💦必ず迷うタブリーズのバザール 旅で見た夢3.
Posted by tribe on 2020年5月23日
北アフリカ〜中東~西アジア〜中央アジアのバザールが大好きです。旅の楽しみの一つがバザールめぐりです!
なぜ好きなのか?理由はたくさんありますが中でも一番気に入っているのが、イラン北西部かつてチュルク系遊牧民のカラコユンル(黒羊王朝)があったタブリーズのバザールです。
ちょうど一年前の5月にタブリーズのバザールで火災が発生しました。ネットに掲載された写真を見ると焼け落ちた建物や天井が映っていて大ショックでした。
不幸中の幸いか、火災で焼けたお店は5500店舗のうちの120店舗だったそうですが、それにしても貴重な世界遺産が損失してしまったことには違いありません。
実際に5500の店舗があったとは驚きでした。
歴史を感じさせる絨毯商達
タブリーズのバザールの数多いお店の中でも、絨毯バザールはとても充実しています。お店も立派なのですが、それにもまして絨毯を扱うバザール商人達が歴史を感じさせる雰囲気を持っています。
入り組んだバザールの中のチャイハネでお茶を飲みながら商談する男達の姿をよく見かけましたが、誇り高く、堂々としていて、イランを代表するバザール商人(バザルガニ)の雰囲気を持っています。
バザール商人達は昔から経済だけではなく、政治にも強い発言力があり、政府もバザルガニ達には一目置いているようです。
慶應大学で経済学を教えてこられた坂本勉氏は「ペルシャ絨毯の道」という絨毯流通の歴史書の中でも、19世紀の終わりから20世紀の初めにかけてタブリーズ商人達の精力的な活動がヨーロッパへの絨毯の普及に大いに関係したと述べられています。
現在でも続いている男性職人による鉤針を使った効率の良いノッティング技術は、ペルシャ絨毯の生産性を向上させ経済の発展に貢献したと言われています。
ヨーロッパへの玄関口としてのタブリーズ
絨毯研究者のJon.Thompson氏によれば、16~17世紀にはすでにヨーロッパにオリエントの手織り絨毯が輸入されていたようです。
1870年頃にはイラン北西部の村や町でヨーロッパ向けの絨毯生産が盛んになりました。その一つが有名な「ツィーグラー商会」です。
それをとりまとめトルコ経由で大量のイラン産絨毯の流通を行なっていたのがタブリーズのバザール商人達です。
この頃に絨毯に出会いその魅力に取り憑かれた西欧人の一人が、「アーツ&クラフツ運動」で有名なウイリアム・モリスです。
その歴史を受け継ぐのが現在のタブリーズの絨毯商で、それでなくても誇り高いイラン人絨毯商の中でも極めつけのプライドが伝わってきます。
バザール自体も格好良く、煉瓦をアーチ形に組上げた天井の高いバザールの屋根から差し込む光が印象的です。
ところがバザールが古いだけに迷路のように入り組んでいて、何度行っても目的地に辿りつかないのです。
恥ずかしい話ですがタブリーズのバザールでは何度迷子になったことか。
何度行ってもまっすぐに目的地に辿り着かないのです。
初めて行った時も迷いに迷って、ふと迷路のような小道に迷いこみ、ふと上を見上げると2階の階段に探していたマーシュアラブの刺繍布が掛けられているという偶然に遭遇しました。
『探していたのは、これだ!』狭い階段を勢い良く駆け上がった事を今でもよく覚えています。
もちろんそのマーシュアラブの刺繍布は入手して今でも手元にありますが、そこはアンティーク絨毯の店が連なる夢のような集合ビルでした。
階段下で天井が低くて頭を低くしないと入れない、たたみ一畳程の店や、300年も続いていそうな趣のある店が並ぶその一角は、これこそがタブリーズというような雰囲気がありました。
その時見つけた老舗アンティーク絨毯屋は、イタリアで活躍する有名なイラン人絨毯研究家のお気に入りの店のようでした。
イタリアのトリノで絨毯専門の雑誌「Ghereh」を出版しているインテリイラン人のMr.Taher Sabahiも懇意の店で、何代に亘って素晴しいコレクションを扱い続けてきた歴史ある店でした。
何代目かと思われるショップオーナーは、アルメニア系の雰囲気で少しクセはありそうでしたが、アンティーク絨毯についての経験豊富なオーラを醸し出していいました。
その店にはその後何年か通う事になったのですが、その時に入手したシスターンバルーチのアンティーク絨毯、シャーセバンスマック織のマフラシュ、コーカサスアンティークキリムは、どれも世界に通用する価値の高いものだと思っています。
異界への扉が開いた?
初めて訪れた年にとても良い物が入手出来たので、次の年もその店を尋ねようとバザールのアンティーク絨毯屋を探したのですが、どこをどう通っても見つかりません。
見覚えのある同じ場所をウロウロと堂々巡りしているのですが、その一角にはどうしてもたどり着きません。
イスタンブールのグランドバザールで同じ状況だったら、何十人の絨毯屋に客引きされるだろうと思うと、想像を絶します。
同様の経験をされた方は多いのではないでしょうか?
ところがイランでは、特に当時のタブリーズでは一切の客引きはありませんでした。
店の男達はあまり見かけない東洋人がうろついているのは知ってる筈ですが、それでも一切声はかけてきません。
これもイラン人特有のプライドの高さか、心の中では売りたい気持ちはあっても表には出しません。そこがイランの魅力の一つでもあるのですが。。。
こちらもあまりに店が見つからないので、ついに英語が話せそうな絨毯屋に場所を聞く事しましたが、それでもなかなかわかりませんでした。
困り果てていたところ、見るに見かねたのか片言の英語を話す男が近づいてきて「どうしたかの?」と声をかけて来ました。
タブリーズで英語が話せるイラン人は少ないので、おそらくバザールで迷っている観光客を贔屓の店に連れて行くガイドかとも思ったのですが、イスファハン、シラーズ、ヤズドなどに比べ外国人観光客が少ないタブリーズでは客引きという生業は成り立ちそうにうもありません。
こちらも言葉がわかる男に、どうしてもそのアンティーク絨毯のある一角へ案内してもらいた気持ちでした。
男は知っているそぶりを見せながら色々な場所に連れて行ってくれるのですが、一向にその店にはたどり着きません。
バザールの中を汗をかきながら2時間も堂々巡りしました。
とうとうバザール内をあきらめて、大通りを渡った一般の住宅街の方に連れていかれる?事になりました。
怪しいと思いながらも男の案内するままに、古い建物が並ぶ一角にあった倉庫のような地下の場所へと移動しましたが、様子がなんだか不思議でした。
天井が丸いドーム型になっていて、まるで地下の洞窟のような感じなのです。そしてその狭い倉庫には数人の男達がたむろしていて、かなり怪しげな雰囲気がしていました。
入ったとたん一瞬怯んだのですが、奥の壁に掛けてある一枚のキリムに目が釘付けになりました。
それは今迄に見た事のないユニークなデザインで、どう見ても宇宙人としか見えないような不思議な造形が織り込まれているのです。
それはH.G.ウェルズの有名なSF小説『宇宙戦争』に出てくる頭がタコのような火星人なイメージのモチーフです。その下には犬のような動物がいますが何故か足が三本です。
それに対して一番上には男性と女性と思われる人物がペアーで織り込まれ、一番下にはノーマルな足が四本ある犬が織り込まれています。
上下はアダムとイブという神話的な現実世界と実在の動物が、中央は宇宙に繋がる異界的な世界が表現されているのではなどと想像力をかき立てられます。
遊牧民がウェルズのSF小説を読んでいたとは思えません。