追悼! Harald Böhmer氏 〜草木染に一生を捧げた巨人 〜

Posted by tribe on 2018年2月22日

絨毯専門誌『HALI』の最新号を広げたとたん、ショッキングなニュースが飛び込んできました。
草木染の研究とトルコの遊牧民のフィールドに一生を捧げたドイツ人絨毯研究家、Harald Böhmerが昨年亡くなっていたらしいのです。
雑誌『HALI』では彼の長年の親友でもあり、共同研究者もあったイギリス人のJon Thompson氏が追悼文を掲載していました。
Böhmer氏とは2007年にトルコのイスタンブールで行なわれた国際絨毯会議の会場でお会いし、彼の名著『KOEKBOYA』を直接購入したことを良く覚えています。Böhmer氏サイン入りの本は宝物になりました。

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トルコでフィールドワーク中のBöhmer氏

購入した際に細かいお金を持っていなかったのか、おつりより多い50リラ札をニコニコしながらくれたことが印象に残っています。
Jon Thmpson氏の追悼文の最後にBöhmer氏について、最後の最後まで自分の利益ではなく、トルコの遊牧民や他人のための利益を追求した人だったと結んでいます。

絨毯を愛し、生涯草木染とトルコの遊牧民を探求し続けた彼の軌跡を、ほんの僅かですがご紹介したいと思います。
草木染の調査研究とそれを生かした草木染復興運動、さらにはトルコ遊牧民と供に暮らしたフェールドワーカーとしての生涯は、Böhmer氏の偉大なる業績となりりました。

絨毯研究界の二人の巨人

1970年代から欧米では絨毯研究が進み、1980年以降は特にトライバルラグへの関心が高まっていきました。
そんな時代に、英国のJon Tompson氏とドイツのHarald Böhmer氏のふたりは、この世界をリードしてきた巨人と言えるでしょう。
このブログでも何度も紹介している、Jon Tompson氏は手織り絨毯を構造主義的方法で分類し、オックスフォード大学で絨毯学を開設しました。
たくさんの著書を残していますが、『Carpet Magic』は古典的名著として末永く絨毯好のバイブルとなり、絨毯研究の基盤を支えてきたといえるでしょう。

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Jon Thompson氏の本に掲載されたBöhmer氏の写真

かたやHarald Böhmer氏は化学者としての豊富な知識と長期にわたるフィールドワークをタテヨコに織りなした『KOEKBOYA=草木染め』という名著を記しました。
このブログでも何度も紹介しようと思いつつ、あまりにも伝えたいことが多く、手が止まってしまっていました。
二人がどれほど仲が良かったのかは、今では伺いしることはできませんが、最高の研究者同士として意識し合ってことは間違いないでしょう。2007年にイスタンブール行なわれた国際絨毯会議(ICOC)の会場で、二人の巨人が一枚の絨毯を巡って話が弾んでいた光景が目に焼き付いています。

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『KÖEKBOYA』

トルコ遊牧民の草木染の探求

もともと化学についての豊富な知識をもっていたBöhmer氏 は、化学の教師としてイスタンブールのマルマラ大学で7年間教鞭を取りました。大学には専用の草木染のラボがあり、そこでは様々な染料の実験が行なわれたことでしょう。
Böhmer氏 は興味深いアンティーク絨毯を調査研究しただけではなく、古い時代に使われていた染料に着目し、古い絨毯に使われた染料を詳細に分析しました。

化学染料の知識が豊富なだけに、染料研究と調査には卓越した業績を残しましたが、1980年代にはドイツ人の研究者Dr.Werner氏と供に初めての本格的な植物染料研究の書「Rugs of the Peasant and Nomads of Anatolia」という本をまとめました。現代の古典ともなっているその本は、Böhmer氏 代表作となった『KOEKBOYA』の基礎となったことでしょう。彼の代表作『KOEKBOYA』はこれから何回かにわけて、続けて紹介して行きたいと思っています。

草木染復興運動(DOBAGプロジェクト)の創設と成功

Böhmer氏のもうひとつの大きな業績は、トルコの各地の草木染めの現場を訪ね、伝統的技法を取材し、その技法を習い、それを復興したことでしょう。
ドイツ政府組織から多大な支援の約束取り付け、トルコの小さな村での復興運動の基盤を作りました。
それはトルコ各地でプロジェクトの実行できる場所を見つけ、伝統的な染織技法を再生することでもありました。
そのプロジェクトは1981年からイスタンブールのマルマラ大学の芸術学部の助けをかりて、トルコ語での草木染復興運動の頭文字をとった
「DOBAG」プロジェクトとして世界各地に知られることになります。(日本以外で)

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Böhmer氏のNomads in Anatoriaからの写真

当時は、トルコ各地でチープで安っぽい合成染料が広まり、伝統的な草木染が消えて行った時代でもありました。
Böhmer氏が最初に行なったのは、皮肉にもトルコ各地の村人達にどうしたら草木で染めが出来るのかを伝える作業でした。
まもなく、彼はトルコ各地の村々で、古来の染めを知るスペシャリストを見つけることが出来るようになったそうです。
この取り組みは1982年頃には、トルコ各地に広がり、草木染復興運動が少しづつ浸透してゆくことになりました。
この取り組みは、最大の支援国であるドイツはもとより、アメリカやヨーロッパ各地でも活動が共感を呼び、成功を収めることになります。(つづく)

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DOBAGプロジェクトの草木染絨毯

このニュースを聞いて直ぐに、『KÖEKBOYA』 をもう一冊欲しくなりネットで検索したところなんと格安の新品を見つけました。
これまでは安くても170ドル+送料でなかなか手が出せませんでした。そして驚いたことになんと2日で手元に届きました。
これはまさにHarald Böhmer氏のプレゼントかと思えました。

参考文献:HALI Magazine issue.194 .
『KÖEKBOYA』 Natural dye from Turkey  by Harald Böhmer
●『Nomads in Anatoria』 by Harald Böhmer

関連サイト:オックスフォード大学で「絨毯学」を立ち上げたJon T.教授の本を読み解くには?