少し時間が空いてしまいましたが、トライバルラグやテキスタイルに関するモチーフについての4回目です。
前回はボタニカルモチーフ(植物文様)でしたが、今回はアニマルモチーフ(動物文様)の1回目です。
トライバルラグの生みの親である遊牧民達の多くは、文字による伝達手段がなく、文献による記録はほとんど残っていません。
ところがアナトリア・コーカサス・イラン・アフガニスタン・中央アジアなどの遊牧系部族に共通して表現される文様の研究が進むことで、織物に託された形にも記号のような意味があることが解明されつつあります。
家畜と共に暮らす遊牧民にとって動物とは、いつもは家族のように身近な存在ですが、時には家畜やヒトを襲う恐ろしい存在でもあります。
先住民達はさまざまな生き物の「生」としてフォルムを、巧みに文様化しラグや民族衣装の中に表現してきたと想われます。
その代表的な文様が動物の頭モチーフ(アニマルヘッドコラム)です。
この文様は動物や鳥の頭の形を、洗練された幾何学パターンに図像化したものです。
動物の頭文様は、紀元前にイラン西部のザクロス山脈周辺で生まれた世界最古のルリスターン青銅器に関係が深いという研究がすでに行われています。
実際に青銅器に表現された動物の頭や角のフィギアが、そのまま平面となって遊牧民の毛織物の中に織込まれています。
◆3.動物(生き物)文様(アニマルモチーフ)
●アニマルヘッドコラム(動物の頭モチーフ=砂漠で生き抜く知恵の結晶)
トライバルラグに共通するモチーフの中のひとつは、先に紹介した動物や鳥の頭を文様化して、それをさらにさまざまな造形に展開した幾何学的文様です。
部族絨毯やキリムに共通する幾何学的文様は、例えば狼の口、サソリ、ドラゴンなど主にトルコ系キリムのガイドブックにある解説が日本では一般的です。
しかしそれらを全ての遊牧系部族が共通して使用しているとは思えません。
本当の文様の意味は織った人にしか解らないと思いますが、イランやアフガニス中央アジアなどは、部族意識が強く、どちらかといえば各部族に伝統的に伝わった家々の目印のような意味合いが強いように思います。
厳しい生活環境を生き抜くための知恵や教訓、シンボルが形をかえて表現されているように感じます。
<身近な動物>
●羊 (財産、魔除け)
西アジアの遊牧民にとって最もたくさん飼われている家畜は羊です。
乳、肉、羊毛、毛皮など人にとって恩恵をもたらす存在としてかけがえのない動物です。牡羊の角や頭数はさまざまな形となって絨毯や民族衣装に表現されます。
●犬 (安産、多産、忠誠心)
イスラム教ではあまり好まれない犬ですが、遊牧民にとっては羊を狼から守る牧羊犬として、家族のように身近な存在です。
犬は尻尾で感情を表現すると言われていますが、尾を上に挙げた特徴的なモチーフが遊牧民の織るキリムやトライバルラグに表現されます。
最も古い家畜という説がある犬は、遊牧民にとっては欠かせないモチーフです。
●ワイルドゴート
西アジアの山岳地帯に多く生息する野生の雄山羊は、立派な角を持ち遊牧民達には恐れられています。
性格の大人しい羊と比べて、気の荒いワイルドゴードは時として人間を襲う、脅威の動物でもあります。
生え変わる立派な角が生え変わるのが再生を意味することからシャーマニズムの霊的存在を意味することもあるようです。