング
◇もじり――緯もじり・斜めもじり・経もじり
◇交差――斜め交差・たて‐よこ交差
◇機と織――割箸で作る・整経の方法・綜絖・垂れ下げ堅機・先史時代の布・綜絖の出現
◇技法の説明――組紐・スプラギグ技法・結び技法・マクラメ技法・レース・バスケット・カード織・プライスプリット技法・刺繍 など

■布の構造を「編・もじり・交差」に分類し、組織のヴァリエーションを並べて、組織名と英語での用語例を参考に、道具を使わずに布を作る方法から、生産性を高めるために考案した道具:原始機までを説明されています。

【著者 小林桂子さんとは】

●著者 こばやし・けいこ 小林桂子
織物作家。染織研究家。作品はボストン美術館に3点、ザ アート インスティチュウト オブ シカゴに6点、ロードアイランド スクールオブデザイン美術館に6点などに所蔵される。1970年、日本女子大学家政学部住居学科卒業。近藤忠商事にて住宅設計やインテリアデザインの仕事に従事。ここでテキスタイルデザインと出会う。1976年に渡米し、1981年にカリフォルニア美術工芸大学染織学科卒業。1983年、多摩美術大学大学院デザイン科修士課程修了。上野学園短期大学、武蔵野美術大学などで染織学の講師を務める。1993年に「日本古来の織物・染色についての研究と翻訳活動」により、五島美術館より「上野五月賞」を受賞。著作には『19世紀アメリカインディアンの染色』『龍村平蔵生誕百年展』などの図録解説執筆、『袱紗』『京都の近代染織』などの翻訳、季刊「げんりゅう」「手織りの仲間」などの連載。また織物作家としてワコールギャラリーなどで作品展を開催。

織物と織りの構造に関する辞典として使える一冊になりそうです。