真夏こそ使って欲しい!〜ヒトに優しい羊毛とじゅうたんの関係〜

Posted by tribe on 2015年7月23日

全国的に梅雨が空け、本格的な暑さになりました。特に大都市では夜になっても気温が下がらない熱帯夜が続き、熱中症の人も毎年増えているようです。
ここ数年はオフィスビルや商業ビルだけでなく、一般家庭もほぼ冷房設備が完備するようになりました。あまり知られていないことなのですが、羊毛製の絨毯やキリムには、真夏の冷房の利いた室内の環境を調整する機能があるのです。

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床材別熱伝導率の比較

夏の冷房の利いた部屋の温度や湿度をコントロールする羊毛

ウールには自然のエアコンの働きがあると言われていますが、約4.5畳の大きさのウールカーペット一枚で牛乳瓶7本分の湿気を吸い取ると言われています。絨毯自体の重量の30%までの湿気を吸い取ってもジメジメしません。

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繊維の吸収率の比較

そのわけは羊毛自体の構造にあります。以前に紹介したウールの繊維のウロコ状の表皮(キューティクル)とスポンジ状の内部(コルテックス)の2重構造まわりの湿度を感知して、自然に開閉して外部の湿気を吸い込んだり吐き出したりする機能を持っているからなのです。

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羊毛の縮れ(クリンプ)

さらにウール繊維はスプリングのように細かく縮れていて、束ねるとその間のすき間に空気層ができます。そのすき間には断熱効果の高い空気がたくさん含まれることで、冬は温かく、夏は冷房から排出される冷気を大量に含むので、エアコンを止めても室温の上昇が遅くなり、涼しさを保つ事ができるのです。ですから冬は温かく感じる羊毛の肌触りが、夏はひんやりと感じらるのです。天然のエアコンとも言える羊毛の効能は、冷暖房費用の節約にも繋がります。

冷房を使用した部屋での換気の問題

石油やガスストーブなどを使う部屋は、換気に注意を払うのは当たり前のことですが、エアコンの場合においが少ないので、ついつい換気を忘れがちです。しかし冷房装置の使用時にも忘れてはならないのが室内換気で、特に新築やリフォームを行ったばかりの室内では重要です。最近の住宅は気密性がかなり高いので、数時間置きに換気が必要なようですが、暑い夏は冷房で冷えた空気が外に逃げてしまうのでついつい躊躇していまうようです。

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空気中のホルムアルデヒドの含有量の比較

実はウールが取り込むのは湿気だけではありません。様々な有害物質を繊維内部に取り込み、安全な他の物質に変換します。新築などに多いホルマリンやホルムアルデヒドなどの有害物資も吸収します。羊毛はタンパク質で出来ていますが、タンパク質には沢山の「手」(塩基、アミノ基、カルボキシル基)があって、様々な物質を取り込むことができるのです。新築宅や改修後の部屋に漂うホルマリン等の有害物質も羊毛の絨毯が吸い込み、臭いもそれほど気にならなくなります。

また冬の場合も石油を燃やすと、かなりの量のホルムアルデヒドが放出されます。FF式を除く石油ファンヒータも例外ではありませんし、ガスコンロも同様です。冬の締め切った室内は外気より空気が汚れているという報告もありますので、「新築じゃないから、大丈夫」というものでもないようです。ウールなら、汚染物質を放出しないだけでなく、吸収してくれるので安心です。

自然素材の羊毛はヒトに優しい

ヒトと羊は同じ恒温動物(暑くても寒くても体温を一定にたもつしくみ)で、ほ乳類です。このしくみは恒常性と呼ばれ、主に、寒いときは筋肉の収縮による発熱、暑いときには汗の蒸発による気化熱を利用しています。
生物としてのヒトよヒツジのルーツは近く、ほとんど同じアミノ酸から構成されています。そのあたりも羊毛がヒトに、安らぎと心地よさをを与えてくれる理由かもしれません。ヒトの体の60%以上は水分といわれますが、ウールは繊維中最大の水分率を誇る自然素材で、かつ湿気の処理がうまいことから、水を弾く石油系の素材とは快適さが違います。

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ヒトとウールの水分含有量

また、タバコの臭いをいちばん吸いつけるのは、髪の毛だと知っていますか?喫煙しなくてもタバコの煙が充満した居酒屋などから帰ると、髪の毛にタバコの臭いがついているがありますよね。これは羊毛とほぼ同じ性質を持つ髪の毛の吸臭性をしめす例です。速効性のある抗菌・殺菌・消臭剤などの化学薬剤もありますが、幼児や老人のいる家庭では、できれば使わずにすませたいものです。『ウール』は生まれながらにして細菌に対する抗菌機能や消臭 機能をもっている天然繊維なので、化学物質を使用することなく自然のままで室内の空気をフレッシュにする、ヒトに優しい素材なのです。

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水分吸収の違い(繊維断面図)

汚れがつきにくく、落ちやすい、さらに足触りが良い羊毛

ウール繊維の表皮をさらに細かく顕微鏡で観察してみると、その表面はエピキューティクルという膜で覆われていて、これが水を弾く性質を持っています。この撥水性によってジュースをこぼしても表面ではじいて繊維内部まで吸収されず、すぐに拭き取ればシミになりません。また繊維内部に含まれる適度な水分が静電気を抑え、ホコリがつきにくく汚れも落ちやすいのです。最近の研究では静電気が人体に及ぼす、免疫力の低下やストレスを溜めやすいなどの影響が指摘されるようになってきました。一年中エアコンを使用する事で室内は乾燥しやすくなり、静電気も発生しやすい環境になっているといえるでしょう。

また、コイルスプリング状になった「クリンプ」というウール独特の縮れによりウールカーペットはふんわりとした柔らかい感触を得られます。踏み心地が良く、一日中ウールカーペットの上で過ごしても、静電気や疲れが溜まりにくいのです。また家具を移動させた押し跡も、しばらく経てば元の柔らかな状態に回復します。

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羊毛の特徴である縮れ=クリンプ

ひとむかし前のすきま風の入る「屋根と柱」構造の日本家屋から、壁が多く、極めて気密性の高い窓やドアを持つ、内と外がはっきりした住環境へシフトした日本は、冷暖房設備の充実もあって夏も冬も快適になったといえるでしょゆうか?材料に使われる化学物質や換気、結露などの新たな問題も出てきているともいえるでしょう。羊毛は自然素材として8000年前くらいからヒトと付き合ってきました。昔の日本にはあまり無かった素材ですが、現代都市の住環境には便利で自然に環境問題にも配慮された素材のひとつではないでしょうか?

参考サイト:NISSIN CARPET カーペット情報
     :カーペット ハッチ  ウールについて
     :Wool mark jp カーペットについて
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     :tribe-log.com 絨毯とハウスダストの関係とは
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