最初で最後かもしれないキリム&スザニコレクションがすごすぎるドイツのオークション!

Posted by tribe on 2016年3月17日

ここ数年で最も注目度の高いオークションが3月12日にドイツのヴィースバーデン (Wiesbaden) で行われました。1884年イングランドで創業したRippon-Boswellというオーククション会社の主催による第2回目のIgnazio Vok collection 通称ヴォグコレクションです。第1回目は昨年の4月11日に行われ、ほとんどが高い評価で落札されたのですが、今回はその第2回目ということもあって、注目度は抜群でした。

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3月12日に行われたrippon-boswell社のオークション

コレクションしたDr.イグナシオ・ヴォクとは?

1938年にスロベニアのリュブリャナ生まれの建築家であるDr.イグナシオ・ヴォクは、ミュンヘンとヴェネツィアで建築を学び現在はオーストリアに在住です。古典と現代ヨーロッパ芸術を学んだ彼は、後にアジアのイスラム文化とアフリカ文化に身を捧げるようになったそうです。イタリア・ルネサンス期の小さな銅像、アフリカの原始的な彫刻、中国の陶磁器と明時代の家具、日本のガラスと漆工芸、1974年頃からはアナトリアとイランキリムならびにスザニを収集してきました。そのコレクションのどれもが高い水準であり、ヨーロッパ各地の美術館で展示会が開催され、各専門家からも高い評価を得てきました。

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ウズベキスタン ブハラ ラージメダリオン スザニ 19世紀

Dr.イグナシオ ヴォグはテキスタイルのフィールドにおいて最も影響力のあるコレクターのひとりであり、黄金時代の欧米の市場を駆け抜けた蒐集家といえるでしょう。彼のようなコレクターが最近まで数多く存在していたことが、トライバルラグやテキスタイルマーケットを支えてきたといえるでしょう。本当に羨ましい世界です。

2015年4月と2016年3月の2回にわたる最高のオークション!

昨年行われた第1回目の87点と第2回の87点を合わせた全174点のうち、50点を超える19世紀以前のウズベクスザニコレクションは圧巻です。現在のウズベキスタンのブハラやイスタンブールでもほとんど見つからないような、逸品ばかりですがどれもが、最高の美的センス、配色、テイスト、技術、コンディションです。1970年代に集めたという解説ですがこの40年間で生産地から蒐集家の元にこれだけ多くが移動したのかを知ることになります。どれもが、愛好家の専門紙『HALIマガジン』の一面や話題の書籍に掲載されていた逸品ばかりです。どうりで現地のバザール等ではほとんど見かけること無く、闇ルートを通じて欧米へ拡散していったことが実感できます。

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Bkhara or Kermina アンティークスザニ 19世紀前半

コレクションの内訳はウズベクスザニ25点、トルコおよび東欧キリム27点、イランキリム24点、コーカサスキリム11点です。おおよそですが、スザニはキリムの約10倍の価格になっています。この要因は限られた地域でしか作られず、ソ連時代ほぼ伝統が消えて行った「幻の布スザニ」のという希少価値が関係しているといえるのでしょうか?
いずれにしても、現在見られる最高レベルのコレクションに間違いないでしょう。昔はオークションカタログを取り寄せるしか画像が見られませんでしたが、今ではネットで高画質の画像が見られます。とくにRippon-Boswell社のサイトは充実していて最高画質の画像が簡単にダウンロードできます。

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Mut-Ermenek Kilim 17th-18th century アナトリアを代表するアンティークキリム
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Bijar Kilim 20世紀前半 イラン西部の町ビジャー周辺のクルド族のキリム

最も競り上がったのは!見たこともないカシュガイ?キリム

今回のオークションはスザニが注目されていますが、実はキリムにも素晴しいものがたくさん出展されています。これまでのコレクションや産地や部族の典型的なデザインや色彩とはまったく違うこれまでに見たこともないようなコレクションアイテムが並んでいます。
個人的に気に入ったのは#lot.160のLuriキリムです。オークションの分類ではLuriとされていますが、上下フリンジ部分に織り込まれたタテ糸紋織りが残っているのでカシュガイではないかと想像しています。いずれにしてもイラン南部ファルス州の遊牧民のキリムらしさに溢れた、ザ・キリムと呼べるような力強いデザザインとメリハリのある配色です。これを織った遊牧民の女性のセンスと技には心から感服します。
見積もり価格は€6,000〜7,500となっていましたが、なんと落札価格は3倍以上の€20,000(約¥2,500,000)と競り上がりました!

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iran fars ruri or qashqai kilim イラン南部ルルキリム

注目のもう一枚は#174Luri or Qashqaiキリムです。こちらはキリムの概念を壊すような大胆なデザインでトルコ語系遊牧民にはあまり見られないタイプのデザインです。ファルス州のカシュガイ族は織り上がったキリムの上に乗っており続けるため、アナトリアの古いキリムに見られるチフカナットタイプ(2枚の細長いキリムを別々に織り、中央ではぎ合せて一枚のキリムに仕立てる)は少ないのですが、#174はよりプリミティブな魅力溢れる2枚繋ぎです。
オークションカタログの解説でもどこの部族や地域にも属なさい唯一無二のキリムであることが繰り返し説明されています。オークションにしては珍しく部族名も曖昧になっています。これもどんな織り手の手によるものなのか想像がふくらみます。
こちらの上のキリム同様に見積もり価格€3,500~4,500でしたが、これは6倍に近い€17,000(約¥2,125,000)で落札されました!

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オークション中の#174Luri or Qashqaiキリム

欧米でも世代交代がうまく進まず、アンティークラグやキリムの市場が高齢化しているという話題を良く耳にしていたのですが、今回のオークションなどを見ているとやはり良い物はそれなりの価格で動いていることを実感します。ドイツを中心とする欧州市場にまだまだ底力があることを感じさせてくれました。

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#174Luri or Qashqaiキリム

200点に近い素晴しいテイストを持つイグナシオ・ヴォクの蒐集品が今回のオークションでバラバラになってしまったのは残念ですが、いつかまとまったコレクションの実物を間近に見てみたいものです。

参考資料:Rippon-Boswell社 VOK II COLLECTION  VOK Ⅰ COLLECTION  
写真引用:HALI magazine LONDON