推薦!トライバルラグを知るための本「Carpet Magic.」

Posted by tribe on 2015年2月26日

よくWEBサイトや雑誌で見かけるモノとは裏腹に「もっとデザイン性の高いモノや本格的なモノはありませんか?」といった質問を受けることがあります。
キリム・トライバルラグなどのテキスタイルを考える上で欠かせない情報源として、一番重要なのは目で見て触れて使って頂くことなのですが、次に「書籍」が挙げられます。
例えば色々な興味あるものに関わる上でお気に入りの本が部屋に置いてあるとテンションも上がりますし、モノそれ自体とは別の形で思い出や生活として残っていきます。そういったスタイルも、テキスタイルやラグの楽しみ方の内のひとつだと思います。

このコーナーでは気軽に見て楽しめるインテリアの写真が充実した洋書から、日本語で書かれたの入門編のハンドブック、テキスタイル研究者による技法解説の専門書まで様々な研究書や雑誌などを紹介してゆきたいと思います。

これまで何度も触れていますが、欧米では50年以上前からオリエンタルラグに関しての研究や調査が進んでいて、圧倒的なヴォリュームかつ質の高い専門書やマニアのための洗練された雑誌などが古くから人気を博してきました。なんとキリム・ラグ・テキスタイルの本を専門に扱う書店多数存在するほどの人気です。日本では考えられないことですよね。ラグやキリムがお好きな方なら是非一度ご覧いただきたい良書を厳選してご案内させていただきます紹介したいと思います。

トライバルラグを中心に手織り絨毯全般が分かる!ジョン・トンプソン博士による珠玉の一冊

まずはじめに紹介するのは学問としての『絨毯学』を提唱し、オックスフォード大学で講義を実現させた絨毯博士Jon Thompson
Oriental Carpets From the Tents, Cottages, and Workshops of Asia 」という長いタイトルの一冊です。
トライバルラグを中心に手織り絨毯全般を知りたい方にはうってつけです。掲載されている写真もテーマや構成がしっかりしていてクオリティも相当に高いので、国内の絨毯関係サイトなどでもかなり引用されています。私にとっても「バイブル」と言って差し支えない必殺の一冊で、もう何度も読み返しているため本自体がすり切れてしまっているほどです(苦笑)。
実はこの本は1983年にロンドンで行われたICOC(国際じゅうたん会議)の展示会図録として出版された「Carpet Magic」に加筆修正を加えて再出版された本で、末尾には地図や用語解説などが付け加えられ、絨毯テキストとしてもグレードアップされています。

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Jon Thompson著「Carpet Magic」

このサイトでも度々登場するICOC(国際じゅうたん会議)とは、世界各地の絨毯やテキスタイルファンが集まり、各方面の研究者の交流を活性化し、オリエンタルラグやテキスタイルを中心にイスラムアートなどの裾野を広げる大きな役割を果たしてきた国際会議です。
言い換えれば、マニア・研究者・ディーラー・美術館のキュレーター達が意見交換することで知識を確かなものにし、新説の検証の「場」ととして愛好家(マニア)にとっては大好きな絨毯や話題が満ちあふれる楽しいイベントと言えます。 同時に研究者や学者にはまたとない研究発表の機会となりますが、1983年のロンドンではJ.Thompson博士が中心となり、オリエントの絨毯が学問としての「絨毯学」として成立するためのプラットフォームを築くための絶好の機会となりました。

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Dr.Jon Thompson
(ジョン・トンプソン博士)
at Hajiji Baba club

織り手の目線で絨毯文化を分類するコンテクストとは?

「Oriental Carpets From the Tents, Cottages, and Workshops of Asia 」は絨毯を織る側の目線から絨毯やキリムを分類し、この世界に新しい1ページを開きました。
それまでに行われていた、地域、文様、時代などによる分類から
1.部族のテント
2.村のコテージ
3.都市の工房
4.宮廷用パレス
という絨毯を織る側の立場や環境に着目し、織り手の目線から絨毯文化をカテゴライズするという方法です。

歴史的な背景や現在に至るまでの絨毯製作の現場を「部族絨毯」をクローズアップすることで浮き彫りにしたともいえるでしょう。掲載されている絨毯、風景、人物の写真がどれも美しく文脈に添ったものになっており、部族のキリムや絨毯と都市工房で織られるものの製作過程やその違いが、ビジュアルでもわかりやすく解説されています。
英語の文章が苦手な方でも、ビジュアルを追っていくことでおおまかな内容が頭に入ってくるようにしっかり計算された構成になっているところもポイントです。

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トルクメンの少女が最初の絨毯「ファースト・ラグ」を織る様子

絨毯を音楽に例えて紹介!

日本では手織り絨毯文化がほとんど無いので、絨毯を研究したり、熱く語ったりするということ自体がピンとこないと思います。ましてや絨毯を分類したり、織られた背景を研究する人達がいる状況やシチュエーションなど国内では見かけませんし、不思議に思えるかもしれませんね。

そういったいきさつから何となく「難解で重苦しい内容なのでは?」と敬遠してしまうかもしれませんが心配ありません。Jon Thompson博士もその辺りをわかりやすく音楽の演奏に例えて紹介しています。

1.トライバルラグ(部族絨毯)ですが、これをフォークソングのシンガーソングライターなどが行うソロの演奏に。
2.コテージインダストリー(村の絨毯)をジャズなどのトリオやカルテットのグループ演奏に。
3.シティーカーペット(都市工房の絨毯)をクラシックなどのオーケストラの演奏に例えています。
個人的には料理にも当てはまるかと考えています。部族絨毯はお母さんの家庭料理、村の絨毯は町の馴染みの食堂、都市工房絨毯は高級レストランのフルコース。少し砕けすぎかもしれませんが毎日食べても飽きないのは家庭の味かと・・・。

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シャーセバン族の女性が水平機でトライバルを織る様子

他にも紹介しきれない程興味深い内容なので、このブログでも引き続いて紹介してゆきたいと思います。

参考文献:「Oriental Carpets From the Tents, Cottages, and Workshops of Asia 」・「Carpet Magic」Jon Thompson著
写真引用: Hajji Baba Club http://www.hajjibaba.org/